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アラサー女の異世界転生チート清掃業~誰もが何か隠してる(180話以上完成済)  作者: 明烏
第2章

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最後の盾

 シリルが戻って来た。慌てて気を引き締めるさやに、シリルは無表情で言った。


「申し訳ありませんが休憩はこれで終わりです。行きましょう」

「——分かった」


 さやもニコリともせずに答える。ヒルダに肘で小突かれるが、とてもじゃないけど愛想良くは振舞えなかった。


 さやが立ち上がるとシリルはサッサと歩きだした。さやとヒルダは慌ててついて行く。


「ハハ、まあ、早くドアーナに着くのは良い事ですよ。あたしは井戸水が恋しくてねえ」


 場の空気を良くしようとしているのだろう、ヒルダが精一杯明るい声で話を振るが、さやもシリルも無言だ。ヒルダも気まずそうに口を閉じ、その後は三人とも黙って歩き続けた。

 疲労と疑心暗鬼が三人に重く圧し掛かっていた。


 一時間程歩いただろうか。さやは後ろから一台の馬車が近づいて来るのに気付いて驚いた。全ての村や街を迂回するルートを進んでから、他人に出くわすのは初めてだ。

 ヒルダも気付いたのか、立ち止まって後ろを振り向こうとする。するとシリルが今まで発したことの無い厳しい声で言った。


「立ち止まらないで。そのまま歩き続けて下さい」


 その言葉と口調で、さやもあの馬車が何なのかを察した。

 三人は足を速めるが相手は二頭立ての馬車だ。敵うはずが無い。


 やがて馬車は三人を追い抜いた所で停まった。中から男達が出て来てさや達の前に立ち塞がる。

 八人だ。全員が張り付いたような笑みを浮かべていた。


 八人の中で一番大柄な男が、前に進み出ると言った。


「大分お疲れのようですね。良かったら俺らの馬車に乗って下さい。行きたい所までお送りしますよ」


 さやは火照った顔がスーッと冷えていくのを感じた。トレント地方では色々妨害されたが、こうして誰かが接触してくるのは初めてだ。


 さやはヒルダと目配せし合うと、きっぱりとした口調で言った。


「いいえ、結構です。どうかご心配なく」


 ヒルダも声を張り上げた。


「あたし達は大丈夫なんで、構わないで貰えますか」


 男達は笑みを張り付けたまま言った。


「まあそう仰らずに。冷たい飲み物と果物も用意してありますよ」


 するとシリルが険しい顔で言った。


「ヒーラー殿が行きたくないと言われているのだ。それを無理強いしたらどういう事になるか、分かっているんだろうな」


 すると男達の顔から笑みが消えた。大男は暗い目で言った。


「悪いが、もう俺らは引き返せない所まで来ているんだよ」


 男達がゆっくり近寄る。


「……あんたら正気かい? 協会に登録しているヒーラーに手を出すなんて……」


 ヒルダが信じられないと言った顔で呟く。だが男達は歩みを止めない。


「別に手荒な真似はしませんよ。ただそこのヒーラー様に、ちょっと俺らの馬車に乗って頂ければいいんでさあ」


 暗い目をした大男がそう言うと、シリルがさやとヒルダの前に立ちはだかった。だが大男は馬鹿にしたように笑う。


「こっちは八人だぜ? あんたは格闘の訓練を受けているだろうが、俺達だって場数を踏んだ奴らばかりだ。そっちの女もヒーラー様も、戦力にはならないんだろう? それにどうやらあんた、フラフラじゃないか」


 シリルは男達を睨みつけながら、唸る様に言った。


「——ああ、腕力では敵わないだろう。だが忘れたか? ガーディアンはヒーラー殿にとって、最後の盾だ。だからお前らでは絶対に手に入らない物も、所持している」


 そう言いながらシリルは腰に下げてある長方形の小箱の蓋を外し、中に入っている物を取り出し構えた。

 それを見た男達の顔色が変わる。この世界ではハンターとガーディアンだけが持つことを許されている、銃器だ。


 男達は怯えた様子で後ずさりした。それでも大柄の男が引きつった顔で叫ぶ。


「だ、大丈夫だ! 幾ら拳銃でも八人全員の足を止められる訳がねえ! そいつが二、三発ぶっ放す隙に他の奴らで抑え込めば何とかなる。奴にはもう戦う力なんざ残っちゃいねえからな!」


 するとシリルは凄まじい殺気の籠った眼で男達を睨み据えると、静かな口調で言った。


「一歩でも動いてみろ、そいつの頭を打ちぬく。命中させるのは簡単だ。射撃の訓練はガーディアン候補になった時から嫌というほど受けてきたからな。お前らだって、まだ今の人生を捨てたくは無いだろう?」


 男達が真っ青になった。大柄の男ですら後ずさる。

 しかしさすがはリーダー格、恐怖を振り切る様に叫んだ。


「で、出来る筈がねえ! 殺されそうになって止むを得ず手を掛けるのとは訳が違うんだ! 俺達にあんたらを殺すつもりなんか毛頭ないのは分かるだろう⁉ そんな人間を殺せば、あんただってタダでは済まないだろうが!」


 そう言われてもシリルが発する殺気は微塵も揺るがなかった。

 シリルは低く笑い、こう言い放った。


「そんな事は承知の上だ。人を殺した者の闇は深い。俺はガーディアンの任を解かれ、行動制限の厳しい収監所へ送られるだろう。だがそんな事はどうでもいい。自分のヒーラー殿を守れるなら、俺の処分など些細な代償だ」


 目を血走らせたシリルは男達に銃を向けたまま吼えた。


「何人にもヒーラー殿の御意思は妨げさせない‼ ヒーラー殿の特性など何も考慮せずに己が意のままに使役しようとする者など断じて近づけさせん‼ どんな手段を使おうとな!」


 渾身の咆哮だった。その場にいた者は戦慄した。心底信じ己の全てを捧げた信条こそが出せる気迫が、男達をその場に縛り付けた。


 シリルは駄目押しの様にもう一度男達を睨みつけると、打って変わった優しい口調でさやに話しかけた。


「お待たせして済みませんでした。行きましょう」


 さやとヒルダは無言でシリルについて行った。


「止めろ!! 奴は本気だ! 手を出すんじゃねえ!」


 背後で大男が怒鳴るのを聞きながら、三人は足早にその場を立ち去った。

明日も20時頃更新の予定です。


面白い、続きが読みたいと思って頂けたらブックマーク、評価等頂けると嬉しいです。

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