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アラサー女の異世界転生チート清掃業~どんなに泥沼の世界でもあたしは折れない  作者: 明烏
第3章

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立ち向かえる者だから

 シリルは自身の次元収納袋から小さな四角い箱を取り出した。一定範囲の空間に防音措置を施すための魔道具だ。

 その道具を作動させてこの部屋で話す声が決して外に聞こえないようにした上で、シリルはガーディアンの指輪をさやの額に当てて呪文を唱えた。

 この世界の者は誰もがある程度の魔力を持つ。その魔力を使ってシリルは契約魔法を使おうとしていた。


「これから私が話す内容は機密事項です。そのためガーディアンが自分のヒーラー殿に情報開示をする場合に必要な契約魔法を結びます。サヤさんは先日協会へ本登録の申請をされた際に情報保全の契約魔法を結ばれましたが、これはその契約に付随して発動します。この魔法によりサヤさんはこれから私が話す内容を、その情報を知らぬ者に話せないようになります」


 シリルはそう前置きすると、世界の闇に関する情勢をさやに語り始めた。


「私のガーディアン研修における最も重要な項目は、世界の本(・)当(・)の(・)状(・)況(・)について教えられる事です。これはガーディアンのみに知らされ、ガーディアンは自分の判断でヒーラー殿にその情報を開示します ——覚悟はしていたのですが、想像以上にひどい有り様でした」


 シリルの目に宿る陰りは更に濃くなった。


「私は調査員時代に教えられていた事ですが、現在世界におられるSランクヒーラー及び熟練のAランクヒーラー殿は二十年前から全員、世界を滅ぼしかねないある深刻な闇を祓う為に動員されています。そして現在もその闇に挑み続けておられるそうです ——その為、他の闇をお任せする事が全く出来ない状況なのです」


 さやの顔が険しくなった。Sランクヒーラーが全員その闇に掛かりきりだという事は当然……。


「ですから世界を浸食する他の闇は、残ったAランク以下のヒーラー殿で対処するしかありません。しかし現在いらっしゃるヒーラー殿はAランクヒーラーも含めて多くが闇操作能力者で、闇を一時的に散らすことは出来ても浄化が進みません。その為世界の闇は増殖する一方なのです。昨日私は現在どれだけ世界に闇が浸蝕しているかを教えられたのですが——」


 シリルは両の拳を強く握り締めて言った。


「この二十年間で、十パーセントの地が闇に吞まれたそうです」


 さやは息を呑んだ。たった二十年間で世界の十分の一が消失したのだ。事態はあまりに深刻だ。

 シリルはさやの目を見据えて言った。


「サヤさん、我々の役目は全てのSランクヒーラー殿がお戻りになられるまで、何としても世界を持ちこたえる事です。その役目にあなたの浄化能力は、間違いなく貴重な戦力になるでしょう」


 シリルの話を聞いて、さやは女神が託したこの世界における自分の〝使命〟が何であるか大体見当がついた。

 自分に潜在しているのだろう能力(ちから)が完全に発揮出来るようになる迄は、世界の闇を出来る限り浄化して世界を持ちこたえるのに尽力する。

 そして能力を百パーセント発揮出来るようになった暁にはSランクヒーラー達に加わって、世界を滅ぼしかねないという深刻な闇に挑むのだろう。


 その闇さえ解決すればSランクヒーラー達も他の闇に取り組める。そうすれば世界を浸食しつつある闇も改善出来るようになる筈だ。

 自分はそんな未来を実現する為にこの世界に送り込まれたのだ。


 さやはキッパリ答えた。


「分かった。出来る限りの事はやるよ」


 自分の言葉を怯まず受け止めたさやに、シリルの陰りが幾らか和らいだ。


「そうおっしゃっていただけると私も勇気が出ます ——このところ深刻な情報ばかりを教えられてかなり気が滅入っていたのですが、そういう情報を開示されるのも私達がその深刻な事態に立ち向えるからなのだと思えますよ」


 シリルの言葉にさやは理解した。ここ最近シリルはあまり元気が無さそうだったが、それは忙しかったからでは無かったのだと。

 今の穏やかな日々はもうすぐ深刻な闇へ対峙し続ける日々に変わるが、シリルは既にその闇に対峙しているのだろう。


 深刻な事態に立ち向える者だから、深刻な事態である事を知らされる。

 さやはその事を心の中で自身に言い聞かせながら、シリルにおどけた口調で言った。


「だったら有り金はたいてオーガキングのモップを仕立てて貰ったのは正解だったね。モップが完成したら、間違いなく闇祓いの助けになるよ」


 さやがそう言うと、途端にシリルが口をへの字に曲げた。


「サヤさん、闇祓いに用いる道具を仕立てる事は確かに必要ですが、これからは注文する前に私に相談して下さい。今回のモップだって、確かにオーガキングの獣毛は即金で支払わなければならなかったのでしょうが、それ以外の素材やモップを仕立てる工賃は後払いや割賦にして貰うという方法はあったと思いますよ。そうすれば、当座の費用ぐらいは残ったでしょうに」


 シリルの言葉にさやは愕然とした。その手があったのだ。


「そうか! 気付かなかった——!」


 頭を抱えるさやにシリルは強い口調で、これからは必ず相談して下さいと念を押した。


「全く、サヤさんが闇祓いに回っているおかげで、余計に私とあなたが顔を合わせる時間が少なくなったんですよ。私だってこの休暇中だけは少しぐらいならあなたと共に過ごせるだろうと、楽しみにしていたんですから——」

「ん?」


 なにやらブツブツ呟くシリルにさやがけげんな顔をすると、シリルは慌てた様子で口を閉じて、話を明日の闇祓いに戻した。


「で、どうなさいます? 明日の現場はお断りしますか?」


 シリルに問われたさやは、苦笑しながらも首を振った。


「やっぱり王宮には行くよ。この依頼の事(・)情(・)を代理人が教えてくれてさ。それを聞いたら断わる訳にはいかないな、と思うんだ」

明日も20時頃更新の予定です。


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