表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
8/26

07-眠れる場所

 やがて通路は少しずつ広がってきた。

 ついに膝を立てられる高さになり、そして立てるぐらいまで天井が高くなった。



 壁に手をつき立ち上がると、小さな空間が見えた。



 淡く光苔が生えている岩の隅に、木の実が山のように積まれているのが見えた。

 乾いた殻……噛み跡のあるものもある。


(……栗鼠?)


 だが、何が集めた食料なのかを深く考える余裕はなかった。



 私はどんぐりのような木の実をひとつ掴み、殻ごと噛み砕いた。

 苦みと渋みが口の中に広がり、喉が飲み込むことを拒む。



 それでも私は涙を浮かべながら飲み込んだ。



 2つ……3つ……。

 噛み砕き嚥下し、吐き気が込み上げても胃酸と一緒に押し込んだ。



 木の実の下には、真白く太い幼虫が見えた。

 私はしばらくソレを眺めていたが、躊躇した時間は短かかった。



 目を閉じて何かの幼虫を口に入れた。



 歯が触れ、弾力が潰れ、どろっとした感触と苦味が口に広がり吐き出しそうになるが、手で口を塞ぎ飲み込んだ。


 胃が動き、身体がわずかに熱を取り戻したのがわかった。



 ――――――――――――――――――――――



 そこから通路の先へ少し進み、座り込み、壁に背を預けて短く眠りに落ちる。


 夢は見ない。

 再び歩き出す。


 通路の先は緩やかに傾斜しており、足裏に触れる土の感触が少しずつ変わっていくのがわかった。


 湿り気が減っていき、代わりに小石が混じっているのがわかった。

 天井はところどころ低くなっているが背を丸めたり、首を傾けたりしながら進める高さだった。



 だか、突然前方に壁が現れた。

 岩ではなく土だが、触れてみると硬く削れるような土壁ではなかった。




 私は足を止めた。



(行き止ま……り……?)



 膝の力が抜け、崩れ落ちてしまった。

 ここまで来てまた閉じ込められるのかと、喉がひくりと鳴り、涙がこぼれ頬の土汚れを湿らせた。



 だが顔を上げ周りを見回した時、土壁の上方がわずかに明るいことに気づいた。

 薄く灰色の輪郭が見えたのだった。


 私はそっと近づき指で土に触れると、削れるように柔らかかった。

 根が絡んだ土で、上から水が染み込んでいた。


 残り少ない魔力を流してみると、この向こうにとてつもなく広い空間があるのがわかった。

 広い……風がある……。



(っ、地上……!?)



 私は両手で土を押し上げ、爪の間に土が入り込むのも気にせず根を千切り、塊を洞窟内へと落としていく。



 不意に隙間から冷たい空気が流れ込んだ。

 湿った森の匂い……腐葉土と苔、それに雨上がりの森の匂いだ。



(外だ……!)



 肩をねじ込み、土の天井を身体で押し上げた。


 背中と胸がが引っかかる息を止め、肋骨を縮めるようにして、もう一度押す。



 突然……視界が開けた。



 地面に転がり出たとき、まだ青白く夜と朝の境目の色が目に飛び込んできた。

 森は静まり返っており、枝先から雫が落ちる音だけが響く。



 見覚えはない場所だ。

 だが城の外だということだけは分かる。



 私は泥だらけの身体のまま柔らかな草地に倒れ込むと、しばらくそのまま仰向けで空を見上げた。

 雲の切れ間から淡い光が差しているのが見えた。


 ――――――――――――――――――――――


 身体を起こすと小さな沢が見えたがその横に小さな建物が見えた。

 丸太で組まれた壁に苔むした屋根と低い煙突。



 猟師小屋だろうか。



 ゆっくり立ち上がると、足裏が焼けるように痛むが、それでも一歩ずつなるべく音を立てずに小山へと近づいた。



 ……煙はない。



 軒先の薪は濡れて黒くなっていいるが、扉前の木板に新しい足跡はないようだった。

 地面は昨夜の雨で泥地になっていたが、誰も踏み込んだような形跡がない。



(使われていない……)



 そっと扉に手をかけ力を込めて押すと、木の軋む音が森に響いた。



 中は暗く、空いた扉から差し込んだ光でようやく見える程度だった。



 簡素な寝台と思われるモノがひとつ。

 壁際に干しされた飼い葉の束。



 それに隅に古い桶と鍋が転がっており、暖炉は冷え切った灰が広がっていた。


(……誰もいない)


 少なくとも数日は誰もきていないようだ。



 誰もいないとわかっているが、扉に閂をかけ室内を見回し、胸と腰に巻き付けていた泥まみれの布をほどいた。


 水と泥を吸い、重くなった布が床に落ち、その音がやけに大きく響いた。

 私は裸足で藁に近づくと、無言で指先で触れてみた。


 藁は奥の方まで乾いており、わずかに温もりが残っているような錯覚を覚えた。

 そしてそのまま身体を沈めると、藁が軋み背中を受け止めてくれる。


(寒くない……暖かい)


 それだけで氷が張っていたような胸の奥が温かくなり、身体の震えがゆっくりと収まっていった。

 外で鳥が鳴き始めて空が少しずつ明るくなっていくが、瞼が容赦なく重くなる。




 今度は土でも泥でもなく、乾いた藁の上で眠れる。

 そう思った頃には意識は沈み、深い眠りへ落ちていったのだった。


次話→明日20時頃投稿予定です

====

続きが気になった方はぜひブックマーク登録よろしくお願いいたします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ