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アラサー女の異世界転生チート清掃業~誰もが何か隠してる(180話以上完成済)  作者: 明烏
第1章

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ヒーラーの領分

 さやはうつむいた。村長はもう何も言わない。さやは村長に目を向けることが出来なかった。

 そんなさやにアデラは言った。


「これ以降は我等に同行して下さい。引き留めようと図る村人もいるでしょう。あなたの周りを兵で固めます」


 アデラの指図でその場にいた兵がさやを取り囲んだ。さやを護衛して出入口に行くようアデラが命令する。

 アデラに従えば自分はこの村を見捨てたことを一生許せないだろう。そう思いながらもさやが一歩踏み出そうとしたその時。


 さやの目の前をヒルダが通り過ぎた。

 ヒルダの表情は虚ろだ。ビー玉のような目でひたすら教会を見つめながら、闇の黒煙が噴き出す扉に向かって歩いて行く。


「ごめんよ、ジョゼフ…… 今行くから…… 今まで放っといてごめん」

「駄目だよ! ヒルダ!」


 そんなヒルダにイザベラが縋りついて必死に止めようとしていた。


「止めておくれよお! あんたまでいなくなったら、あたしはどうしたら良いんだよお……」


 だがヒルダはジリジリ扉に近づいて行く。絶望に頭の先まで漬かりながら。


 この光景を見た時、守りに傾こうとしていたさやの心に闘志が爆発した。


 その時までさやの心は危険を避ける気持ちと村を救いたいと思う気持ちがせめぎ合っていた。

 さやだって自分がこの世界で果たすべき役割を女神から託されたのだという自覚はあるのだ。

 だから迷った。

 教会の闇祓いを出来る可能性が無いわけではない。ただ明らかに世界に対して重い責任がある自分が、この状況で僅かな可能性に賭けることが許されるのか。ここは危険を避けるべきではないのか。


 どれだけ悩んでも迷いは消えず、賭けても賭けなくても絶対に後悔するのが分かる程にさやはギリギリ迷っていた。

 アデラの進言を聞いた時、理性にがんじがらめになっていた心は僅かに守りに傾いたのだ。


 だが絶望にまみれたヒルダの姿を見た途端、さやのためらいは吹き飛んだ。

 ヒルダはさやにとって死地から救ってくれた恩人であると共に、誰も知り合いなどいないこの世界で初めて心を通わせた友だ。

 その彼女が今どん底にいる。助けなくてどうする! 可能性はあるのだ!

 

 そう思った時に、さやの迷いは霧散した。

 分かったのだ。この闇祓いはやらねばならないと。

 もし今この村を、ヒルダを見捨てて逃げたら自分は闇祓いをする度に後悔に苛まれるだろう。

 そんな心でこの先自分が使命とやらを果たせるとは、とても思えない。

 だからもし自分が世界で果たすべき役目を大事だと思うのなら、何としても教会の闇祓いを成功させねばならない。


 さやの決断が総力挙げてさやの闘志をかきたてた。

 今まで自分が祓おうとして祓えなかった闇は一つも無かったではないか。ならばあの教会の闇だってきっと祓える。

 自分は女神から使命を託されたのだ。そのくらい出来る筈だ。いや、その程度も出来なくて使命が果たせるか!


 泣き叫ぶイザベラを引きずって歩いて行くヒルダにさやは近づくと、その前に立ちふさがった。


「駄目だよヒルダ。あそこは今ものすごーく汚れているんだよ。あたしが掃除するまで、入るのはちょっと待っててね」


 さやがニッコリ笑ってそう言うとヒルダの足が止まった。その肩を優しく叩くとさやはアデラの所へ行き、モップを取り返した。


 そしてさやはイザベラに言った。


「イザベラさん、急ぎの仕事が出来ちゃいました。すみませんがお返しした懐中時計、また貸して下さい」


 イザベラの目が大きく見開かれた。やがて唇がわなわなと震え、涙がこぼれた。


「……やってくれるのかい、あんた……」


 村長も泣き声で、ありがとうございます、ありがとうございますと何度も叫んでいる。

 イザベラは震える手で服の中に仕舞いこんでいた時計を取り出すと、さやに渡した。


「お願いだ。あそこにはローラちゃん…… あたしの娘がいるんだ」


 目を真っ赤にして頼み込むイザベラの手を握り締めると、さやは教会に向かって今度は迷わずに歩いて行った。


「止めろ! ヒーラー様をお止めしろ!」


 アデラが金切り声で叫んだが、その肩を掴む者がいた。ヒーラー協会調査員のシリルだ。


「あなたに彼女を止める事は許さない。私の判断ではこの闇祓いに勝算はある。なら闇祓いを依頼されたそのヒーラー殿が自分の意思で闇祓いを行う場合、その意思は絶対的に優先される」


 そう語るシリルには感情が戻っていた。その目には光が、言葉には強靭な意志が宿っている。


「……勝算が? 本気ですか」


 あ然とするアデラにシリルはキッパリ言った。


「ここからはヒーラー殿の領分だ。あなたは引き下がりなさい」


 アデラは更に何か言おうとしたが止め、唇を噛んで引き下がった。


 シリルはさやの下へ歩いて行った。そしてさやをじっと見つめ、ふん、と鼻で笑った。


「ど新人ヒーラーがずい分大口を叩くものだ。まあ、その度胸だけは褒めておきましょう、()()()()()()。途中で『やっぱり無理でした』と半べそかいて逃げ出さない事を祈りますよ。自分の命で代償を払うぐらいの覚悟はして欲しいものだ」


(何だとこの野郎!)


 さやはシリルを睨みつけたがシリルはどこ吹く風といった様子で、目を丸くして状況を見ているベイル検査官に言った。


「これからこのヒーラー殿が教会の闇祓いに挑む。教会の封鎖を解いてくれ」


 ベイルは顔を引きつらせたが何とか立ち上がり、言われた通りに兵に命じて扉に打ち付けてあった板を急ぎ取り払わせた。

 その間にシリルはアデラに尋ねる。


「安心しなさい、完全封鎖はまだ撤回はしない。ただこの村の封鎖は待機だ。どれだけ待てる?」


 アデラはギュッと眉を寄せたが、すぐに答えた。


「三時間です」


 シリルは再びさやを見ると、真面目な顔でこう言った。


「教会にいる〝核〟の数は百を超えている。祓い方は任せますが、恐らく消去させるしかないでしょう」

「核? 消去?」


 初めて聞く言葉に怪訝な顔をするさやに、シリルは教えてくれた。


「闇に潜む悪霊を、我々は核と呼びます。教会の闇を祓うには核を祓うしかありません。村の闇をあそこまで祓えたあなたの能力(ちから)なら、万全の体調であれば消去は出来る筈だ。祓い方は、ヒーラー殿によれば核に能力を強く込めれば消去出来るそうです。とにかくやってみて下さい」

「……そりゃどうも」


 実に親切な教え方にさやは口を思いきりへの字に曲げる。そんなさやにシリルはニヤリと笑った。


「核という言葉もご存じないなら、あなたにとっては恐らく全てがぶっつけ本番になるでしょう。まあ現場で自分のやることを把握して下さい。健闘を祈りますよ、新人ヒーラー殿」

「——了解」


 さやは低く唸ると足早に教会へ向かった。心の中で算段しながら。


(初めての現場だからまず闇祓い、いや、()()()()の確認と、ある程度の時間配分を決める事が必要だ。それを十五分、いや十分で済ませよう。つまり二時間五十分で〝清掃〟を終わらせる)


 少しでも闇祓いを成功させる可能性を高める為に、さやは強く自分に言い聞かせた。

 これは清掃だと。

 そうすることで〝清掃員〟として作業内容がギチギチに詰まった、しかも初見の〝現場〟に向かう際の緊張感と気構えを作り上げる。


 扉の前に立つとさやはスーッと大きく深呼吸した。そして懐中時計で現在時刻を確認すると心の中で言った。


(よし、スタート!)


 さやは腹に力を入れて教会の扉を開けた。


明日は2話投稿します。

20時と22時頃の予定です。

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