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アラサー女の異世界転生チート清掃業(180話以上完成済)  作者: 明烏
第2章

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大惨事

 こうしてさや達の逃亡生活が再開した。徒歩で三週間のうちに隣国サンクアロー王国の王都にある協会支部に到着して本登録を済ませなければならないという、とんでもない強行軍だ。

 しかもかなり無茶な馬車旅をしたばかりである。やっと安心出来ると気を緩めた途端にこの状況は、さやも堪えた。


 それでもヒルダもさやも、自分達の疲弊や不安は極力口に出さなかった。自分達よりロクに休めていないシリルこそダメージが大きいのは、分かっていたからだ。


「いやあ、まさかこんな短い間にここまで広い世界を見れるなんて、思ってもいなかったよ。行動制限が無いってのは大したもんだねえ」

「ホント、シナ村だけしか知らなかったのが何だか嘘みたい」


 明るく声を張り上げるヒルダに、さやも笑顔で相槌を打つ。


 二人はシリルに余計な負担を掛けまいと、強いて元気な態度を取り続けた。カナン街を出た三人はサンクアロー王国へ向かってひたすら街道を歩く。


 道は草原を通り、林を抜ける。街道なのに、歩いていても人里を感じさせるような物は一切無かった。途中の街や村にも大臣の手が回っている可能性を考え、シリルが迂回ルートばかりを選択したからだ。


「ここトレント地方は内務大臣の領地内です。危険は避けるに越した事はありません。もちろん全ての村や街を迂回していては期限内にサンクアロー王国にたどり着けませんから、トレント地方を抜けた段階で通常ルートに戻る事にしましょう。トレントに隣接しているドアーナ地方の領主は、大臣とは反対の立場にある方だと聞いています。ドアーナに入れば妨害を心配する必要は殆ど無くなるでしょう。上手くすれば馬を借りられるかもしれません」

「分かった、ドアーナまでの辛抱だね。よし、頑張るぞ!」

「その調子だよ! サヤがそうやって威勢が良いと、あたしまで元気が出るよ。シリルさんもそう思いませんか?」


 さやとヒルダは笑い合い、励まし合って辛い歩き旅を耐え忍ぶ。それに対してシリルは必要な事以外殆ど喋らなかった。

 シリルとは出会って間も無いのであり、気心が知れるまではそんなものだろうと思うさやはあまり気にしなかったが、ヒルダはそんなシリルが気がかりなようだ。

 ヒルダは口の重いシリルに何かと声を掛けては会話の仲間に入れようとするが、シリルは最低限の言葉を返すだけだった。


 そんな調子で二日間は何事も無かった。しかし三日目の昼食が終わった時、シリルが思いつめた様子で持参した携帯食が無くなったとさやとヒルダに伝えた。

 そのまま食べられる携帯食が無くなったという事は、料理の時間が必要になるということだ。その分今まで以上に負担は増える。とはいえ無いものは仕方ない。


「——そうか。でも、食材の方は十分あるんでしょう? だったら大変だけど、これからは料理する時間を稼ごうよ。もう少し早く歩くか、休憩時間を削って出発時間を早めるか。ヒルダ、大丈夫そう?」

「まあ何とかなるよ。あたしも大分歩くのに慣れてきたから」

「じゃあシリル、休憩は切り上げて早く出発しよう」

「——はい」


 シリルは浮かぬ顔で答えた。




 昼食後、三人はすぐに発った。若干歩みを速めたお陰もあり、夕暮れにはまだ早い頃合いに休憩場所になる森に着く事が出来た。

 流石に疲労困憊してその場に座り込むさやとヒルダに、シリルは決然とした面持ちで言った。


「お二人とも休んでいて下さい。今料理に掛かりますから」

「シリルさんの方こそ休んで下さいな。食事の支度はあたしがやりますよ」

「いえ、これはガーディアンの務めですから」


 シリルは即座にヒルダの申し出を断った。しかし、その顔は何故かこれから死地に向かうのかと思うほど悲壮感に満ちている。


 さやとヒルダは顔を見合わせた。ヒルダが目配せしたので、さやは食材の入った自分の次元収納袋をシリルに渡した。

 こういう事の積み重ねが信頼の証になるのだろう。


「分かった。じゃあ、頼むね」


 シリルはやはり緊張した面持ちながら、料理に取り掛かった。シリルが食材や調理器具を確かめている間に、さやとヒルダは薪になる枝を拾い集める。

 そのついでにさやが小川を見つけ、生活用水も確保出来た。飲料水は持参しているが、節約するに越したことはない。


 さやとヒルダが薪を抱えて戻って来ると、シリルが取り出した食材をじっと睨みつけていた。見ると大きめの肉の塊と、鶏卵の倍くらいの大きさをした緑色の卵だ。


「お、ドンドン鳥の卵と肉じゃないか。いきなり豪勢だねえ」


 ヒルダの声が弾んだ。どうやら高級食材らしい。出張所の所長は食材を大盤振る舞いしてくれたようだ。

 それを聞いたさやは期待に胸を膨らませた。携帯食にもいい加減飽きていたからだ。


(何作ってくれるんだろう。オムレツだといいなあ)


 目を輝かせて見守る二人の前でシリルはまず火をおこし、携帯用のフライパンを載せた。そして大きく深呼吸してから卵を一つずつ両手に持つと、フライパンに二つとも力一杯叩きつけた。

 当然卵は飛び散り、フライパンに残った身も砕けた殻と入り混じってしまう。


 期待は一瞬で悲鳴に変わった。

次は22時頃に投稿します。


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