シリルの理由
すみません、少し投稿が遅れました。
いきなりドストレートに悪意を告げられて唖然とするさやに、シリルは平静な口調で理由を説明した。
「怒りは恐怖を和らげますから」
「…………」
「汚染度検査であなたの闇祓いの成果と闇祓いに向かわれる際のあなたの意気を拝見して、あなたならあの教会に巣食う闇を祓える可能性はあるとは思いました。ただ成功するかどうかはギリギリの状況だろうとも」
「ギリギリ?」
「ええ。僅かでも意気が削がれれば、恐らく失敗すると判断しました。増殖する闇に恐怖心を抱こうものなら、それだけで闇祓い能力は格段に落ちます。だから出来る限り、あなたを闇祓いに挑める精神状態にしたかったのです。私に怒っている間は多少は恐怖が薄らぐかと」
「…………」
確かにシリルの言う通り、シリルへの怒りで闇に対する恐怖が大分薄らいでいたと思う。むしろさや自身も初めて経験する凶悪な闇への恐怖から心を逸らすために、積極的にシリルへの怒りで心を満たすようにしていた事は否定できない。
ギリギリの危機的な状況であったのは間違いない訳で、やむを得ない非常手段だったのなら仕方無いのかもしれないとさやが納得しかけた時、シリルはさやから受け取った水筒を自分の次元収納袋にしまいながら、何かを思い出すような顔で言った。
「私は今までに何人ものヒーラー殿と顔合わせ致しました。その際私はヒーラー殿の能力が高まるよう、様々な試みをしました。闇祓いの際に私に怒りを抱くように仕向けるのも、その試みの一つです」
(へ?)
「これは最も効果的でした。私が怒らせた方は、格段にその能力が増していましたから。だから今回失礼ではありますが、ああした言動をさせて頂きました」
これにはさやも呆れた。どうやらシリルを罵倒しながら闇祓いしたヒーラーは、自分だけではなかったようだ。
そしてさやはシリルの言葉に引っかかるものがあった。
「——ちょっと待って。ヒーラーと顔合わせしたってことは……」
「はい、ガーディアン候補として、何度か選定に参加しました」
それであんなに手慣れた対応が出来たのかとさやは腑に落ちた。一介の調査員でありながら、さやがガーディアンになってくれと宣言した直後にアデラを鮮やかに制圧し、その後もさやの為に最善の行動をごく当たり前にこなす手並み。
調査員とはそういうものなのかと事情を知らないさやは思っていたが、全てはシリルにガーディアン候補の経験があったからこなせたのだろう。
しかしそうなると更に気になることがある。
「それじゃ顔合わせしたヒーラーとはどうなったの?」
「どなたかが私を選んで下さっていたら、私は此処にいません」
「……そうなんだ。ハハ、相性が悪かったのかな」
内心冷や汗をかきながらフォローしようとするさやに、シリルはやっぱり平静な口調で答えた。
「皆さん闇祓い後すぐに〝あんな言い方はないだろう〟とお怒りになって、私を断られる方が多かったです」
「そうなんだ……」
シリルの答えには乾いた笑いしか出なかったが、それでもさやは多くのヒーラーがその事だけでシリルを断ったのは、ちょっと意外だった。
ヒーラーとは我儘な者が多いのだろうか。
「でもそれは酷いね。シリルは自分がどうしてヒーラーを怒らせるような事を言ったのか、ちゃんと理由を話したんでしょう? あたしだってそりゃど新人なんて言われた時は腹が立ったけど、こうして理由を聞かされれば納得出来るし、自分の為に言ってくれたんだと思えばすぐに断るなんて……」
「理由はどなたにもお話していませんよ」
「は⁉ 何で⁉」
シリルの言葉に唖然とするさやにシリルはきっぱり答えた。
「闇祓いの後は他にすべきことが多々あります。後処理や依頼主と協会への報告、何より闇祓いで疲弊されたヒーラー殿をフォローすることが最優先です。私の言動に対する弁解などしている余裕など全くありません」
「…………」
選んで貰う立場で相手をわざと怒らせた上に、その理由も話さないガーディアン候補。さやはめまいがした。
何から突っ込んでいいのか分からないでいると、シリルは白む空を見つめながら噛み締めるような口調で言った。
「世界に存在するヒーラー殿がここまで少ない状況では、ヒーラー殿各々が最大限の能力を発揮して頂く必要があると私は思っているのです。その為なら私はどんな助力でもするつもりです。憎まれ役を演じるぐらい何でもありません」
「…………」
「もちろんヒーラー殿の御意思は尊重されるべきです。そうした私の考えが、顔合わせしたヒーラー殿に受け入れられなかったのは仕方のないことです。それでも私が補佐したヒーラー殿が私の働きかけでその能力を向上させる事が出来たのなら、こんな嬉しい事はありません」
迷いの無い顔でそう言い切ると、不意にシリルはさやに尋ねた。
「如何ですか? あなたに対する私の働きかけは、幾らかでもあなたの闇祓いに役立ちましたか?」
その顔はとても真剣だったので、さやも真面目に思った事を伝えた。
「そうね。まあ、やる気にはなったよ」
すると、シリルの顔がパッと輝いた。本当に嬉しそうに笑ったのだ。
「そうですか! 良かった!」
さやは驚いた。それまで傲慢とすら思える程表情を崩さなかったこの男が、まさかこんなに感情を露わにするとは思わなかったから。
次は22時頃に投稿します。




