↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
アラサー女の異世界転生チート清掃業~どんなに泥沼の世界でもあたしは折れない  作者: 明烏
第2章

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

87/130

エルマー

 この世界で人が闇に吞まれる場合は二通りある。


 一つは増殖する闇に吞まれる場合。

 もう一つは己の内で生じた闇が、周囲の者も巻き込みながら本人を吞み込む場合だ。

 エルマーのケースは後者だった。


 まだ年少の頃から闇はエルマーの内を蝕んでいた。


 互いに憎しみを抱えながら他人の前では理想の夫婦を演じ続ける両親の偽善の塊の様な姿を見る度に。 

 両親が無理な演技で日々生じる鬱憤の体のいいはけ口として、自分を選ぶ度に。

 そうした惨状を、周りの大人が見て見ぬふりをする度に。

 それどころか「あんな良い親御さんに不満を言うなどとんでもない」と非難される度に。


 闇はエルマーを蝕み続けた。


 エルマーの生活はその闇を抑え込む事だけに終始した。

 自分の内に沸き起こっているものを解き放てばとても悪い事が起こるだろうと、幼い頃から何となく分かっていたからだ。


 エルマーはヒーラーとまではいかないが、少なくとも自分が生んだ闇を統御する事は出来た。

 だから闇を抑え込むことが可能だった。


 しかし闇を抑える事に気力の大半を費やしているエルマーは周囲には無気力で怠惰な男に映り、当然評判は悪かった。


 周囲の嫌悪、侮蔑、嘲笑に晒されることで更に増大する闇を抑える。

 エルマーの生活はそんな綱渡りの上に築かれていた。


 そんな絶望まみれの彼に救いが訪れた。入学した王立大学で得た仲間だ。


 彼らは鬱屈に埋もれていたエルマーの美点に気付いてくれた。そして内にこもりがちなエルマーを外の世界へ連れ出し、その美しさを見せてくれた。

 何より彼らの気取らない、両親とは真逆の嘘の無い気性に触れる事がどれだけ癒しになったか。


 エルマーにとって彼らと遊び、語り、学ぶ日々は、彼がずっと焦がれ続けた光そのものだった。

 いや、敬愛すべき彼らこそ、エルマーにとっては光だったのだ。


 言うまでも無いが、エルマーが今や己を押しつぶしそうな程抱えている闇とは一切無縁な人生を送ってきた彼らに対する嫉妬心は、エルマーにもあった。

 だが己の内にあるそんな感情を、エルマーは全く意に介さなかった。


 そもそも自分は身の内に抱える闇をひた隠しにしているおぞましい人間なのだ。

 だから素晴らしい友に対して嫉妬したり、醜い感情を抱いて当たり前。今更狼狽えたりしない。


 大事なのは、そんなドロドロした感情で大切な友人を傷つけない事だ。


 エルマーは闇と同様に己のそうした感情も抑え込み、友人達にはあくまで無害な感情だけで接した。


 そうした己の葛藤をその友人達に相談するなど論外だった。

 それこそ口に出すだけで、己の内に溜まり続けている闇が吹き出そうだったからだ。

 己の全てを抑え込む事で、エルマーは光の日々を享受した。


 しかし破滅はやって来た。卒業間近に仲間と計画した旅行だ。


 エルマーも当然旅行に参加した。

 人間が心に抱える闇は、表に現れなければ気付かれにくい。その為エルマーの行動制限は他の友人とさして変わらなかったのだ。


 エルマーにとって、この旅行はいつもの仲間内で行うイベントの一つに過ぎなかった。

 今後も仲間との光の日々が続くと信じて疑わなかった。


 いや、信じたかったのだ。


 そんなエルマーは、このホテルで彼らの会話を聞いて凍り付いた。


〝サミュエルが来られなかったのは残念だったな。卒業したらあいつとは滅多に会えなくなるだろう。なんせ、伯爵様になるんだからな〟

〝他の奴らだって、大学を出たらしばらくは仕事にかかりきりになるだろう? コンラートは親父さんの店で修業、サイラスは研究室にこもり切り。こうして皆で集まれるのも、これが最後なのに〟


 この会話でエルマーは初めて知ったのだ。この旅行が、仲間達の事実上最後の集まりだと。


 それまでエルマーにはっきりそうだと告げなかった仲間達に悪気は無かった。

 自分達と同様、言わなくとも分かっていると思っていたからだ。


 分かっていなかったのは、分かりたくなかったのはエルマーだけだった。


 そんな些細な事が、エルマーには致命的だった。

 笑いながら別れを口にする友人達を見た途端、今まで抑え込んでいた為に余計に濃く深くなっていた闇が一気に増殖、そこにいた仲間もろとも吞み込んだ。


 そして今、エルマーはこのホテルで後悔と自責に苛まれ続けている。




 自分に投げつけられた闇をさやはモップで祓い、どうにかして中心部へ行こうとした。

 だが一歩も進めない。もう三十分ちかくこの調子なのだ。


 寝室の核はとにかくさやを自分に近づけさせまいとしていた。

 居間にいた核達のように、さやに憎しみをぶつけることも、闇に引き込もうともしない。

 その代わりさやに自分を祓わせないことに集中しているようだ。


 ヒーラーによってはここで手を引く案件なのだろう、とさやは思った。

 どうやらこの核がこれ以上増殖する気配は無さそうだから。

 危険性があった四つの核を解放した今、この核は放置してもさして害は無さそうだ。


 しかしさやは手を引くつもりなどこれっぽっちも無かった。四つの魂は、いや、伯爵も含めた五人の仲間は、彼(・)を待っているのだ。


 いや、例え誰も待っていなくとも、あの核を解放するのは自分の仕事だ。


明日も20時頃更新の予定です。


面白い、続きが読みたいという方はブックマーク、評価等頂けると嬉しいです。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。