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アラサー女の異世界転生チート清掃業~どんなに泥沼の世界でもあたしは折れない  作者: 明烏
第3章

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侯爵令嬢居住区

明日も20時頃更新の予定です。


面白い、続きが読みたいという方はブックマーク、評価等頂けると嬉しいです。

〝サヤさん、当日依頼人と顔を合わせるでしょうが、今話した事は決して漏らさないで下さい〟


 シリルはさやにダンマルタン侯爵令嬢居住区の闇の侵食具合について詳しく説明した後でそう言った。


〝どうして? 依頼人なんでしょう?〟


 いぶかしがるさやにシリルは理由を説明した。


〝居住区内の闇に関する情報は、今回の依頼人が提供したものではないからです。依頼人はただ居住区の闇を祓って欲しいとだけしか代理人に伝えていないということでした〟

〝それじゃ、居住区の闇の現状を今の依頼人は知らないっていうこと?〟

〝居住区の闇に関する情報で協会支部が把握していたのは、元々闇祓いの依頼を引き受けていた聖女殿の報告によるものだけです。それも聖女殿が居住区を検分してから既に二カ月以上経過しており、私は闇の深刻さも考慮した上でより正確な現状を確かめるべく、支部を通して元々の依頼人に情報提供を求めました。サヤさんも察しは付いているでしょうが、今回も実質的な依頼人は元々の依頼人です〟


 元々の依頼人。つまり王家だ。


〝こちらの要求通りに情報は提供して貰えました。ただその条件として私のヒーラー殿、つまりあなた以外には誰であろうと決してその情報を漏らさない事を要求されました。居住区の実情は出来るだけ外部に知られたくないそうです〟

〝つまり…… 王家が情報を隠したい程侯爵令嬢居住区の闇はひどいってこと?〟


 さやの問いにシリルはうなずいた。


〝要求自体は汚染度検査の不正に繋がるものでは無いと判断し、私は承諾して情報の提供を受けました。ですからサヤさん、くれぐれも明日会う依頼人には今お話しした事は悟られないようにして下さい。今回は契約魔法の縛りは掛けませんが、協会の情報漏洩の規制に準ずるものとお考え下さい〟


 実際の依頼手続きをする者にすら明かせない居住区の状況。

 ヴァランティーヌに気晴らしを与えられることを無邪気に喜んでいる様子のジークムントを、さやは複雑な思いで見やった。




 さやはジークムントに連れられてヴァランティーヌ・ダンマルタン侯爵令嬢の居住区に向かったが、かなり歩くことになった。居住区は王宮本殿の奥の方にあったからだ。

 聖女がアリアを訪れてすぐにその場所に住まいを移したそうだ。


 聖女の目から彼女を遠ざける為にそうしたのだろうが、今(・)の(・)状(・)況(・)になってみれば、適切な処置だったと言わざるを得ない。


 居住区に着くと、入り口を守っていた二人の兵が近衛副隊長であるジークムントに敬礼した。


「例の者を連れて来た。入れてくれ」


 ジークムントがそう言うと兵はうなずき、一人が扉に向かって声をかけた。


「侍女殿、臨時の小間使いが参りましたよ」


 すると即座に扉が開け放たれ、中から二人の婦人が転がる様に飛び出した。すると兵達は身体を張って彼女らが出ないように押し止める。

 控えめだが上質な服装からして、二人がヴァランティーヌ付きの侍女なのだろう。


「外に出てはなりません。陛下のご命令です」


 そうたしなめる兵達に押さえられながらも、侍女はさやを見て露骨に安堵した様子で言った。


「ああ、ようやく来て下さった…… いえ、一日だけど来てくれて助かるわ。私達二人では掃除までとても手が回らずに困っていたのよ」


 露骨に喜んでいる侍女達をジークムントはにらみつけ、冷たい口調で言った。


「言う事はそれだけか? 自分が楽になる事しか頭に無いのか?」

「も、もちろんお嬢様も闇…… お部屋がキレイになってお喜びになると思いますわ、副隊長様」


 ジークムントの非難に侍女は慌てて弁解したが、ジークムントは険しい表情のままだ。


「では、頼んだぞ。この者達を手助けしてやってくれ」


 ジークムントはもう一度侍女達をにらみつけると、さやにそう言って立ち去った。

 ジークムントが去った途端、さやは侍女達に引っ張られるようにして部屋の中へ入った。


 扉を閉めると侍女はさやの両肩を掴み、ワラにもすがらんばかりの口調で訴えた。


「どうか一刻も早く闇を祓って下さい! もう何時(いつ)闇に吞まれるのか不安で不安で、夜も眠れないんです」

「——とにかく現場を検分させて下さい。どこまで闇を祓うかは、それで決めます」


 怯え切った侍女をなだめると、さやはそれでもすがりつこうとする侍女から離れて自分がいる応接間を見回した。


 確かにひどい闇だった。本来美しかったのだろう部屋は見る影もない。

 優雅な花模様のある白い壁には至る所に濃い闇が、炭のようにべったり付着している。

 床も同様で、豪華な絨毯も避けて歩くのが難儀なくらい闇で汚染されていた。更に椅子やテーブルといった家具にまで闇は広がっていた。


 さやはシリルが言っていた事を思い返した。


〝聖女殿は王宮の闇を祓った際、ダンマルタン侯爵令嬢居住区のみ保留にすると協会支部に連絡しました。その理由は都合によるとしか言わなかったそうですが、実際には二つのケースが考えられます。一つは聖女殿による侯爵令嬢への嫌がらせ。ただ聖女殿のガーディアンが提出した報告書で記載された居住区の闇の状況からすれば、もう一つのケースである可能性が高いです〟

〝もう一つって?〟

〝聖女殿にすら簡単には祓い無い程、闇がひどかったのだということです〟


 そうであるなら居住区の闇祓いは慎重に進める必要があると、シリルはさやに強く念を押した。


〝聖女殿が居住区の闇祓いを保留した原因が後者だった場合、闇の大元である人物が核になりかかっている可能性が極めて高いと思われます。その場合、大元の人物は十中八九、ダンマルタン侯爵令嬢だと考えて間違いないでしょう。王宮側も、恐らくそうだと判断しているようです〟


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