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アラサー女の異世界転生チート清掃業~どんなに泥沼の世界でもあたしは折れない  作者: 明烏
第2章

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伯爵の希望

 湯浴みを終えて小ざっぱりとしたワンピースに着替えたさやは、ヒルダがいる客室へ案内された。ヒルダはさやを見ると安堵の色を浮かべたが自分の不安は口にせず、シリルの様子を尋ねてきた。


「さっき起きたところだよ。あたしが出る時はシャワー浴びに行ってたし、体調は問題無さそうだったよ」

「そうかい。そりゃ良かった! シリルさん、一番無理をしてたからね」

「——ごめんね、こんな知らない屋敷でヒルダを一人にしちゃって」


 すまなそうな顔をするさやに、ヒルダは笑いながら手を振った。


「何言ってるんだい、あんな状態のシリルさんこそ一人にしちゃおけなかったよ。あたしなら全然大丈夫さ。むしろ夢みたいな思いをさせて貰ってるよ。こんな立派な部屋に泊まって美味しいご飯を食べて、シャワーなんかもう、あたしは生きてるうちにあんな立派なバスタブを使う時が来るなんざ考えた事も無かったよ」

「ハハ、あれは確かに最高だったね! あたしも久しぶ…… いや、お湯に浸かれてすごく気持ち良かったよ。しかもドライヤ…… 乾髪器まであるなんて、すごかった」

「ああ、ありゃ大したもんだよねえ! あっという間に髪が乾いちまうんだから」


 二人で風呂の話で盛り上がっていると、客室のドアがノックされて執事が入って来た。そしてさやに深々と頭を下げてからこう言った。


「サヤ様、ガーディアン殿が闇払いの件でご足労願いたいと申されております。如何なさいますか?」


 さやはすぐに答えた。


「分かりました、今行きます。ごめんヒルダ、ちょっと仕事の話をして来るから」

「ああ、行っておいで」


 さやが出て行くとヒルダは苦笑しながら呟いた。


「何とかシリルさんと上手くやれるようになったみたいだね。色々あったけど、雨降って地固まる、かな」




 客間にさやが入ると、伯爵と向かい合わせでソファーに座っていたシリルが立って挨拶した。シリルは白いシャツにグレーの上下揃いの衣服に着替えていた。当然髪も顔も綺麗に手入れされている。久しぶりのスッキリした姿にさやも安堵した。


「大体話はまとまりました。サンクアロー王国までの護送や礼金についてはサヤさんから一任されましたので、私が承諾しました。ついてはこれから伯爵が闇祓いを依頼された現場について詳しい説明をされます。サヤさんもお聞きになって、最終的に依頼を受けるかどうかを決めて下さい」


 シリルの言葉にさやはうなずくと、シリルの横に腰かける。それと同時に伯爵は話を始めた。


「頼みたい場所はここから馬車で半日程行った街にある。建物の一室が十年前から完全封鎖地域になっていてね、闇祓いして頂きたい。闇に含まれている核の数は五つ。全て私に関わりがある核だ」

「!!」


 さやは思わず伯爵をまじまじと見た。伯爵の顔は平静そのものだ。


 シリルからこの世界では闇に吞まれた魂を〝核〟と呼ぶことは教えられている。

 魂は闇に吞まれると、本来の性質とはまるで異なる悪霊になり果てる。だから魂とは区別する為にそう呼ぶのだとシリルは言っていた。


 シリルは闇祓いの現状についても教えてくれていた。


 完全封鎖地域の闇払いを行う際、闇に吞まれた魂は解放せずに除去、つまり消滅させる場合が多いのだという。魂を解放出来るヒーラーは少なく、また解放するのは除去に比べて非常に労力が掛かる為だ。


 特に闇の侵食が激しくなった昨今では一々解放させていてはとても闇を食い止められず、殆どの場合核は除去しているのだそうだ。


 そんな状況では〝核〟という名称はうってつけだった。人々は自分に言い聞かせるのだ。

 あれは同胞では無い、〝核〟という化け物だと。


 そうは言ってもさすがに身内が核となった者は、中々割り切れないものなのだろう。それはヒルダや村長の葛藤を見ていたさやにも分かる。


 伯爵は淡々と説明を続けた。


「——関りがあると言っても血縁では無いのだがね。それでも時折この別邸や本邸の闇を通して恨み言を聞かされるのだよ。そのため私には若干の行動制限が課されている。王都には出入り出来ない状況だ」


 クルーガー伯爵はまるで家の破損個所について相談しているかのような口調で話を進めていた。その様はかつて親しい者だったはずの核に対して、何の感情も抱いていないように見える。


「そういう身の上では何かと不便が多くてね。何とかしたいのだ」


 伯爵が口を閉じると、今度はシリルが代わってさやに説明した。


「サヤさん、今回の闇払いに際して核は〝除去〟で構わないと伯爵は仰っておられます。いかがですか? お引き受になりますか?」


 さやはゴクリと唾を呑んだ。伯爵は微笑んでいる。相変らず詐欺師の様に。


 そんな伯爵をしばらく見つめたさやは、少し考えてからこう言った。


「分かりました。お受けしましょう。ただし条件があります。私に、伯爵殿のお人柄を知る機会を頂けますか」


 さやの申し出に伯爵は目を見開き、そしてにやりと笑った。


「なるほど、私の人柄をね…… いいよ、私も美しきヒーラー殿と親睦を深められるのは大歓迎だ」

明日は20時10分更新の予定です。


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