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アラサー女の異世界転生チート清掃業~どんなに泥沼の世界でもあたしは折れない  作者: 明烏
第2章

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先輩の助言

「サヤ―― 君のヒーラー殿だがね。君が彼女に捧げようとした〝犠牲〟について、彼女は一度も自分には分不相応だという反応は示さなかったよ。ガーディアンとしてそこまで自分に奉仕する君を何としても背負うのだという意気を、私はあのヒーラー殿から感じた。私は何度か様々なランクのヒーラー殿と面談する機会があったがね、君が捧げる程の犠牲を受けて立てるのは、高ランクのヒーラー殿だけだろう」


 伯爵は再び詐欺師的な笑みを浮かべてシリルに言った。


「どうしようか? 私の疑問をそのまま所長に話してみようか」


 シリルは涼しい顔で自分の前に出された紅茶のカップを取り上げると、一口飲んでから答えた。


「私も所長と同意見です。何故内務大臣殿がここまでサヤさんにこだわるのか、見当もつきません。同国人のあなたにすらお分かりにならないのなら、なお更です」


 シリルはカップをテーブルに置いて話を続けた。


「いずれにしてもヒーラー殿には各々事情がおありです。そしてガーディアンはヒーラー殿が望みもしないのに不躾な行為をされる事を、酷く嫌います。それは自分が仕えるヒーラー殿でなくとも同じ事です。内務大臣のなされようは論外としても、そうした者に対しては私も他のガーディアンに注意喚起をしなければなりませんね」

「——要らぬ詮索はするなと?」


 目を細める伯爵の問いには答えず、シリルは微笑みながらこう言った。


「一方で依頼遂行時の依頼人の対応やその国で受けたもてなし等で強い好感を抱いた場合は、その情報も全ガーディアンに通知される事があります。現在伯爵殿にはサヤさんの苦境をお救い頂き、大変感謝しております。私としてはその旨を他のガーディアンに周知させるかどうか、熟慮しております」


 伯爵はじっとシリルを見ていたが、やがてカラカラと笑いだした。


「分かった。確かに大臣と所長の見解の相違など、私にはどうでも良い事だ。所長は今回あなた方を保護する事と引き替えに、私の領地をドラド王国に対する制裁からは除外対象とすることを確約した。だがそれだけではいささか心許ないと思っていたのだよ。ガーディアン殿から優良地域として他のガーディアンに推奨して貰えるなら、こんな有難いことはない」


 シリルは取引が成立した証に軽く頭を下げ、伯爵が希望している闇祓いに話を戻した。


「我々は出来れば仮登録を再更新せずにサンクアロー王国へ入国、仮登録有効期間中に王都の協会支部で本登録を済ませる心づもりでおります。有効期間は残りあと七日。伯爵様の仰る通りの日数で到着出来るとしても、予備日も含めれば伯爵様のご依頼に割ける時間は移動時間も含めて丸一日が限度です。一日で達成出来る闇払いならば、お受け致しましょう」

「——完全封鎖地域の闇払いを頼む場合は、どの程度の規模までなら可能かね?」


 シリルはシナ村の教会でサヤが見せた闇祓いではサヤもかなり強固な意欲を示していた事を考慮して答えた。


「サヤさんは能力が発現してまだ間もないヒーラー殿です。その分能力発揮が状況や体調などで大きく左右される可能性も考慮しますと、内包される〝核〟の数は十個が限度でしょう」


 核とは闇に吞まれた魂を指す。十という数を聞いた途端、それまで全く表情の読めなかった伯爵の目が激しく揺らいだ。伯爵はしばらくためらった後に、意を決した面持ちでシリルに言った。


「ならば頼みたい場所がある」




 伯爵と闇払いの細かい打ち合わせをしながら、シリルは居酒屋で先輩にガーディアン候補生として悩みを相談した時の事を思い出していた。


 喧騒渦巻く店内でシリルの悩みと愚痴をひとしきり聞き終わると、先輩ガーディアンはシリルを慰めるように肩を叩きながら誰にも気取られぬよう、さり気なくシリルに紙片を握らせた。シリルがチラリと先輩を見ると、先輩も目で合図する。


 シリルはしばらく先輩にしょうもない愚痴をこぼしてからトイレに立った。個室に入って渡された紙片を広げると、こんな事が書いてあった。


「今日あなたを呼び出した一番の目的はね、これに書いてある事を伝える為なの。殆どあり得ない事態だけど、高ランクヒーラー殿のガーディアンに就任する可能性が高いガーディアン候補生には必ず伝えるようガーディアンの間では決まっているから。いい? もし今から挙げる条件に全て合致したヒーラー殿のガーディアンにあなたが就任する事になったら、その方が実際にお持ちの能力を絶対に協会に報告しては駄目よ。出来ればCランク、ギリギリでBランク程度に抑えた能力だと報告しなさい。本部への露見は心配しないで。もしあなたがそういう状況になったら、私達ガーディアン全員が秘匿の為にあなたに協力することになっているから。何故なのかは、あなたがガーディアンになれば分かるわ。ガーディアンならこの勧めに従って正解だったと必ず思うから。承諾したなら左手で頬を触って」


 指定されたヒーラーの条件も含めてメッセージを全て読み終わると、シリルは持っていた点火具で紙片を燃やし、灰をトイレに流してから出た。席に戻るとシリルは酒を飲みながら、不自然に見えないよう左手で自分の頬を触った。




 サヤのガーディアンに就任して以来、シリルは先輩に勧められた事に従って行動した。サヤはまさしくあの紙片に記されていた条件に全て合致するヒーラーだったからだ。


 シリルはカナン街の出張所で仮登録する際サヤの能力について、サヤが浄化能力者で核を解放する力がある事、そして二(・)か(・)月(・)か(・)け(・)て(・)シナ村の闇を祓った事だ(・)け(・)を報告した。

 完全封鎖地域になっていた教会の闇が突如増殖した事、サヤが教会の闇自体は内包された核も含めて僅か三時間で祓った事は全て伏せた。


 シナ村の者には村長に頼んで口止めして貰った。村長もそれがサヤの為だとシリルが言えば、納得してくれた。そしてドラド王国側がシナ村で実際に何が起こったのかを、協会に報告する可能性は殆ど無い。しかも礼金が絡まないのだ。協会がシリルの報告を不審に思う事も無いだろう。


 基本的にヒーラーの成果報告は過大に報告すればもちろん発覚しやすく大問題になるが、過少申告は案外バレにくかった。


 しかも祓った期間と規模は正しいのだ。シナ村の行動制限が解除した事も、ちゃんと報告している。


 それに仮登録におけるヒーラーの能力測定は、能力があるかどうかの確認だけだ。能力のレベルまでは考慮されない。


 その盲点をついて、シリルはサヤの能力を誤魔化した。所長もガーディアンが能力を過少申告する可能性など、想像すらしないだろう。

 そんな真似をしてもガーディアンには何のメリットも無い筈だからだ。


 あの先輩は何故そんな真似をしなければならないのかについては教えてくれなかった。恐らくそれは協会の禁忌に属する情報なのだろう。


 それでもシリルは彼女の指示に従うことに何のためらいも無かった。

 何故なら彼女は、骨の髄までガーディアンの価値観で出来上がっているからだ。

 その彼女がガーディアンなら従うべきだと明言して出した指示だ。従わなければガーディアンである自分は間違いなく後悔するだろう。


 シリルが出張所で待機するべきだという所長の勧めを撥ねつけてカナン街を発ったのは、再登録の際に行われる協会本部の調査を恐れたからだ。


 所長が今回の一件を協会に報告するだけなら、サヤの能力はそれ程注目されない筈だった。

 所長はあくまで、これまでも協会所属のヒーラーに対して強引な引き留め工作を行ってきたドラド王国が、遂にルール違反にまで踏み込んだという点だけを問題視しているからだ。


 だからサヤの能力についても、登録したてでどのランクになるかまだ分かっていない不確かな能力のヒーラーすらドラド王国は強引に手に入れようとしたのだと、ドラド王国の暴挙を強調するものとして取り上げられるだけで終わるだろうとシリルは踏んでいる。


 しかし仮登録の有効期限内に本登録出来なかった場合はその理由を、当然サヤに主軸を置いてかなり念入りに調べられることになるだろう。

 それでドラド王国側の関係者にまで調査が及べば、サヤの本当の能力が発覚する可能性は格段に跳ね上がる。そんな事態は絶対に避けたかった。


 とはいえカナン街を出て内務大臣にギリギリまで追い詰められた際は、シリルも自分の行為をかなり後悔したものだが。

 本来なら伯爵が指摘した通り、手厚い保護がサヤに与えられていた筈だから。


 サヤが本登録を済ませて自分が今度こそ正式にガーディアンになれば、何故あの先輩がシリルにこんな指示を出したのか理由が分かるだろう。そしてその後は他のガーディアン全てがサヤの能力隠ぺいに協力してくれるのだ。


 何とかなるとシリルは思っていた。

明日は20時更新の予定です。


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