登録へのためらい
明日は20時、22時頃に投稿します。
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ヒルダは寝室に走って行って自分とさやの外套を取って来ると、焦りを隠さぬ口調で言った。
「一刻も早く動いた方が良い。早く登録の申請をしよう!」
「ちょっと! 何で勝手にあたしの登録を決めるの⁉ 理由を話してよ!」
あまりにも急に登録の話を勧めようとするヒルダにさやが抗議すると、ヒルダは金袋を懐に押し込みながら強い口調で言った。
「他の選択肢なんか無いんだよ! 協会に登録しなきゃ、ヒーラーはまともな人生を送れなくなるんだよ!」
(え?)
穏やかならぬ言葉に驚くさやに、ヒルダは外套を押し付けると言った。
「検査官はサヤの事情を知ってると考えた方が良い。だから今あんたをあいつらがいるこの村には一人では置いておけないから、あたしと一緒にいな。まず村長さんのとこへ行こう。あの調査員さんが検査官達と別行動だったらあの人に登録したいって言えばそれで済むんだろうけど、さすがに危ない橋は渡れないからね。村長さんに行動制限がどうなったか聞いて、今日レナ街へ行っても大丈夫って事になったらすぐ行くよ。本当はこのまま画像通信機のあるレナ町へ行って協会に連絡したいけど、今日は外出許可日じゃないからね。前の行動制限が解かれたかどうか確かめないと」
ヒルダはさやの目を真っ直ぐ見ると、真剣な口調で訴えた。
「今決めろとは言わない。とにかくレナ町へ一緒に行っておくれ。何であたしがこうするのか、事情はレナ町へ向かいながら話すよ。今説明している時間は無いんだよ! お願いだ。これを承知してくれるぐらいには、あんたはあたしを信じてくれているだろう?」
サヤは何か言おうとしたがヒルダの切羽詰まった表情を見て言葉を吞み、やがてうなずいた。
「分かった。ヒルダを信じるよ。でも事情は必ず話して」
「もちろんだよ。 じゃあ行くよ!」
ヒルダがそう言った時、玄関のドアを叩く音がした。音は何度も繰り返され、次第に激しくなっていく。
ヒルダは目を細めた。さやに身振りで奥へ行くよう促すと。ドアの前に行って問い質す。
「こんな夜更けに誰だい?」
「カークだよ、ヒルダ。済まないが急ぎの用なんだ。開けておくれ」
村長だと知るとヒルダの強張った顔が幾らか緩んだ。しかしまだ警戒を解かぬ口調で、更に尋ねる。
「村長さんお一人ですか? 他に誰かいますかね? こんな夜更けに用向きは何ですか?」
村長は苛立った口調で答えた。
「悠長に話している暇は無いんだ。今私と一緒に調査員のシリル殿が来られている。だからヒルダ……」
村長がそう言った途端、ヒルダはドアを開けた。すぐに村長とシリルが入って来る。それを見届けたヒルダは、奥に隠れているさやに向かって声を掛けた。
「大丈夫だよ。おいで」
さやが姿を見せると、シリルは一礼しただけで何も言わない。代わって村長が切羽詰まった口調で言った。
「サヤ様、これまで事情をお話ししないままでさぞ御不審に思われたでしょう。今説明します。何故協会に登録するべきなのか、どうして登録を急ぐ必要があるのか……」
話を始めた村長に、ヒルダが怒った。
「村長さん! 悠長にお話しなんかしている場合じゃないでしょう! まず検査官から逃げるのが先でしょうが! 説明は逃げながらしようよ! 大体村長さんもあたしも、焦るとてんで上手く話せないでしょうが。サヤを納得させられない内にあいつらが手を回してきたら……」
「心配しなくてもいい。それは何とかなるから」
焦るヒルダをそう言って黙らせると、村長はシリルに向かって尋ねた。
「シリル殿、サヤ様が今ここで登録を希望されれば協会は受け入れて頂けるということで、よろしいですね?」
シリルは再びサヤを見てこう言った。
「サヤ殿、あなたの能力は私が見届けました。あなたがヒーラー協会への登録を希望されるのであれば、我々協会は受け入れます」
さやはシリルを見、村長を見た。
この段階のさやは、協会に登録する事にかなりためらいがあった。
シリルへの不信感はこの際置いておくにしても、さすがに今ここで殆ど知りもしない組織に所属することを即決したくは無い。
それに、村長も完全には信じられなかった。
村長がさやに感謝しているのは疑っていない。ただ、村長は明らかに検査官に反抗的だった。そうした感情や、村の利益がさやへの勧めに影響している可能性は捨て切れない。
純粋にさやの為では無いだろうと思えば、そう簡単には従いたくなかった。
さやはヒルダを見た。そして、取り敢えず村長の説明を聞いてから考えようと思った時。
いきなり玄関のドアが音を立てて開け放たれた。
「良かった! 間に合ったようですね」
息を切らせて入って来たアデラ検査官を見て村長は顔色を変えた。アデラは兵を五人も従えている。




