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アラサー女の異世界転生チート清掃業~どんなに泥沼の世界でもあたしは折れない  作者: 明烏
第3章

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業務再開

 翌日からさやは闇祓いの仕事で現場を回ることになった。

 どこも深刻な闇ではない。聖女に頼む程ではないが、放置するのは忍びないというレベルの闇ばかりだった。


「ではヒーラー様、よろしくお願いいたします」


 宿の主が頭を下げて出て行くと、さやはベッドの裏に隠れていた闇をモップで祓っていった。

 聖女に闇祓いを依頼した際、あるのに気付かずに祓うのを頼みそびれてしまった闇だ。この宿にはそうした闇が幾つかあった。


 こちらのミスで再びAランクヒーラーに頼むのは気が引けるが、かといって放置するにはちょっとまずそうなぐらい大きく濃い闇もあった。

 それでどうするか悩んでいたところ、他の依頼者と共にまとめて聖女以外のヒーラーに頼もうという話が舞い込んできたので飛びついたそうだ。


(こういう話を幾つか受けるだけでいいんだよ! どうしてあんな依頼までくっついた話に仕立てるんだよ協会支部は!)


 とはいえどれだけ文句を言っても気が進まなくとも、最後の日に王宮に行かねばならない現実は変わらない。

 モヤモヤした思いをゲンコツで頭から叩きだすとさやは仕事に専念した。


 きれいにしようと念を込めながら、モップでしっかり闇を擦る。すると擦った端から闇は金粉となって散っていく。


 基本的に今回の依頼は、こうした半端仕事を寄り集めたものだった。

 隅に隠れて気付かなかった闇。聖女が祓うのを嫌がり、しかも見逃せるレベルの闇だったので依頼者も諦めていた、トイレに憑いた闇。


 トイレの闇は危険度よりも、その見かけの汚さに依頼者も困っていたそうだ。

 闇が憑いていると思うと触るのも嫌で、ロクに掃除も出来ないのも悩みだったらしい。確かにさやもトイレの闇に自分のモップを接触させるのは気が進まなかった。


 そこでこの家のトイレ用掃除道具でも接触させれば闇を祓えるだろうと思いついてやってみたところ、モップより時間は掛かったものの、うまく祓うことが出来た。


 掃除道具を使っているうちに前世の清掃業を思い出し、ついでにトイレ掃除もしてみた。

 前世でトイレ掃除は得意だったので、キレイにした時はかなり充実感があった。

 家人にはえらく恐縮された同時にひどく喜ばれた。やはりトイレがキレイだと嬉しいらしい。

 さやも前世の仕事を思い出して感慨深かった。


 何だかんだあるものの、少なくともダンマルタン侯爵令嬢関連以外を除けば、この仕事はさやにとって悪くはなかった。

 いや、シリルではないが願っても無いと言っても良いぐらいだ。


 とりわけ適度な集中力が必要とされるのが良かった。


 ガーディアン就任式や竜の一件でヨルンと自分自身の記憶が混同した一件はさやにとってちょっと嫌な不安材料だった。

 しかしアリアで闇祓いを始めてからは、ヨルンの記憶との混同に悩まされることが無くなっていると思う。


 多少そうした感情が浮かんでも、雑念として処理出来るのだ。


 これなら何とか乗り切れそうだとさやは安堵していた。今後協会への登録が済んで聖女がいない他の地域へ行けば、依頼には困らないだろう。

 闇祓いに集中していれば、やがてヨルンの記憶に悩まされることも無くなるに違いないと思ったのだ。


 今日で三日目。一日二件回っているので、ここで六件目だ。

 シリルの言う通り、かなり楽な仕事だった。移動時間を入れても五時間どころか午前中に終わってしまった日もある。


 そういう日はぶらぶら王都見物を楽しむことも出来た。まあ金が無いので見るだけなのだが。


 ただ今日はこの依頼が終われば目を付けていた屋台で買い食いするつもりだった。

 何と蒸して丸めた米にたれをつけて炙り焼きした、焼きおにぎりみたいなものを売っていたのだ。

 米など前世以来食べていないのでとても楽しみにしている。僅かに残っていた所持金をはたいてでも買うつもりだ。


 依頼の半分以上を終えた自分への、ちょっとした御ほうびだった。


 闇祓いの途中で一息つきながら、さやは思いを巡らせた。


(依頼もあと四件か。まだ四日残っているから、明日以降は一日一件ずつでいいや。どうせ最後にやる王宮の現場は、日にちも時間も動かせないし。そうしたら暇な時間も増えるから、仕事が終わった後にヒルダと落ち合って街見物にでも行ってみようか。依頼を完了して礼金が入った時に何を買うか、何をやるかを見繕うだけも気分が晴れそうだな)


 本当は侯爵令嬢の話し相手を務めることについてヒルダに相談したいところだった。

 だがこの依頼は秘密厳守だ。自分で何とかするしか無い。


 さやは必死に考えてその〝現場〟に対する僅かな策を思いつくと、その後は取り敢えず侯爵令嬢について悩むのは棚上げすることにしていた。


 そもそも自分は侯爵令嬢とは初対面だ。何を話せば良いかなど、考えても分かるはずが無い。

 だったら今は気楽な生活を満喫することにしたのだ。


 ちなみに街見物にシリルを誘うつもりはなかった。シリルの様子を見ていると、明らかにそんな余裕は無さそうだったからだ。


 朝はさやより早く貸家を出て、さやより遅く帰って来る。

 協会支部へ依頼を引き受けに向かった時は明るい顔をしていたが、帰ってくるとかなり沈んだ顔をしていた。

 その後も浮かぬ顔は晴れず、むしろ日が経つ毎に元気を失くしているようだった。


 そのことを思い出すと、さやもやはり気がとがめた。

 そうでなくともガーディアン研修で大変だろうに、さやの依頼の手配などという余計な仕事まで負わせることになったのだ。かなり大変なのではないだろうか。


(やっぱり折を見てちゃんと謝ろう。それとヒルダと相談して、なんかシリルの好きそうなものでも御馳走しよう)


 そう考え自分の良心をなだめたところで休憩を切り上げると、さやは闇祓いに再び集中して宿の主に頼まれた最後の闇をきれいに祓った。


「素晴らしい! 登録申請中だそうですが、聖女様と遜色ない程闇がキレイに祓われていますよ。協会に登録された暁にはきっとご活躍されることでしょうなあ」


 ランク付けも決まっていないヒーラーだからあまり期待していなかったのだろう、予想以上の仕上がりに大喜びする主にさやは軽く頭を下げると、モップを次元収納袋に仕舞った。


 そしてこれで今日の仕事は終わったと心の中で伸びをしながら帰ろうとした時、さやは部屋の北側にある机の後ろが気になった。

 何やら気配がするのだ。


 近寄ってみると案の定だ。僅かだが下から闇が染み出している。




明日も20時頃更新の予定です。


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