運命なんだよ
あれだけ緊迫した状況で闇祓いに向かうところを、ああも嘲笑された恨みはそうそう忘れられるものではない。棘のある言葉を言ってくるような奴に四六時中傍にいられるのかと思うと、かなり気が滅入る。
そして闇祓いを終えた後に急変した態度。何ていうか、補佐を任せるにはあまりにも不安要素が多いのだ。
「……あの、シリルさんにちょっとお聞きしたいことがあるんですけど」
「シリル、でいいです。ヒーラー殿がガーディアンに敬語を使う必要はありません」
「分かった。じゃあ、あたしのことはさやさんと呼んで。あのね、決してあなたが駄目と言う訳じゃないんだけど…… ほら、今回あたしって、かなり突発的にガーディアンを決めたじゃない? それって大丈夫なのかなあって思って。だって話を聞いていると、ヒーラーとガーディアンは常に行動を共にするものなんだよね? 例えば仮に、そう、仮にだよ。今後あなたとあたしの相性があまり良くない事が分かった場合、別の人にガーディアンを代わって貰うというような事は出来るのかな?」
シリルは表情を変えずに答えた。
「可能ではあります」
するとヒルダが慌てて口を出した。
「サヤ、馬鹿な事を言うんじゃないよ! ヒーラーとガーディアンの契約は、本当に神聖なものなんだよ! ちょっとそりが合わないぐらいで、そう簡単に替えられるはずが無いだろう! それこそ運命と言っていいぐらいの関係だってことは、あたしだって知ってるよ。だからあの検査官もあんた達に手出し出来なかったんだからね」
「ソウナノ、ウンメイナンダ……」
(こいつとずっといるのか……)
さやはげんなりした。しかし替えられないなら仕方ない。
(確か村長はガーディアンとは住まいを別にすることは可能だと言っていたよな。だったらせめて、日常生活ではこの男となるべく関わらずに済むようにして貰おう)
さやがそんなことを考えていると、松に似た大木の前に来た。大トネの木だ。
「ここで休憩しましょう。ただ申し訳ありませんが、十五分だけです。このペースならあと一時間半も歩けばレナ町に着く。そうすれば馬車に乗れるので、もう少し辛抱して下さい」
シリルがそう言うと、二人は倒れるように道端に座り込んだ。その横にシリルも腰を下ろすと持っていた水筒をさやに渡した。
さやは数口飲んだところで何とか耐えてヒルダに渡す。ヒルダも少しだけ飲むと名残惜しそうに水筒をシリルに渡し、服が汚れるのも構わず寝転がった。すぐに寝息が聞こえる。無理も無い。寝ずに夜通し歩いているのだ。
「心配無用だよジョゼフ…… あたしはへっちゃらだから」
寝言を言うヒルダにさやは微笑んだ。ひょっとすると魂の記憶が消えない三日間なら、夢の中でなら魂と会話出来るのかもしれない。
さやはニレの幹にもたれながら、次第に光を増していく山際を眺めていた。するとシリルがさやに再び水筒を渡して言った。
「全部飲んで構いませんよ」
喉がカラカラだったさやは有難く頂くことにした。さやが水をラッパ飲みしていると、シリルが話しかけてきた。
「サヤさん、ヒルダさんはああ言っていましたが、もしあなたがガーディアンの交代を希望されているのであればそうしましょう」
さやは水を飲むのを止め、思いもかけない事を提案したシリルを見た。
シリルは微笑んでいる。少し寂しそうに見えるのはさやの気のせいか。
「今回あなたと私の契約は、あなたが仰ったようにあまりにも突然の、いわば緊急避難的なものでした。本来ヒーラー殿がご自分のガーディアンを決める場合は何人もの候補と顔合わせし、共に闇祓いも経験した上で慎重に選ばれるものです。それを会ったばかりでどんな人柄かもロクに知らぬ者では、あなたが不安に思われるのも無理は無い。分かりました。協会の出先機関に辿り着いた段階であなたと私の仮契約を解消し、改めてガーディアン候補を選定するよう手配しましょう」
そう語るシリルは、さやの気持ちを誠実に気遣ってくれるガーディアンだった。闇祓い直前に見せた傲慢な態度は、やはり闇祓いを終えた時から鳴りを潜めているようだ。
あの侮蔑的な言葉を投げつけた男と、ひたすらさやを気遣う今のシリル。一体どちらが本当の彼なのか。
さやは改めて気付いた。確かにシリルの言うように、自分はシリルの事を全く知らないのだと。
なら確かめるべきだろう。少なくとも疑問に思っている事は。
さやは口を開いた。
「その前に一つ聞きたいんだけど。シナ村であたしが闇祓いをする時に、どうしてあんな事を言ったの?」
「あんな事?」
怪訝な顔をするシリルにさやは思い切り顔をしかめて言った。
「ド新人ヒーラー」
「——ああ、あれですか」
シリルはフッと笑った。
「あれはあなたを怒らせる為です」
「は⁈ 何で⁈」
明日は20時と22時頃に更新します。
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