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アラサー女の異世界転生チート清掃業(180話以上完成済)  作者: 明烏
第1章

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汚染度検査

 さやはとても居心地が悪かった。


「——あの、どうしても座ってなきゃ駄目ですか?」


 さやは村長にもうこれで四度目になる質問をした。言外にこんなとこに座りたくないんだよあたしは、という思いをたっぷり込めて。


 現在さやと村長は村の表口の前で、検査団が来るのを待ち構えていた。

 だが、さやだけが椅子に座っているのだ。それも村長宅から持ち出した、来客用であるクッション付きの椅子に。


 気が咎めるし恥ずかしいし、とにかく勘弁して欲しかった。

 だってかなり高齢の村長は立ちっ放しなのだ。その横で豪華な椅子にふんぞり返っているなど、お年寄りの前で優先席を独占している奴よりイタイ事をしている気がする。

 こんな状態で検査官を迎えなければならないなど、公開処刑以外の何ものでもなかった。


 しかし村長はさやの要望をキッパリ撥ねつけた。


「いいですか、サヤ様はこの村の救い主です。あなたという優れたヒーラー様は、村の深刻な闇を見事に祓って下さいました。そんな大恩人を立って待たせるなどとんでもない! 最上の椅子にお座り頂くのは、当然のおもてなしです」

「……そうですか」


 さやはげんなりしたが、それ以上文句は言わなかった。

 さやも察してはいるのだ。村長にしてみたら、検査官に対するアピールなのだろうと。

 ヒーラーに対してこれだけ手厚い礼を尽くす程|ヒーラー(さや)は村の闇を見事に祓ってくれた。つまり村の闇に何の問題も無いのだと、示したいに違いない。


 さやはこれ以上遠回しの文句を言うのは止めて、代わりに今日の検査について村長に改めて確認した。


「今日来るのはこの国の検査官と、ヒーラー協会から派遣された調査員とかいう人だけなんですよね?」

「ええ。あ、兵が若干名同行して来るとは思いますが、心配なさらないで下さい。恐らく封鎖の可能性を考えて派遣されるだけでしょうから」


 村長が話していると、遠くの方に影が見えてきた。


「来ました! サヤ様、どうか威厳たっぷりの風情でいらして下さい!」


 更なる無茶振りをすると、村長は息をつめて近づいて来る一行を見つめていたが、やがてその顔は強張り青ざめた。


「そんな…… まさか……」


 近づいて来る者達は、かなりの人数だった。五十名はいるだろう。皆馬に乗っている。

 更に近づくと、その殆どが武装した兵であることが分かった。村長の言う若干名どころではない。


 この物々しさ、そして恐怖に震えている村長を見れば、さやも悟らざるを得なかった。やって来た検査官達は、この村に完全封鎖の処分を下す可能性があると考えているのだ。

 村はそれ程酷い状況だったというわけなのだろう。


 さやは呆然としている村長の両肩を掴んでゆすぶると、叱咤した。


「しっかりして下さい! あたしは優れたヒーラーなんでしょう⁉ そのあたしが村の闇をすっかり祓ったんだから、村は大丈夫ですよ!」


 さやがそう叫ぶと、村長の目に光りが戻った。

 村長は両の拳をグッと握りしめると、背筋をピンと伸ばす。


「サヤ様は、お座りになっていて下さい」


 そう言うと村長は一歩前に進み、近づく検査官の一行をきっと見据えた。


 やがて一行は到着した。同時に兵は方々に散っていく。恐らく防壁の各所に設けられた通用門を固めるためだろう。

 残りの兵は村の防壁を取り囲むと、壁の上部に向かって矢をつがえた。とても乗り越えられる様な形状ではないが、それでも壁を乗り越えて逃げようとする者を仕留めるためだと思われた。


 その光景を見たさやは、薄々分かっていた事をはっきり実感した。

 村を囲む防壁は外部から闇を伴う者が侵入するのを防ぐとともに、村人を閉じ込める為のものでもあるのだ。


 兵の配置が済むと、武装していない者が三名、村長の下へ来た。そのうちの一人である三十歳ぐらいかと思われる文官風の女性が、銀縁眼鏡を指で軽く持ち上げながら自己紹介をした。


「汚染度検査官のアデラです。カーク村長、今日はよろしくお願いします」


 もう一人、やはり文官風の男も顔の汗を拭きながら挨拶した。歳は五十くらいか、すらりとしたアデラとは対照的な、恰幅の良さだ。


「検査官のベイルです。まあそう固くならないで下さい。こんな大勢引き連れては来ましたが、あくまで念の為ですよ。何事も無ければ我々は立ち去るだけですから。もちろん五十人分のお茶を出せとも言いませんよ」


 ベイルは人の良さそうな笑顔で茶化したが、村長はにこりともしなかった。

 それはそうだろう。これだけの兵を引き連れておいて、余りにもあからさまな気休めだ。


 一方アデラはさやに目をやった。


「村長、この娘は何者ですか?」


 さやは村長が検査官達に向かって、さぞかし自分を褒め称えるだろうと身構えた。

 その羞恥に耐える覚悟をしたのだが、どういうわけか、村長は一向に口を開かない。

 アデラが眉をひそめる。だが、やがて村長とさやを見比べ、何かを思いついたようだった。


「まさか……」


 その時、残るもう一人が口を開いた。


「この場でそうなさっておいでということは、この村の闇祓いをされたヒーラー殿以外にあり得ない。そうでしょう、村長?」


 それは、二十代半ばくらいの若い男だった。

 長身で、その顔はハンサムといって良いぐらいには整っている。着ている茶色の三つ揃いは中々仕立てが良さそうだが、タイはしていない。

 長めの銀髪を後ろでひとまとめにしていることと相まって、官僚とはいささか異なる雰囲気を醸し出していた。


 そして、男がそう言った途端村長は叫んだ。


「はい! その通りです、調査員殿!」

次は22時頃投稿します。

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