謹慎処分と栄華
ヴァランティーヌ・ダンマルタン侯爵令嬢は聖女に〝無礼な振る舞い〟をした罪により、当分の間謹慎処分になった。
令嬢は現在王宮に与えられている居住スペースから出ることを固く禁じられ、彼女に仕える僅か二名の侍女と共にひっそりと過ごしている。
しかも謹慎処分なのだから〝過度の贅沢〟は慎むべきだということで、最低限の食事が与えられるだけの生活を令嬢は強いられていた。
一方、パトシリア・コーンウォール男爵令嬢は未来の王太子妃として最上の待遇を供された。
王宮本殿内の広大な一角を居住区としたばかりではなく、王宮敷地内にある離宮を王太子妃殿として与えられることになったのだ。
彼女が望むもので叶えられない事は無く、それこそ思いのままに豪華な生活を送っていた。
婚約発表があった翌日、王太子とパトシリアは彼女の居室で同じソファーに寄り添って座りながら、王室御用達の宝石商が持参した宝石を選んでいた。
王太子が婚約が調った記念として、パトリシアに装身具を誂えたいと申し出たのだ。
宝石商が見せる宝石はどれも最上質の品ばかりだった。
「迷うわね。このエメラルドはネックレスにしたらとても見栄えがするわ。だけどこちらの黄金真珠も捨て難いわね。何と言ってもあなたの髪と同じ色だもの!」
パトリシアが甘える様に王太子の髪を撫でると、王太子はパトリシアの肩を抱き寄せ優しく言った。
「そのエメラルドは君の瞳の色によく似ているね。もちろん君の瞳に勝る宝石などあり得ないけど。パトリシア、どちらも気に入ったのなら両方とも貰おう。そして君と僕の色が並んだ装身具を誂え、君を飾ることにしようじゃないか」
甘い睦言をささやきながら宝石を選んでいると、侍従が走り寄って国王がお出ましになったと伝えた。
王太子は立ち上がろうとしたが、パトリシアが腕を引っ張って自分の隣にいるよう促すと再び座る。
すぐに国王が居間に入って来た。
「聖女様、ご機嫌麗しゅうございます。いかがですか? お気に召した品はございましたかな」
満面の笑みでお伺いを立てる国王に、パトリシアは座りながら愛想良く答えた。
「ええお義父様、とびきりのものがありましたわ。ネックレスが出来るのが楽しみです」
「それはようございました。王太子よ、最高の飾り職人を用意したのであろうな。この際御用職人でなくとも構わぬ。聖女様のお気に召す品を仕立てることが出来る腕があることが、何より大事だからな」
「もちろんです父上。間違いなくパトリシアの好みに合う品を仕立てられる職人を選びました。午後に参ることになっているのですよ。パトリシア、僕は公務に行く。出来るだけ早く切り上げるつもりだよ。本当は君と片時も離れたくないのだが」
王太子が新たな婚約者の肩を抱きながら残念そうにささやくと、国王が笑って息子にこう言った。
「フランツよ案じるな。そなたの役目は他の者に任せることにするゆえ、心ゆくまで聖女様のお側にいるがよい」
父の〝好意〟に王太子はがく然とした顔になり、すぐに反論した。
「何をおっしゃいますか父上! あれは私がやらねばならぬ案件です。他の者に任せるなど……」
必死になって〝好意〟を辞退しようとする王太子に国王は冷然と命令する。
「聖女様のお側に侍侍られる幸福に勝る公務などありはせぬ。あの件は宰相に任せる事にする。よいな」
「しかし……!」
それでも王太子が何か言おうとした時、二人の言い争いを横目で眺めていたパトリシアが言った。
「ごめんなさい、フランツ。あたしと一緒にいたいと言ってくれるのは嬉しいんだけど、あたしもこれからちょっと闇祓いに行かなけりゃならないのよ。ずっと待たせている案件だから、そろそろ行ってあげないと。そういう訳でお義父様、お心遣いは有難いのですが、ごめんなさい」
すると国王は打って変わって笑顔になり、もちろんですと答えた。
「聖女様の闇祓い以上に大事な用などこの世にございませんからな。どうぞ、お行き下さい。これ、近衛兵に聖女様を護衛させろ」
「要らないわ、護衛なんかうっとおしい! ヒーラーに危害を加える者なんかこの世に存在するはず無いもの」
国王の申し出をピシャリとはねつけたパトリシアは、胸の前で両手を合わせると可愛らしい仕草で王太子に言った。
「フランツ、お互いにお仕事頑張りましょうね」
王太子は安堵の色を浮かべたが、すぐ情熱的にパトリシアを抱き寄せて言った。
「ああ、ずっと共にいられたらどれ程良いかとは思うが、私達には崇高な義務がある。パトリシア、二人でこのサンクアロー王国を守っていこう!」
明日も20時頃更新の予定です。
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