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アラサー女の異世界転生チート清掃業~どんなに泥沼の世界でもあたしは折れない  作者: 明烏
第2章

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バリケードの先

 翌朝早く、さやとシリルは依頼された現場に向かった。


 五人の騎士に護衛された馬車は、徒歩とは比較にならない程快適だった。行き交う風景も森や草原ばかりだった迂回ルートとは違い、畑や果樹園、そして例の高い防壁で囲まれた村や街が見える。


 しかし、しばらく進むと前方の道が木や鉄線で塞がれて通れなくなっていた。護衛騎士の一人が説明する。


「あの先は完全封鎖地域です。なのでここは迂回ルートを通ります。」

「‼」


 さやは思わずバリケードの先を見た。

 もちろんここからではそれらしい場所は見えない。

 だがこの先に、闇に吞まれた場所があるのだ。


 バリケードの先を見つめ続けているさやにシリルが言った。


「迂回ルートとは本来、完全封鎖地域になって通れなくなった村や街を避ける為に設けられたものです。私達は迂回ルートばかりを通ったので出くわしませんでしたが、通(・)常(・)ル(・)ー(・)ト(・)で(・)は(・)通(・)れ(・)な(・)い(・)所(・)もありました」


 さやはバリケードの先から目を離さないままでシリルに尋ねた。


「——どうやって選んだの?」

「は?」

「ドアーナ領内には他にも、この先にあるような完全封鎖地域があるんでしょう? あたしが今日祓う現場はどうして選ばれたの? どうして—— この先では無かったの?」


 さやの問いにはもどかしさがあった。自分には祓える可能性があるのに迂(・)回(・)しなければならない事への。


 向きを変えた馬車が動き出す。シリルは遠ざかっていくバリケードに目をやりながら答えた。


「今回の闇祓いの選定については、まだ経験の浅いあなたが非常に限られた時間内で確実に祓える規模の闇という、厳しい条件がありました。街道を封鎖しなければならない程の完全封鎖地域であれば、少なくとも村一つは吞まれているでしょうから条件には合いません」

「…………」

「クルーガー伯爵は今回その条件に合致した闇の中で、自分に関わりのある完全封鎖地域を選びました。領主が行動制限を課せられていれば、領内に様々な不利益を及ぼします。特に伯爵はドラド王国の主流派である内務大臣とは考えを異にする立場。王都への出入りを許可されるという事は、政治的に大きな利があるでしょう」


 淡々と事情を説明したシリルは、最後に付け加えた。


「伯爵は様々な理由に基づいてその闇を選んだのだと思います。もちろん核の呪いから解き放たれる事に、心が動かない者はいないでしょうが」


 シリルの言葉にさやは自嘲の笑みを浮かべた。


「——そうだよね。色んな、事情があるんだよね。あーあ、あたしは、何も知らないんだなあ」




 さや達はマリラ街に到着した。今回一行は通常の検問では無く、護衛兵が伯爵家から発行された闇祓い依頼書を見せるだけで街に入った。


 検問所の兵が期待に満ちた目で馬車の中にいるさやを見やる。

 伯爵家直々の依頼、しかもここまで厳重な護衛を付けられたヒーラーだ。街を悩ます完全封鎖地域を祓ってくれるに違いないと思っているのだろう。


 検問所を抜けると馬車は目的地に向かった。

 馬車の窓から見える街並みの闇は、さやには他の街と同程度だと思えた。少なくともシナ村の様な酷さは無い。


「完全封鎖地域があったとしてもその地に対する関わりが浅ければ、さ程他に影響を及ぼさない闇もあります。今回挑む闇の核は、全員この街を旅行で訪れた者でした。街で発生した闇に吞まれた訳でも無く、汚染度検査でも街に及ぼす影響は少ないとみなされたので、街に課せられた行動制限もシナ村程厳しくはありません。それでも影響や増殖する可能性が皆無では無いので要注意地域ではありますが」

「——うん。魂…… 核がこの街に縁が無い事は、クルーガー伯爵からも聞いているよ」


 さやは魂と言いかけたのを慌てて核と言い直した。

 人の魂を処理物の様に呼ぶのはさやにはまだかなりの抵抗がある。だがこれはヒーラーとして、いやこの世界で暮らす者として慣れなければいけない慣習なのだろう。


 自分には闇に吞まれた魂を解放する力があるが、除去するしかないヒーラーもいる。

 それを除いても吞まれた魂に対するその縁者の葛藤を考えれば、その心をある程度収める為にも区別した呼称が必要なのだと思う。


 クルーガー伯爵の様に。


 十年前に五人が闇に吞まれた時、伯爵や他の縁者達は吞まれた者達の魂を何とかして解放させようと、それこそ必死に核を解放出来るヒーラーを探したという。


 しかし当時でも既に、核を解放出来るヒーラーを手配するのは至難の業になっていた。しかもその闇は危険度も比較的低く、協会に依頼しても後回しにされたのだ。


 それでも伯爵達は諦め切れずに核の解放にこだわり続けた。何年も。


 その間核は縁者に呪いの言葉を浴びせ続け、縁者は不自由な行動制限も課せられる。

 闇に吞まれた愛する者への想いは次第に恐怖や嫌悪、憎しみへ塗り替えられていった。


 遂に耐え切れなくなった彼らが核の除去を願った頃には、世界では核を除去するヒーラーすら不足するようになっていた。

 ましてドラド王国はヒーラー達に忌避されている。


 さやが現われた時には伯爵は何とかして核を除去するヒーラーを、それこそ血眼になって追い求めていたのだ。

明日も20時頃更新の予定です。


面白い、続きが読みたいと思って頂けたらブックマーク、評価等頂けると嬉しいです。

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