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アラサー女の異世界転生チート清掃業(180話以上完成済)  作者: 明烏
第1章

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懐中時計

 村長と打ち合わせた翌日、さやは三日かけてヒルダの家の闇祓いを終えた。それだけ掛かったのは居間の大きな闇以外にもあちこちに小さな闇が結構あったのと、色々確かめながら闇祓いをしたからだ。

 それで幾つか分かった事がある。


 まず初めて闇祓いをした時にある程度察してはいたが、さやの闇祓い能力は掃除道具を介さないと発動しないようになっていた。

 手で直接闇に触れても闇を祓うことは出来ない。雑巾にせよモップにせよ、何らかの掃除道具を用いてさやが闇を〝掃除〟しようとすることで初めて祓うことが出来るのだ。


 面倒くさい発動条件ではあるが、さやは逆にこの制約が気に入った。これならまさしく闇祓いを清掃だと思えるからだ。

 

 とはいえ今回の闇祓いは時間との戦いなので、この制約はいささか厄介だった。村の闇祓いは、汚染度検査までに絶対に終えなければならないのだ。

 しかも村長は村人全ての闇を平等に祓ってくれと要望している。だから各家の闇をそれぞれどのくらい祓うか決める為にも、さやが期限内にどの程度闇を祓えるのかは絶対に把握しなければならない。


 さやはヒルダにも手伝ってもらい、自分が闇を祓うのにどれだけ時間がかかるか確かめた。更にどの清掃道具なら効率的に闇を祓えるのか、闇を祓えない道具はあるのかも実験した。


 その結果清掃道具に制限は無く、さや自身が清掃道具だと思えるものならどんなものでも、それこそ棒きれでも闇は祓えることが判明した。

 様々な道具を使い実験した結果、モップを使うのが最も効率的に祓えることが判明、さやは村長宅から借りたモップをそのまま闇祓いに使うことにした。


 こうしてさやが自分の闇祓いの能力をある程度把握したところで村長は村人を集め、さやがヒーラーであり、村の闇祓いをしてくれることになったと発表した。


 広場に集まった村人は最初中々信じようとはしなかった。そんなうまい話がある筈が無い、人を担ぐのもいい加減にしろと怒りだす者までいる始末だ。

 仕方ないのでさやが広場の近くにある家に行って、皆の前で壁の闇を雑巾で祓った。闇が金粉を散らしながら消えた途端、その場は大騒ぎになった。


 狂喜乱舞する者、抱き合って泣きじゃくる者、さやに向かって手を合わせて拝んだり、ヒルダよくやったと叫ぶ者までいた。皆絶望の淵に立たされていたのだから無理も無い。


 皆が少し落ち着いたところでさやは前に出ると、村人に言った。


「今日はまず皆さんの家を見せて頂きます。その上でどの闇をどれだけ祓うか決めます。最も効率の良い順に闇を祓っていきますので、そこはご承知下さい」


 さやの言葉に村人は不安そうだった。皆、一刻も早く自分の家に巣食う闇を祓って欲しいのだろう。

 村長が危惧していたように誰の家を先に闇祓いするかで言い争いが起こりそうな雰囲気になる前に、村長が強い口調で釘を刺した。


「サヤ様には村の家全てを公平に闇祓いして頂くようお願いしている。だから自分の家の順番や祓って頂く闇の量に、決して不満を言ってはならん。お前達が余計な邪魔をすれば、それだけ闇祓いが遅れるぞ。今度の汚染度検査でこの村は〝封鎖〟されるかどうかの瀬戸際だ。まずは一致団結して行動制限を少しでも緩める事が最優先なのは、お前達も分かるだろう。いいか、サヤ様は必ずお前達の家全てを闇祓いして下さる。だから大人しく自分の家の順番を待つんだ。分かったな!」


 自分の言葉で皆の不安や不満が何とか収まったのを見ると、村長は続けて言った。


「ついては闇祓いを早く済ませる為に、サヤ様は携帯出来る時計がご必要だ。誰か懐中時計を持っている者はいないか?」


 村人達は顔を見合わせて言った。


「そんな高価なもん、持っていたとしても三年前に売り払っちまいましたよ」

「そうだよ。あの時は村長さんの言いつけで、金目の物は全部差し出したからなあ」


 皆は口々にその通りだと言い合っている。どうやら懐中時計を持っている村人はいなさそうだとさやがガッカリしていると、イザベラがおずおずと申し出た。


「——あの、あたし、持ってます」

「本当ですか⁉」


 さやの顔がパッと輝く。


「ならサヤ様にお渡ししてくれ! 闇祓いの為には絶対に必要だそうだ」


 村長が促したが、イザベラはためらう様子を見せた。


「——差し上げなければならないんですか? 父の形見なんですけど」


 親の形見だから、村中が有り金を供出した際にも手放さなかったのだろう。ヒルダだって母から受け継いだ掛け時計は換金しなかったのだ。

 形見を借りるのはかなり心苦しかったが、ためらう余裕は無かった。今回の闇祓いは間違いなく時間との勝負になる。だから携帯出来る時計は必須だ。そして他に懐中時計を持っている者はいないのだ。


「作業が終わったら必ずお返しします。大事に扱うと約束しますから、この村の闇祓いをする間だけ貸して貰えませんか?」


 さやの言葉にイザベラは安堵の色を浮かべた。そのまま没収されるのではないかと心配していたのだろう。

 イザベラは胸元に手を差し入れて鎖付きの時計を引っ張り出すと、首から外してさやに渡した。


「あんたは真面目な娘だから、約束は守ってくれるよね。いいよ、闇祓いに使っておくれ」

「ありがとう。大事に使わせて貰います」


 さやは胸をなでおろした。これで懸案事項が解決したのだ。


明日も22時頃更新の予定です。

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