光へ
それでもペンダントの力無しでは、核に近接しなければ解放は出来そうに無かった。
(こうなれば根競べだ)
さやは四つの核を解放したばかりの疲労を払いのけ、ひたすら核となったエルマーが差し向ける闇を祓い続けた。
すると遂に核の方が我慢出来なくなったのだろう、さやの脳裏に叫び声が響いた。
〝去レ!! 僕ニ構ウナ!〟
初めての核からの接触だ。
これを逃さじとさやも言い返した。
「放っておける訳無いだろうが! もうあんたの仲間は全て解放した。残っているのはあんただけだ。あたしならその闇からあんたを解放してやれる。あたしを受け容れろ! そんな所に一人でいて何になる!」
さやはペンダントの心がそうしたように、説得の言葉に自信の闇祓い能力を載せて核の闇を引き剥がしにかかった。
ペンダントの力が出来る程強力ではないが、それでも言葉にさやの真心が籠れば籠る程、込められる能力も増す。
さやが〝説得〟を続けていると、やがて核を包む闇から僅かだが金粉が舞い始めた。
効果があると見たさやはモップを構えて闇の深部に近づいた。
このまま核を覆う闇を祓おうとモップを振り上げた時、核が弱々しい言葉を発した。
〝……なら僕を消してくれ。お前なら出来るのだろう? それが僕には相応しい。転生する価値など僕には無い……〟
さやはモップを止めた。
驚いたのだ。自分を除去してくれと頼むなど、ここまで〝正義感〟が残っている核は初めてだったから。
さやは核の周りの闇を祓うのを中断した。
どうやらこの状態でも核に自分の言葉は届くようだから。
なら無理に闇を引き剥がして核を刺激するよりも、このまま核の解放に掛かるべきだと判断したのだ。
さやは最大の手札を切る事にした。
「エルマー」
さやは核となった者の名を呼んだ。
闇がザワッと蠢くのを感じながら、さやは言葉を続けた。出来る限り、発する言葉に能力を載せながら。
「エルマー、サミュエルから伝言を預かっている。サミュエルはあんたが闇に吞まれる前にこれを伝えなかった事を、今でも後悔しているようだ。サミュエルの言いたかった事は、こうだ。〝エルマー、もし君達を閉じ込めた闇に君が関わっているなら、それは私のせいだ。私は、君が辛い思いを抱えるのに気付いていた。なのに、君がその思いに蓋をして隠すのを放置した。嫌だったんだ、あの心の底から影を消し去るような光の日々に、少しでも影が差す事が。それぐらい私は惨めな男だった。光を失いたくない余り、君の辛さを見て見ぬ振りをした。私こそ、恐らく君と同じ辛さを抱える私こそが君の辛さに耳を傾けるべきだったのに。最後の旅で君にこの事を伝えるつもりだったのに、出来なかった事が今も悔やまれてならない。どうか許してくれ〟」
闇の動きが完全に止まった。やがて、核の呟く様な声がさやに聞こえた。
〝……あいつも、そうだったのか……〟
さやはモップを持ち直すとなるべく穏やかに言った。
「そのままではあたしには解放出来ない。取り敢えず闇を祓わせて貰うよ。祓いながら話をしようか」
さやはモップで寝室の闇を祓っていった。
光で核を怯えさせてはいけないから、窓の闇には手を付けない。
床をキレイにし、壁の闇を祓う。寝室に光の粒が舞い散るが、核は無反応だ。
「さっきも言ったけど、あんたの友人は解放された。だけど皆ここを動かずにあんたを待っている」
〝……そんな筈は無い。こんな処に閉じ込めた僕を恨んでいるだろう〟
「——そりゃ核になってた時は恨みも増幅しただろうけど、今はただあんたを心配しているよ。良い奴らだね、あんたの友人は」
〝…………〟
「あんたの闇は確かにあんたの友人を吞み込んだんだろう。だけど一方であんたの闇は、核になったあんたの友人が悪さするのを抑えていたよ。だからここの闇は外に広がらなかったんだろう? あんたが悪さをさせなかったから、あんたの友人はすんなり解放出来たんだと思うよ。きっと核になる前のあんたも他人を傷つけないよう、自分を必死で律する男だったんだろうね。だからあんたの友人は、あんたを待っている。消してくれなんて言わないでよ。そんな事になったら、彼らがどれだけ悲しむか」
さやは寝室の闇祓いをあらかた終えた。
残っているのは窓を塞ぐ闇と、ベッドに乗っている握りこぶし程度の黒い塊だけだ。
さやは思い切って窓の闇を祓った。
部屋に強い光が射しこみ、黒い塊が激しく震える。
さやはモップを次元収納袋に仕舞うとベッドに近づき、塊に手をかざした。そして渾身の念を込めながら核に向かって言った。
「行こう。光に焦がれていたんだろう? 今ならその光へ行けるよ」
塊から一気に金粉が飛び散った。金の光が消えると、そこには茶色い光の玉があった。
明日も20時頃更新の予定です。
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