友との再会
針のように刺してくる呪いの言葉を、伯爵は大量のブランデーで何とか紛らわせていた。
ヒーラーを差し向けたことで核は相当怒っているようだ。何時にもまして呪いの言葉は伯爵を痛めつける。
後悔の無い人生も、人間関係も無い。核はその後悔を的確に突いてきた。
核は呪い続ける。伯爵がしでかした些細な過ちや仲間内であったちょっとしたすれ違いを大仰に責め立て、伯爵の欠点をあげつらい嘲笑う。
そして伯爵だけが〝外〟でのうのうと暮らしてることを許せないと呪うのだ。
呪う目的はただ一つ。伯爵を自分達の所まで引きずり落としたいから。
それはかつての彼らを思えばあまりにも無残な堕落振りだった。
伯爵にとって何よりも大切な、彼らと築いた懐かしく輝かしい思い出はこの十年間、嫉妬や憎しみ、恨みに穢され貶められ続けてきたのだ。
遂に伯爵があいつらを消そうと決意する程に。
今夜はそれが特に辛辣で激しかった。
伯爵は渾身の気力を振り絞って耐えた。
これが最後なのだと言い聞かせて。
しかし沸き起こる希望は生じる先から握りつぶす。〝彼ら〟にまた会えるなどと、決して思わぬように。
希望を抱いてしまってそれが叶わなければ、自分は恐らく耐えられないから。
そうして耐え続けている伯爵の頭にまた声が鳴り響いた。
〝サミュエル〟
その名で呼ばれた伯爵は身体が震えた。かつて友が呼んだ名を用いて、核は自分をどういたぶるのか。
だが身構えた伯爵は次の言葉に息を呑んだ。
〝サミュエル、会えて良かった〟
(——まさか、あのヒーラーがやってのけたのか)
激しい興奮が目を開けろと急き立てるが、それでも伯爵は固く閉じた目をなかなか開けることが出来なかった。これは新たな拷問なのかもしれないと恐れたのだ。
彼らが帰ってきたのだと喜ぶ自分が絶望のどん底に叩き落されるのを、核共は嘲笑おうとしているのではないか。
それでも十年ぶりに彼らの声で名を呼ばれた喜びと希望は抑えがたく、しばらくためらった後に伯爵は恐る恐る目を開けて〝現実〟を見た。
すると、そこにはかつての友が全て揃っていた。
〝もうこうやって集まれるのは最後だからな。全員揃って良かったよ〟
ヘンリーが笑いながら言った。
いつもの快活な笑顔だ。
〝全く酷い目に遭ったよ。まあ、他の人を巻き込まずに済んだのは何よりだったが〟
〝エルマーのお陰だな〟
〝ああ、こいつが俺達を抑えてくれてたからな〟
皆はこの十年間闇にいた事を、まるでちょっとぬかるみにハマって難儀した程度の軽さで話していた。
そうだ、こいつらはこんな性格だったと伯爵は思い出した。
並の人間ならその事で押しつぶされそうなアクシデントに見舞われても、いつも軽く受け流すのだ。
彼らといればどれだけ行動制限が厳しかろうと、どこまでも行けそうな気がしたものだ。
十年前はそれが当たり前だった彼らの軽口。
もう二度と聞くことは無いのだと固く自分に言い聞かせ続けてきたそれを聞いている伯爵の顔には、徐々に笑みが広がった。
いつも素顔を覆い隠すために張り付かせていたものではない、心からの笑みが。
思い出から汚辱が洗い流され、再び輝きを取り戻していく。
伯爵は四人から少し離れた所で気まずそうにしているエルマーに話しかけた。
「エルマー、私の伝言は聞いてくれたかい?」
エルマーは少し笑って頷くと、こう言った。
〝君も僕と同じような思いをしていたんだね。気付かなかったよ〟
「すまない、私がもっと早く勇気を出して伝えていたら、こんな事にはならなかっただろうに」
後悔を語る伯爵にエルマーは首を振った。
〝僕と同じように君も守りたかったんだろう? 初めて得た光を。君が同じように大事に想っていてくれてたんだと分かって、嬉しいよ〟
エルマーと伯爵が笑い合うと、コンラートが言った。
〝じゃ、俺達はそろそろ行くよ。これから父さんと母さんに会いに行かないと〟
〝俺もマーガレットに会いたいや〟
〝それじゃサミュエル、元気で暮らせよ。あ、でもお前の声はまだ聞こえるからな。返事は返せないけど、もうしばらくの間は話しかけてくれよな〟
口々に別れを告げると仲間達は皆光の玉に変わり、窓から出て行った。
エルマーの光は名残惜し気に伯爵の周りを飛んでから出て行った。
伯爵は彼らが飛んで行った方角をしばらく見つめていたが、やがて執事を呼ぶとブランデーを片づけさせ、代わりに御馳走の支度を命じた。
年代物のワインと、六人分の食器も。
仲間達の魂が彼らでいるのはあと三日間。その間伯爵は友と存分に語らうつもりだった。
明日も20時頃更新の予定です。
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