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アラサー女の異世界転生チート清掃業~誰もが何か隠してる(180話以上完成済)  作者: 明烏
第2章

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鏡の顔

明日も20時と22時頃に更新します。


面白い、続きが読みたいと思って頂けたらブックマーク、評価等頂けると嬉しいです。

 翌日、さやが起きたのは昼近くだった。

 二日ぶりのベッドの寝心地があまりに良過ぎてそのままいつまでも布団に包まれていたかったが、これも丸二日殆ど何も入れていないお腹が空っぽだとしきりに訴えてくる。


 それに身体もキレイにしたかった。清掃員だったさやは清潔には特に気を遣っていたから、余計にホコリまみれの身体が気持ち悪い。

 さやは隣で眠り込んでいるヒルダを起こさないようにベッドから降りると、寝室を出た。


 さやがいるヒーラー専用の休憩室は居間と寝室にトイレ、水洗所に食堂まで付いていた。家具や内装も華やかではないが、恐らくかなり上質なものなのだろう。

 シリルの姿は見えないので、他の部屋で休んでいると思われた。


 水洗所に浴室を見つけたさやは喜んだ。しかもシャワーがある。

 早速入ると熱いお湯で思う存分ホコリと汗を流した。石鹸はヒルダの家でも灰汁と動物の脂で手作りした柔らかいものがあったが、固形の石鹸を使うのはこの世界に来て初めてだ。


 まだランクも決まっていない仮登録のヒーラーの為の施設すらこれだけ充実しているのを見ると、ヒーラーは大切にされているのだと改めて思う。

 ともあれ泡立ちの良い石鹸で身体の汚れを落とす事が出来て、さやは生き返る思いだった。


 スッキリした気分で浴室にあったバスローブを羽織って外に出ると、ちょうどヒルダが欠伸をしながら寝室から出て来た。さやを見ると欠伸を止める。


「おはよう……って時間じゃないか。で、首尾はどうだった? あたしはすぐ寝ちまったから分からなくって」

「あれからすぐ登録手続きに入って、ちゃんと承認されたよ」


 さやがそう言うと、ヒルダはみるみる安どの色を浮かべた。


「そりゃ何よりだ! これであんたも安心だね。あー、もう逃げ回らないで済むと思うとホッとするよ! ……で、その格好だとあんた、身体を洗ったのかい?」

「うん、シャワー、あるよ」


 さやがニッコリ笑ってそう言うとヒルダは目を輝かせ、自分も浴びて来ると洗面所にすっ飛んで行った。

 それを笑顔で見やると、さやは身づくろいをしようと寝室の大鏡の前に行った。着替えを済ませて髪を整える。


 大体身なりを整えると、さやは改めて鏡に映る自分の姿をじっと見つめた。

 ヒルダの家では鏡など無かったので、こうして転生後の姿をじっくり見るのは実は初めてなのだ。当然だが、かつての自分とはまるで違う姿の少女が映っている。


 前世の自分よりは幾分小柄だ。砂漠でこの少女に会った時よりは、少し髪が伸びた。あれからそれなりに手入れしているので漆黒の髪は艶やかだ。

 そして空の様な青い瞳。あの時も整った顔立ちだとは思ったが、傷や汚れが無い分美しさが際立つ。


 前世の自分とはあまりにも違う容貌に、さやは鏡の少女が自分だとは実感出来なかった。


 ただ、鏡の顔に少女を看取った時に感じた儚げな雰囲気は欠片も無かった。

 キリッと引き締められた口元と目に強い意志が宿るその顔は、むしろ凛々しさと強靭な生命力を感じさせる。

 その表情にさやはようやく〝自分〟を感じた。


 これから自分は一生この身体と付き合っていかねばならないのだ。慣れなければ。


「どうしたんだい? 穴の開くように鏡なんか見て」


 振り向くとガウンを着たヒルダが怪訝な顔をしていた。


「——いや、あたしってこんな顔をしていたんだなあって思って」


 さやの言葉にヒルダは眉をひそめた。


「何だい、まさか自分の顔まで忘れちまってたのかい?」

「ハハ、そうみたい」

「全く難儀なことだねえ。まあ自分の顔なんて、そのうち見慣れるから大丈夫だよ」


 さり気なくさやを励ますとヒルダは話題を変え、シャワーと店売りの石鹸を使ったのはジョゼフとの新婚旅行以来だと笑った。


「やっぱりヒーラー様は違うねえ。ところで食事は出して貰えるのかね? あたしはもう腹ペコだよ」

「どうだろう? 多分軽食ぐらいは出して貰えると思うけどなあ」


 さやが恐る恐る出入り口のドアを開けてみると、外側のドアノブにカードが掛かっていた。カードには食事等を希望する場合は食堂にあるベルを鳴らして欲しいと書いてある。まるで高級ホテル並みだ。


 ヒルダの身支度が終わったところで食堂に行き、テーブルに置いてあったベルを食事希望の場合の回数だけ鳴らす。

 すると十五分くらいで食事が運ばれてきた。カリッと焼いたパンにサラダ、ゆで卵に薄切りにした燻製肉やスープまである。勿論冷たいミルクと紅茶もあった。

 さやとヒルダは歓声を上げる。


 さやはシリルも呼んだ方が良いだろうかと思った。シリルとは仮登録を済ませてから一度も会っていない。

 さやの疑問に給仕している職員が答えた。


「ガーディアン殿でしたら隣の控室で休んでおられます。御用がある場合はこちらの紐を引いて下さい。控室にあるベルが鳴りますから」


 そう言って職員は、壁にぶら下がっている紐を指し示した。さやとヒルダは顔を見合わせる。

 少し考えたヒルダが言った。


「シリルさんも疲れ切っているだろうよ。あたし達が馬車でうたた寝している間も、ずっと寝ずの番だったみたいだからね」

「そうだよね。もう心配事も無くなったんだし、気のすむまで寝かせてあげようか」

「それが良いね。少なくとも今日一日ぐらい、そっとしておいてあげよう」


 そうと決まった二人は遠慮なくブランチを堪能した。食べながら二人は今日一日どう過ごすか話し合った。


「腹ごしらえも済んだし、ここの所長さんが許可してくれるならあたしはちょっと街へ出たいんだけどね。これから必要になる物も、少しは揃えたいし」

「そうだね。あたしも着替えの衣類が欲しいや。これしか無いもんなあ」


 そう言ってさやは自分が着ているワンピースを見る。シナ村を出た時のままの格好だ。何しろ急な出立だから、ヒルダもさやも着替えの類など持ち出す余裕は無かったのだ。


 それでも二人とも有り金だけは持って来ていた。特にさやはシナ村の闇祓いで得た礼金のドーラ金貨二十枚が手つかずなので結構フトコロは暖かい。

 必要な物資ぐらいは問題なく手に入れられるだろう。


 ヒルダが嬉しそうに目を細めた。


「——カナン街で買い物か。またこんな遠い処まで行ける日が来るなんて思いもしなかったったよ。さやのおかげだ」

「こっちこそヒルダに付いて来て貰って、本当に有難いよ。ヒルダがいるだけで安心出来るもの。それじゃあ出ても大丈夫ってことになったら、二人で街見物しよう! 美味しい店とかにも行ってさ」

「良いね! 珍しい料理とかあるなら、味を見てみたいよ」

「ま、外出が駄目なら駄目で今日はここでゴロゴロしよう。あー、もう逃げ回らなくても良いと思うとホッとするよ!」


 二人で笑いながらフラグを立てまくる―― ではなく今日の予定を話し合っていると、突然入り口のドアが乱暴に開け放たれ所長が駆け込んで来た。見るとその顔は青ざめている。


 所長はさやに一礼してからこう言った。


「サヤ殿、お休み中のところまことに申し訳ありませんがガーディアン殿をお呼びください。緊急事態です」

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― 新着の感想 ―
おもしろいです。 丁度、気になる所で終っているので 今後の展開が楽しみです。
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