半日前の出来事①
今日は2話投稿の予定でしたが、1話追加で投稿します。
村長がサヤの下へ行く半日前のこと。
村が救われた日、ケビンは喜びつつも困っていた。村の行動制限がどうなるか、全く分からなかったからだ。
制限が緩和されるのは間違いない。
だがそれがどこまで緩和されるのか、ひょっとして自分がハンターを目指すことが出来る程の行動の自由を得られるのか、ケビンは知りたくてたまらなかった。なのに今は知る術が無いのだ。
何故なら村はどの家も亡くなった身内や親しかった者を弔うことで頭が一杯で、行動制限がどうなるかなど知ろうとする大人が皆無だったからである。
転生に向かう前の魂は三日間はまだ死ぬ前の心を保ち、その魂を気に掛ける者の言葉が聞こえるとされている。だから村人は悪霊から愛する者に戻ってくれた魂に話しかける事が出来る最後の機会を逃すまいと、皆弔いに没頭していた。
行動制限がどうなるかなど、今はとにかく自分達が救われたことさえ分かれば後回しにしても全然構わなかったのだ。
ケビンの家だって祖母を弔っていた。
ケビンも勿論祖母ちゃんと最後の話をしたい。だからこそケビンは行動制限がどうなったかを今知りたかった。ケビンが将来の事で父親と激しくもめた時、闇に呑まれる前の祖母ちゃんはケビンを庇って応援してくれたから。
〝ディック、ケビンはお前と違って魔道具職人になるのが夢じゃないんだよ。息子にお前の夢を押し付けちゃいけないよ〟
そう言って、祖母ちゃんは自分の後を継いで魔道具職人になれと求める父に反対してくれた。
闇の中にいた祖母ちゃんは怖かったが、戻って来たらやっぱり優しく励ましてくれた。
だから祖母ちゃんがまだ祖母ちゃんであるうちに、祖母ちゃんに自分の声が届くうちに、自分がハンターになれる可能性が出来たならそれを伝えたいのだ。
村長に聞けば分かるだろう。しかし父には弔い中は他の家に行ってはいけないと命じられていた。それぞれの弔いの邪魔をしてはならないと。
どうすれば良いかケビンは考え、やはり協会調査員か検査官に直接確かめるしかないと思った。
だが一時的にでも村に完全封鎖の決定を下した冷徹非情な協会調査員と、やはり冷たそうな女の検査官は敷居が高い。
それに引き替えベイルとかいう検査官は優しそうだから、子供が尋ねても答えてくれそうだ。そう考えたケビンは早速ベイル検査官を探しに向かった。
しかし村中探してもベイルはおろか、アデラ検査官もシリル調査員もいない。
レナ街に行ってしまったかとケビンはガッカリしたが、一縷の望みを託して林に向かった。
林の奥の方に進むと、声が聞こえる。アデラ検査官とベイル検査官だ。
アデラにがいるのに臆したケビンはベイルが一人になった所を捉まえるつもりで、二人に見つからないよう茂みに隠れて見守った。すると二人の会話が聞こえてきた。ハンター志望のケビンは目と耳が良いのだ。
「――しかしシナ村も運が良いですね。村が二度も闇に呑まれる寸前まで追いつめられながら、その度にヒーラー様が助けて下さるなんて、まずあり得ない幸運ですよ。こんな何の変哲もないの村のどこがそんなにお気に召したんでしょうね。まさかすぐ近くにある砂漠がヒーラー様にとっては魅力的、なんてことはないでしょうね。まあ、確かに妙な砂漠ですけどね」
「ベイル、そんな事はどうでもいいでしょう。今大事なのは、サヤ様をどうやって我が国に取り込むかです」
「——そりゃあ、あんな途方もない能力をお持ちのヒーラー様が我が国にずっと留まって下さったら素晴らしい事だと思いますよ。しかし幾ら協会には未登録だからといっても無理があるんじゃないですか。ヒーラー様が行動の自由が保障された協会への登録よりも不自由な一国の専属の身分を選ばれるなど、まずあり得ませんよ。どこかの国の専属になられるヒーラー様だって、今のご時世では協会に登録なさっているヒーラー様が敢えておなりになるものですからね ――まあそうですね、サヤ様、でしたか。あの方はこの村の者とかなり親しいようですから、村長を通して出来るだけ長くこのシナ村に留まって頂くようお願いして貰うしか無いんじゃないですかね」
目の良いケビンはアデラが顔をしかめるのが分かった。
「ベイル、村長の私達へのあの態度を忘れましたか。ドラド王国では何の役にも立たないこの村の闇祓いに対する支援願いをはねつけるのは当然の処置なのに、それを逆恨みしているのは明らかですよ。こちらの言う事に従うどころか、サヤ様に王国の悪い評判を吹き込みかねないでしょうね」
「ですがシナ村だって、サヤ様が留まってくださるのは有難い事じゃないですか」
「この村の闇はほぼ完全に祓われたのですよ? 行動制限はもちろん最高レベルまで緩和、闇祓いも当分は必要無しと正式に決定されたのです。村長にしてみたら、今サヤ様がドラド王国を去ろうが痛くもかゆくもないというところでしょうよ。むしろここでサヤ様に恩を売っておけば、将来の闇祓いも安泰と考えているかもしれませんね」
「……だとしたら、どう考えてもサヤ様をドラド王国の専属ヒーラーにするなど無理じゃないですか。それにこう言っては何ですが、実際我が国はヒーラー様方にはいささか評判が……」
するとアデラ検査官が含み笑いをして言った。
「それがあの方の場合、専属に出来る可能性があるのですよ」
「え⁉ それはどういうことで⁉」
「声が高い! もし村人が近くにでもいたらどうするんですか!」
叱責するアデラの言葉にケビンは更に見つからないよう身を潜めるとともに、耳をそばだてた。サヤの事で村人に聞かれてはまずい話とは何だろう?
「ベイル、おかしいとは思いませんでしたか? 今回の検査でヒーラー協会が派遣したのは慣例通り調査員一人のみ。新たなヒーラー様が現われたのですよ? しかも何とかしてヒーラー様を国専属に出来ないか血眼になっているこのドラド王国で」
「……まあ、確かに」
「あのヒーラー様が協会の保護を希望されてらっしゃるなら、村長を通して一刻も早く協会に登録したいと連絡するでしょう。そうなれば協会はこの村にガーディアンを派遣する筈です。まあすぐに寄越さなかったのは村長が村の闇祓いを邪魔されるのを嫌って連絡を遅らせたのだと考えることも出来ますが、少なくとも検査前には伝えるでしょう」
「…………」
「そうなったら検査に同行するドラド王国側の私達からヒーラー様を守る為にも、すぐ仮契約出来るよう必ずガーディアン候補を派遣しますよ。そりゃ調査員もガーディアンになれる資格はありますが、未登録の、つまり協会の事など何も分からないだろう新人ヒーラー様ですからねえ。普通ならガーディアンとしてある程度経験を積んだ者か、そうでなくともちゃんとした候補をサポートに、と考える筈です」
「——アデラ検査官、それはどういう……」
戸惑う様子のベイルに、アデラは言った。
「つまり村長はあのヒーラー様の事を、協会にはまだ伝えていなかったのですよ。それも我々へのあの態度を見れば、少なくとも我が国への忠誠心が厚い故では無い事も明らか。なら村長が協会にヒーラー様が登録を希望なさっていると伝えない理由は、一つです。当のヒーラー様が、協会への登録を希望されていないのですよ」
聞いていたケビンは驚いた。サヤが協会への登録を希望していないなんて、知らなかったからだ。ヒーラーが協会への登録を希望しないなんて、そんな事があり得るのだろうか。
だって、現在ヒーラーが享受している特権と保護の殆どは、協会に登録しているからこそ得られるものなのに。そんな事、誰だって知っているではないか。
そこでケビンはハッとした。そうだ、サヤは知らない。
次は20時頃投稿です。




