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24-魂の片割れ

 ――冷たい。

 背中に容赦なく伝わってくる硬い石の感触。

 衣服越しでもはっきりとわかるほどの冷えが、じわじわと体温を奪っていく。

 ルナリアに……お姉ちゃんに蹴り飛ばされた。



 違う……あれは――逃がされたのだ。




 薄れていた意識の奥で、直前の光景が断片的によみがえってきた。

 差し伸べられた手ではなく、押し出すような力。

 振り向いたときに見えた、あの必死な表情……。



 ぼんやりと霞がかかっていた頭の中が、少しずつ澄んでいくき、遠くで鳴っていた耳鳴りが収まると、私はゆっくりと目を開けた。



 視界いっぱいに広がるのは深い闇の空間。

 はるか上方にだけ、淡くにじむような光が見えた。

 空の明かりのようにも見えるが、距離がありすぎて輪郭が掴めない。



 ここは……どこだろう。



 落ちる感覚は覚えている。

 地面に叩きつけられた衝撃と、その直後に足元が崩れ、さらに深く落下した記憶がある。



 ただの地面ではなかった。

 あれは岩盤ではなく、踏み固められた土でもなかった。


 荒く削られた石……人の手が入った石畳のようなものが、視界の端にかすかに映る。



(もしかして……遺跡?)



 かすれた思考の中で、その言葉が浮かんだ。



 体を起こそうとした瞬間、左足に鋭い痛みが走った。

 骨の奥から焼けるような刺激が広がり、思わず息が詰まる。

 視界が白く弾けて、歯を食いしばらなければ声が漏れそうだった。



(……折れてる)



 触れなくてもわかる。

 不自然な角度にまがった足に、わずかな動きにも反応する痛み。


 呼吸が浅くなり、胸がひゅう、と音を立てるが、泣いている暇はない。

 私は一刻も早く、捕まったであろう姉を助けなければならない。



 あの場に残ったのは、お姉ちゃんだ。



 自分を逃がすために背中を蹴り飛ばした。

 それが何を意味するか、考えたくはない。



 助けなきゃ。



 それ以外の選択肢は存在しない。

 それは何よりも優先されるべき仕事だ。



 理屈でも義務でもない。

 魂がそう命じている。




(……行かなきゃ)




 私は周囲を見回し、近くに落ちていた古びた木片を手に取った。


 湿り気を帯びた古木は、ひねればなんとか折れそうだ。

 歯を食いしばり、力を込めて折る。


 短く割れた木を足に当て、壁を這う蔦を引きちぎるようにして掴んだ。


 震える手で、必死に足を固定する。結び目は不格好だが構わない。動かなければいい。


 痛みで視界が滲み涙が勝手に浮かび上がる。


 けれど、それ以上に胸の奥が締めつけられていた。



 魂の片割れ。

 自分の半身。



 失えばきっと自分も壊れる。

 お姉ちゃんが酷い目に遭わされる前に。

 取り返しのつかないことになる前に。


 私は深く息を吸い焦りを押し込めるように、目を閉じた。

 耳を澄ます。



 闇は音を吸い込むが、完全な無音ではない。



 通路の奥から、ごくわずかな空気の流れを感じる。

 肌に触れる冷気も一定方向から来ているのがわかる。


 反響しているが、遠くで水の滴る音もする。

 細い流れがどこかを伝っているのだろう。



 指先で床をなぞる。

 無造作に積み上げられた岩ではない。

 平らに整えられた石床。



 その表面には、擦り減りながらも残る古い紋様が刻まれている。



 誰かが作った場所だ。

 ここはただの洞窟ではない。



 人の手が入った構造物……遺跡であることはほぼ確実だろう。



 ならば――必ずどこかに出口がある。

 崩れた穴以外にも、道はあるはずだ。



 私は壁に手をつき、ゆっくりと立ち上がった。



 固定した足に体重をかけた瞬間、鈍い痛みが脳天まで突き抜ける。

 それでも、倒れるわけにはいかない。


 足を引きずりながら、一歩を踏み出す。

 石床に響く、自分の不揃いな足音。


 一歩ごとに痛みが走る。

 汗が額を伝い呼吸が荒くなる。


 それでも止まるわけにはいかなかった。



 前へ。

 暗闇の奥へ。

 お姉ちゃんのいる場所へ。


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