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アラサー女の異世界転生チート清掃業~誰もが何か隠してる(180話以上完成済)  作者: 明烏
第1章

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ルールはルール

 村長は愕然とした。だって検査官二人には、この手で自分が普段服薬していた強い睡眠薬をたっぷり盛ったのに。


 青ざめる村長を見てアデラは冷笑した。


「私がここにいるのが意外ですか? 確かにベイルは幾ら起こしても目を覚ましませんでしたよ。全く、これだから汚染度検査は気が抜けない」


 村長は臍を噛んだ。この世界に関する知識が殆ど無いサヤをあまり弁が立つとは言えない自分が説得するには、じっくり時間を掛けて説明する必要がある。

 だが弔いに気を取られている筈の自分が動いたと悟られれば、当然ドラド王国の検査官達も高官の到着を待たずにサヤを説得しようと駆け付けるだろう。


 下手に彼らと鉢合わせした場合、論戦にでもなればまず勝ち目は無い。アデラもベイルも話術が得意そうだ。

 それに向こうはサヤと契約に持ち込めさえすれば良いのだ。だからどんな誇張も曲解も、躊躇なく使うだろう。そして彼らに言いくるめられたサヤが契約に同意でもしようものなら、もう取返しがつかない。


 そう考え、少なくとも自分がサヤに説明している間は邪魔が入らないようにと薬を使ったのだが、却ってアデラに悟られてしまったのだ。まずい。サヤにはまだヒーラーに関する事情を殆ど話していないのに。


 とにかく事情を説明せねばと村長はサヤの方を向いた。

 しかし村長が説明するのに適切な言葉を考えているうちにアデラはサヤに駆け寄ると、如何にも気遣うような表情を見せながら優しい口調で言った。


「ご無事のようですね。間に合って何よりでした」


 あたかも村長達がサヤに危害を加えようとしていたかのような口振りだ。更にアデラはサヤの目を真っ直ぐ見つめると、誠実さがにじみ出るような口調で言い立てた。


「サヤ様、お聞きになりましたでしょう。この者達は結託し、公正な立場である我等検査官を陥れようと図りました。何故なら記憶を失い、この世界の事情を全くお分かりではないあなたを協会に取り込もうと目論んでいるからです。それも全ては協会に恩を売り、この村に便宜を図って貰う為。恐らく定期的に闇祓いを行って貰う取り決めを結んだのです」


 村長はあ然とした。まさかアデラがこんな酷い嘘までつくとは思わなかったからだ。


 あまりにも想定外の卑劣さについ絶句してしまったが、村長はまずいと気付いた。相手はサヤを騙してでも自分達から引き離そうとしている。阻止せねば。


「で、出鱈目を言わないでくれ! シリル殿がこの村は向こう二十年闇祓いの必要は無いと仰って下さったじゃないか! あんたも了承しただろう!」


 声を荒げる村長をアデラは一笑に付した。


「は? 何を言ってるんです? そちらこそこの方が何もご存知無いからといって、出まかせを言わないで下さい。サヤ様、確かに今回の検査でこのシナ村は国内における完全な行動の自由を許可されました。しかしそれも一年、いや半年後にはどうなるか分からないのが闇の恐ろしさです。あなたもご自分が祓った闇が、一気に復活した様をご覧になったでしょう? しかしさすがに高い能力をお持ちのあなたをこの貧しい村にいつまでも留め置くことは出来ない。だからあなたを協会に売る見返りとして、確実に闇祓いを受けられる利を選んだのです」


 真っ赤な嘘をさも本当であるかのように、アデラはサヤに言いたてた。村長が抗弁しても全て嘘だと切り捨てる。サヤに記憶が無いと知った上での強硬手段だ。


 村長は悟った。アデラはサヤが此処にいる協会調査員に協会への登録を希望しないよう、何としてでも村長に不信感を抱かせるつもりなのだ。そうしてサヤに協会への登録を思い止まらせた上で、ドラド王国の高官の到着を待つ。そうすればこの場の力関係は一変するから。


 今はシリル調査員が最も立場が上だ。だからアデラもシリルを憚って、サヤを〝説得〟することしか出来ない。だが協会調査員の権限を上回る地位にあるだろう高官が来れば、権力で自分達をサヤから排除する事も可能になる。


 そうしたらサヤにはアデラが流す情報しか入らなくなる。まだ年若く、しかもこの世界の事など何も知らないサヤがその情報を信じてアデラが勧めるだろうドラド王国との専属契約を了承してしまえば、もうサヤはドラド王国に取り込まれるしか道が無い。

 待っているのは自由とは無縁の籠の鳥の生活だ。村を救い自分達の愛する者を解放してくれた大恩人を、断じてそんな目に遭わせる訳にはいかない。


 村長は何とかして口の上手いアデラに対抗しようとした。だが焦れば焦る程、通り一遍の文句しか浮かばない。やっとの思いでひねり出した言葉がこれだった。


「サヤ様! そんな女の言う事など、信じてはいけません!」


 アデラは眉を顰め、大げさにため息をついた。まさしく誠実な者が嘘つきに心を痛めている風情だ。


「サヤ様、この者達とは離れることをお勧めします。これ以上御傍にいさせたら、どんな世迷言を吹き込まれるか分かりませんよ。私達は決してあなたの意思を曲げる事もあなたの不利益になるような事も致しません。その証拠に私の様な一介の検査官の話では心もとないだろうと判断し、この国の内務大臣に出向いて頂けるよう王都に要請しました」


 村長は愕然とした。まさかそんな大物を寄越すとは。そうなったらもう自分達にはどうしようも無くなる。


「サヤ様、出来ましたら大臣から話をお聞きになって下さい。あなたが今後十分満足出来る待遇が得られることを、きっと納得して頂けると思います。これでお分かりでしょう。一介の調査員だけで話を勧めようとする協会と、我が国との違いが」


 協会についてここまで出鱈目を吐かれようと、シリル調査員は何も言わなかった。それは何も知らない者が見たら、図星を指されて言葉を失っているようにしか思えないだろう。

 だがヒーラーがその去就を決める際の約束事を知っているこの世界の者からしたら、シリルの態度は協会の一員としてこの場で絶対にそうあるべき姿だった。


 ヒーラー協会は、ヒーラーの自由を徹底的に保証する。それはそのヒーラーが協会に登録するかどうかを決める事についてもだ。

 ヒーラーが協会に登録するのはヒーラーの完全な自由意思で無ければならない、というのが協会の方針なのである。

 その方針と、何とかして自国にヒーラーを取り込みたいという各国の思惑が絡み合った結果、協会の関係者はヒーラーに対して協会へ登録するようアピールする事を一切禁じるという取り決めが出来上がったのだ。


 従って協会関係者は他勢力がヒーラーを勧誘している場に遭遇した場合は、オブザーバーに徹しなければならない。

 許されるのはせいぜいそうした勢力が複数いて、いずれかの勢力が他の勢力を不法に排除しようとした場合にそれを止めるぐらいだ。だからアデラも今のところは村長たちに手が出せない。

 しかしそれもその協会関係者――今はシリル――を上回る権限を持つ者が排除を命じれば、排除が可能になってしまう。


 ヒーラーが協会に登録するメリットと一勢力の専属になるデメリットがこれだけ世間に知られている状況では、ヒーラーが協会に登録するのは当たり前。

 にも拘らず一勢力の専属になることをそのヒーラーが望むのなら、それは相応の理由があるのだろう。 

 だったら協会はその意思を邪魔するべきではない。

 そうした理念がこの取り決めを協会が承知した最大の理由だった。

 この世界に関する知識が殆ど無いヒーラーの存在など、全くの想定外なのである。


 しかしルールはルールだった。そのルールをアデラは悪用しまくっているのだ。

今日は予定を変えてすみません。明日は間違いなく20時と22時頃に更新します。


面白い、続きが読みたいと思って頂けたらブックマーク、評価等頂けると嬉しいです。

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