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アラサー女の異世界転生チート清掃業~どんなに泥沼の世界でもあたしは折れない  作者: 明烏
第2章

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目的地で

 さやが思いを巡らせていると、やがて馬車は荒れ果てた建物の前で泊まった。目的地だ。


 元はかなり大きなホテルだったのだろう、豪華な石造りで壁や柱には美しい彫刻も施されている。

 だが今は人気の無い廃虚だった。屋根や壁は壊れ、窓ガラスは割れている。周りは雑草が蔓延り、表玄関の大きな扉にはツタが這っていた。


 それでも外壁に目立つ闇は見当たらない。玄関も封鎖されてはいなかった。


 馬車と護衛兵は建物の外で待機、さやとシリルだけが玄関から中に入って行った。


 内部はどこもかしこもホコリをかぶり、古びた椅子やテーブルが転がっている。

 さやはシリルの案内でフロントを通り過ぎ、ロビーを抜け、階段に向かった。


 三階まで上ったところで先導していたシリルが立ち止まった。さやも表情を引き締める。


 四階へ向かう階段がぶ厚い板で頑丈に封鎖されていた。




「完全封鎖地域は四階にあります。この階段から向かって左側、一番奥の部屋です。恐らく四階に行けばす(・)ぐ(・)分(・)か(・)る(・)でしょう」


 そう言うとシリルは自分の次元収納袋から大きなハンマーとくぎ抜きを取り出して、バリケードの撤去にかかった。


「私はここで待機します。ここからはサヤさんお一人で向かわれて下さい。ただしあなたの手に負えない状況だと判断した場合は、すぐにここへ戻って下さい。退避します」

「——分かった」


 力を込めて錆びた釘を引き抜いていたシリルは、サヤの返事に力が無いのに気付いて振り返った。

 見るとやはりサヤは浮かぬ顔をしている。


 シリルは撤去の手を止めてサヤの傍に寄った。


「サヤさん、何か気がかりな事でもあるのですか?」


 サヤは言おうかどうか少し迷っているようだったが、やがて大きなため息をつくと口を開いた。


「ごめんシリル。こんな土壇場なのに、今になって考えちゃったんだ。この先の闇に囚われている人(・)達(・)を解放したら、伯爵は酷く嫌がるんじゃないかって」

「————」

「だって、あたしが核を解放出来るかもしれないって言った時、伯爵はすごく嫌そうだったんだよ。もう核は除去すると決めているのに、何でそんな余計な提案をするんだっていう意味の事を言われたよ ……あたしは誰が嫌がっても核の為に核を解放するんだって決めているから、それでも解放させるつもりだけどさ。ただ、依頼人は伯爵だから…… 依頼人の意に添わない事を無理にやるのはどうなんだろうって…… だからごめんシリル、ちょっと待って貰っていいかな? 今この雑念を何とか収めるから—— って、どうしたの、シリル?」


 シリルはポカンと口を開けていた。驚いたのだ。サヤが抱える悩みや不安を自分に打ち明けるのは、これが初めてだったから。


「——すみません、ちょっと感動しまして」

「は?」


 眉を上げるサヤにシリルは慌てて顔を引き締めた。サヤが、自分のヒーラーが闇祓いに際して自分に心の迷いを打ち明けてくれたのだ。ガーディアンとして応えねば。


 シリルはサヤを安心させる様に微笑んだ。


「大丈夫ですよサヤさん。核が解放されたら、伯爵は間違いなく大喜びします」

「————」


 疑わしそうに眉をひそめるサヤを納得させる為に、シリルは言葉を続けた。


「サヤさんはこの世界の事をまだよくご存じないでしょうからお分かりにならないのも無理はありませんが、自分に関わりのある核を解放させる事が出来るのは、本当に稀なんです。多くの人々が、核を除去させる選択をどうしても取らざるを得ないのが現状です」

「…………」

「クルーガー伯爵は多分信じ切れていないのでしょう。自分が愛した者達が、解放される事を。だからサヤさんの申し出に嫌悪を示したのです。期待して、やはり除去された時の絶望を受け容れる為に」


 シリルは更にニッコリ笑ってこう付け加えた。


「つまりサヤさんは、必死の思いで諦めた伯爵の前に、それこそ特大の希望をぶら下げたのです。だからその責任はしっかり取って下さい。除去なんてとんでもない! ちゃんと核を解放させて、伯爵を大喜びさせましょう。この先あなたが罪悪感で夜も眠れなくなる未来を逃れる為には、それしかありませんよ」


 サヤは目を真ん丸にしてシリルを見つめ、それから唇を吊り上げて笑った。


「——ずい分簡単に言ってくれるじゃない。まあでも、〝ド新人ヒーラー〟よりは、大分マシだよ」


 シリルはすました顔で返した。


「恐縮です」

「——思い出したよ。伯爵に伝言を頼まれてたんだ。絶対に伝えないと」


 そう呟くとサヤはシリルと共に、バリケードを撤去していった。通り抜けられるだけの隙間が出来ると、サヤは階段の上を見据えた。その目にもう迷いは無い。


「シリル、闇祓いに使える時間はどれぐらい?」


 シリルは自分の懐中時計を見て答えた。


「屋敷へ帰る時間を差し引けば、五時間です」

「了解」


 サヤはイザベラに貰った懐中時計を見て時刻を確認すると、自分の次元収納袋からモップを取り出した。

 そしてしっかりした足取りで階段を上って行った。


 その背にシリルは心の中で語り掛けた。どうかあの時の様に、光を見せて下さいと。


明日も20時頃更新の予定です。


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