よそよそしい関係
その後シリルは拳大の芋の皮を剥こうとして親指程の大きさに変え、ドンドン鳥の肉を丸ごと火に投じて黒焦げにしたところでようやくヒルダと料理係を交代することを承知した。
「——料理が苦手なら言って下さいよ。せっかくのドンドン鳥が勿体ない」
料理人志望のヒルダは高級食材を台無しにされてかなりお冠だった。しかしどんより落ち込んでいるシリルを見るとため息をついて、それ以上言うのを止めた。
さやもさっきまで目の前に繰り広げられていたシリルの破壊活動に、まだ心臓がバクバクいっていた。自分だって料理はそれ程得意じゃないが、シリルの下手さはレベルがケタ違いだ。
そしてさやはようやく納得した。何故シリルがガーディアン候補として顔合わせしたヒーラー全てに拒絶されたのかを。
おかしいとは思っていたのだ。
確かにシナ村での闇祓いにおけるシリルの言い草には、さやも腹が立った。だがそれもちゃんと理由があっての言動で、それを理解出来たヒーラーも全くいないわけでは無かったと思うのだ。
それにこの数日シリルと行動を共にしてみて、さやはシリルが十分優秀なガーディアンだということも実感していた。
危機に際してシリルの優れた判断力が無ければ、さやが内務大臣の妨害をすり抜ける事は不可能だっただろう。シリルが自分とヒルダに極力負担がかからないよう気を配ってくれているのもよく分かる。
さやの意見も、出来るだけ尊重してくれているとも思う。
だから顔合わせしたヒーラーの一人ぐらいはシリルを気に入る者がいてもいい筈だがどうして、とさやは解せなかった。
だが、それもあの料理を見れば、納得だ。
「……顔合わせしたヒーラー殿皆さんから言われました。お前の料理を食べるくらいなら生肉にかぶりついた方がマシだと。ガーディアンが料理を担当しない場合、別に専属の料理人を雇う事になります。その経費を負担することをヒーラー殿に嫌がられました。それにこうした非常事態では、どうしてもガーディアンが料理することになりますから……」
そこまで言ったところでシリルは両手で抱えていた膝に顔を押し付ける。肉の焦げをナイフで削り落としていたヒルダが慌ててシリルを慰めた。
「ま、まあ誰にでも欠点はありますよ。シリルさんは他の点じゃあとても頼りがいのあるガーディアンなんだから。ね、サヤ!」
話を振られたさやも慌てて何度も頷いた。シリルが頼りになるガーディアンだということは、文句なく同意出来る。
料理の腕前さえ除けば。
だからさやもシリルを慰めた。
「とりあえず料理の事は心配しないで大丈夫だよ、ヒルダがいてくれるから。ヒルダの料理はすごく美味しいんだよ。ね、ヒルダ」
「おだてたって何も出ないよ。でもまあシリルさん、料理はあたしに任せて下さいよ。何にもしないでサヤにひっ付いているだけじゃ、あたしも気が引けますからねえ」
シリルは笑い合うさやとヒルダを見ていたが、やがてヒルダに言った。
「それでは料理については申し訳ありませんが、ヒルダさんにお願いします。その方が良いのでしょう」
最後の言葉を口にした時、シリルは酷く寂しそうだった。
さやとシリルは湧き水の所に来ていた。使用した調理器具や食器はシリルが一人で洗うと主張したのだが、ヒルダがさやに同行しろと強く主張したのだ。
「なるべく時間を節約した方が良いんでしょう? なら二人でやった方が早いですよ」
そんな理由を付けてはいたが、要は自分とシリルが共に行動する機会をなるべく作ろうとしているのだな、とさやは察した。
ヒルダはさやがシリルに対して距離を置きがちなのが、どうにももどかしいらしい。何でヒーラーが自分のガーディアンに対してそんなによそよそしいのかと、事ある毎に叱られる。
さやは自分の横で黙々と皿を洗っているシリルを見た。
この青年と初めて会ってから一週間。ガーディアンの契約を結んでからだとまだ四日だ。どんな人物かなど、分かりようも無い。
それでも今行動を共にしていて、とても頼りになるのは確かだ。料理以外は。だからこの青年を自分のガーディアンに選んだ事を、さやは後悔してはいない。
当初の最悪な印象に比べれば、シリルに対する感情は大分改善されているのは間違いない。
それにレナ街へ向かう途中でシリルが見せた笑顔は結構可愛かった。あの時だけは、シリルと腹を割って話せたと思う。
その時の事を思い出したさやは気付いた。
そう言えば、その後シリルが心から笑うのを見ていない事に。それにあれ以来、シリルとは必要な事以外で言葉を交わしてもいない。
まあとてもじゃないが、気楽に笑っていられるような状況では無いのは確かだが。
(あ、でもヒルダとは普通に笑い合ってるな)
ヒルダとシリルでは、やはりどうしたってヒルダの方が話しやすい。シリルだけが蚊帳の外に置かれる状況も、多少はあるのかもしれない。
そうは言ってもさやはヒルダが苦言を呈する程、シリルに対する自分の態度が悪いとは思わなかった。さやなりに結構気を遣っているつもりなのだ。まだ知り合って間もないのだし、よそよそしくなるのも仕方無いではないか。
さやが色々考えを巡らせていると、不意にシリルがさやの方を見たのでさやはドキッとした。
別に疚しい事を考えていた訳では無いのだが。
シリルは口を開いて何かを言いかけて、止めた。そしてまた前を向いて皿を洗う。
その表情は、元気が無さそうに見える。
何と声を掛ければ良いかとさやが悩んでいると、シリルが前を向きながらこう言った。
「後悔しているのではないですか?」
「え?」
いつも読んで頂いてありがとうございます。
明日より作品の質向上の為、今まで1日2話更新だったのを1日1話、20時頃更新に変更します。今後は原稿のブラッシュアップにより力を入れていきたいと思いますので、楽しんで頂けると嬉しいです。
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