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アラサー女の異世界転生チート清掃業(180話以上完成済)  作者: 明烏
第1章

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壁の汚れ

次の更新は22時頃です。

 さやが外のトイレに向かうために道具を持って外に出ると、ヒルダが帰って来た。隣にはヒルダと同年配の女がいる。癖のある金髪を後ろで結んだ、少し気の強そうな人だ。

 今までもヒルダが何度か家に連れて来たことがあったのでさやも見知っていた。ヒルダの従弟であるイザベラだ。ヒルダと同様に独り暮らしだった。


「聞いたよ、サヤちゃん。この家の大掃除をやってるんだって? そこまで元気が出たら、もう大丈夫だね。うん、すっかり顔色も良くなった。すごい別嬪さんなのが良く分かるよ」


 そう言うとイザベラは大きな口でニカッと笑った。


「ありがとうございます。記憶の方はまだ全然なんですけどね」

「ホント、難儀な事だよねえ。やっぱり何も思い出せないのかい?」

「所々は憶えていたり、思い出したりしているみたいなんですけど。でもまだ何が分かってて何が分からないのかが分からないぐらいなものなので、とにかく一から学んでいるところです」

「そうかい。分からない事があったら、あたしでもいいし、村の誰を捉まえてもいいから何でも聞きな」

「ありがとうございます」


 さやは笑って礼を言った。イザベラは面倒見の良い女で、さやの事もかなり気遣ってくれる。さやは次のお試し掃除はイザベラに頼もうと思っていた。


「サヤ、居間は入っても大丈夫かい?」

「ええ、ヒルダさん。掃除は終わっていますから、どうぞ」

「ヒルダ()()?」


 怪訝な顔をするイザベラを見たヒルダは苦笑しながらさやに言った。


「サヤ、とりあえず今はそのかしこまった物言いをお止め。イザベラ、立ち話もなんだから家に入ろう。キレイになった居間を見せてやるから」

「そりゃ楽しみだ。あんたの家の中は、身内のあたしが見ても酷かったからね」


 ヒルダはイザベラの額を人差し指で軽く叩いた。


「悪うございましたねえ。サヤ、今日の掃除は居間だけにしときな。あんたは元気になったばかりなんだから、初っ端から無理はしない方が良いよ。あたしの言った通りに居間を一時間で仕上げたなら、十分大したもんだよ。それ片付けたらあんたもおいで。イザベラがクッキーを持って来てくれたからね」


 さやはヒルダの言葉に大人しく従うことにした。久しぶりの本格的な仕事で体力を消耗したのは確かだし、やはり〝顧客〟の言う事は聞かねば。

 決してイザベラがこしらえた糖蜜クッキーが食べたいからではない。大好きだけど。


「分かった。道具を洗ったらすぐ行くよ」


 そう言うとさやは道具を持って井戸に向かった。


(ヒルダ、喜んでくれるかな)


 洗った道具を元の場所に戻しながらさやは微笑んだ。ヒルダが居間を見てどれだけ驚くか、楽しみだったからだ。


 我ながら今回の掃除で居間はかなり、いや見違えるようにキレイになったと思う。

 しかもあれだけ嫌がっていた壁の大きな黒い汚れが小さくなっているのを見たら、ヒルダはきっと喜ぶに違いない。明日以降に他の場所の掃除を終えたら、時間を掛けてあの黒い汚れを全部消してやろう。


 だって、それが自分に出来る精一杯の事だから。


 さやはある程度身の振り方が決まったら、ヒルダの勧めに従って村を出ようと思っている。この村に一生閉じ込められて生きるのは、やはり嫌だから。


〝あたし達はもうじきこの村から出られなくなる〟


 さやは暗澹たる気持ちでため息をついた。まさかここまで窮屈な世界だとは思わなかったのだ。


 ヒルダはさやならこの村を出られるだろうと言っていたが、だからといって素性の知れない自分がそう自由に動けるとはとても思えない。

 閉じ込められることは無いにせよ、かなり厳しい行動制限が待っているのではないか。


 しかし、だとしたら。


(一体あいつ(女神)はどうやってあたしとの約束を守るつもりなんだ?)


 この世界に転生する際、さやは女神に何時何処でも行きたい所に行ける自由が欲しいと要求し、女神はその願いを叶えると約束した。しかしこんな状況で、どうやったらそんな自由が叶うのだろう。

 理由は知らないが、とにかくとんでもなく厳しい行動制限が課せられているらしいのに、それをすり抜ける術があるというのか。


 さやが考えていると、いきなり玄関のドアが乱暴に開け放たれる音がした。そして血相を変えたヒルダとイザベラが納屋に駆け込んできたのだ。


「サヤ! あんた、何やったんだい⁉」


 二人の剣幕はとてもじゃないが、居間がキレイになったと喜んでいるとは思えない。

 さやは青くなった。


(まさか、あたし何かやらかした……⁉)


 さやの背を冷たい汗が流れた。ヒルダとイザベラの様子を見ると、どうやら自分はとんでもないミスを犯したようだ。


 さやは両の拳をきつく握りしめると自分に言い聞かせた。

 まず状況を確認しよう。そして修復出来る状態かどうかを見極め、出来る限りの処置を施す。

 完全な修復が無理だった場合は、誠実な謝罪と補償だ。今の自分にはもちろん金など無いからそこはヒルダに謝って、将来収入を得られるようになった時に償っていくしか無いだろう。

 とにかく現場を確認してからだ。


 さやは足早に家に入ると居間を見回した。

 ぱっと見では問題無いように思える。ちゃんとヒルダに指示された方法で掃除したのだが。


 その時さやは気付いた。唯一ヒルダに掃除方法を聞いていないのに、掃除した場所があることを。


 そしてヒルダは案の定、さやが自己流のやり方で掃除して半分程消した、あの壁の黒い汚れを指し示すときつい口調で言った。


「これ、どうやって消したんだい?」


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