第45話 英雄と累との再契約②
「……解呪、だと」
堂々廻がゆっくりと振り返る。漆黒のコートに刻まれた記号が、大剥奪の余波を受けて蠢き、彼の背後に巨大な「法典の影」を形成していた。その声は、かつての軽薄な残響を一切削ぎ落とし、ただ冷徹に、世界の秩序を守るための「刃」として律を捉えていた。
「面白い。ならば証明してみせろ。お前たちの不条理が、神霊の理さえも書き換えるというのなら――この法的執行さえも、踏み越えてみせろ」
堂々が右手を天に掲げると、静止していた黒い雨粒たちが、一斉に鋭利な「文字の杭」へと形を変えた。
一つひとつが、人間一人の存在を完全に抹消する重みを持った弾丸。それが数千、数万という規模で、律と累を囲むように展開される。
「累、行くぞ!!」
律が吠えた。眼鏡を捨てた視界は、もはや「正解」を探してはいない。ただ、累の魂が放つ黄金の脈動を信じ、この崩壊しつつある世界を無理やり肯定するための論理だけを見据えている。
「応よ!! 律、オレを使いこなせ!!」
累が律の背中に重なり、その実体を影へと溶け込ませる。
律の全身を這う黒い痣が、累の黄金の光と衝突し、火花を散らす。本来ならば肉体を内側から焼き切るはずのその拒絶反応を、律は「パラドックス」の力で強引にエネルギーへと変換した。
「――術式・二律背反。反論開始!!」
律が地を蹴ると、展開されていた文字の杭が雨のように降り注いだ。
だが、律はそれを避けない。
彼の右手に握られた「矛盾の刃」が、累の神霊としての波動を纏い、襲い来る法的執行の言葉を一つひとつ「意味不明なノイズ」へと書き換えていく。
組織が「消えろ」と命じるならば、律は「ここにいる」という事実を叫ぶ。
組織が「死体だ」と定義するならば、律は「生きている」という執着でそれを殴り飛ばす。
「不法占拠者!! 貴様の論理は、ただの駄々を捏ねる子供のそれだ!!」
堂々が空中で印を結ぶと、杭が一本の巨大な「裁きの剣」へと収束した。
それは東京全土の『大剥奪』の力を一点に集めた、組織の権威そのもの。
「法の前には、執着など塵に等しい!! 存在を返還せよ!!」
「返還……? 笑わせるな!!」
律の右腕。白紙化が進み、もはや骨の感覚さえないその腕が、累の黄金に染まり、物理的な限界を超えて膨れ上がる。
「俺たちがここにいるのは、誰かに許されたからじゃない!! 俺がこの身体を奪い、累が俺を選んだからだ!! 奪ったからには、地獄の果てまで俺のもんだ!!」
ガギィィィィィィィン!!
律の「矛盾の刃」と、堂々の「裁きの剣」が激突した。
衝撃波で新宿のビル群が文字通り文字の塵へと分解されていく。だが、律の足元だけは揺るがなかった。
律は、累という神霊の全存在を自分という不法な器に注ぎ込み、組織が定める「所有権」という概念そのものを解呪し始めていた。
「……気づけ、堂々。お前の言う『正しさ』は、もうこの街には届かない!!」
律の背後。
『大剥奪』によって怪異に奪われかけていた人々が、律が放つノイズの光に触れ、一瞬だけ自らの意思を取り戻していた。
無責任な言葉を吐いてきた彼ら。救う価値などないかもしれない彼ら。
だが、その「醜さ」こそが人間なのだと、律は自分自身を鏡にして証明しようとしていた。
「法が正義だっていうなら、その定義を書き換えてやる!! 救われるべきは、正義でも法でもない!! 足掻いて、奪って、それでも生きたいと願う……俺たちみたいな大馬鹿野郎だ!!」
律の刃が、堂々の剣を内側から食い破り、その法典を、そして揺るぎない正論を掲げた仮面を叩き割るために加速する。
【組織幹部】堂々 廻
能力:循環論法
第三の眼周りからの論理の強制力を自動的に無効化。
さらに自身の感情を「組織の意思(仮面)」に捧げることで、一切の情を排した絶対的な論理執行を行います。
強制力: S(仮面装着時)
律 × 累:【二律背反の共鳴】
強制力:S+α
解説: 定義する者(律)と、矛盾そのもの(累)が一つになることで、世界の理そのものを再構築する、測定不能の力を発揮します。




