23-黒く重く
ライゼンベルグの北部。
まわりの土地より隆起した丘の上に気づかれた城塞を兼ねた辺境伯の屋敷。
その屋敷の地下……石造りの広間の中央に、黒く曇った結晶柱が淡い光を発していた。
ライゼンベルグ辺境伯はゆっくりと目を開いた。
その濁った瞳の奥に、2つの強い魔力の点が浮かんだ。
「これは……良い実験体が手に入りそうだな」
低く静かな声が響く。
側に控える近衛が片膝をつく。
「いかがなさいますか」
辺境伯の瞳がわずかに細められる。
「人族なら殺せ。もう要らん。獣人ならまだ実験に必要だ……生かして連れてこい」
結晶に映された2つの魔力は、互いに呼応するように動いている。
「強い個体だな……上級冒険者か」
その声音にわずかな愉悦が混じった。
「捕まえたあとは地下に入れておけ。解体は次の満月の夜だ」
辺境伯が結晶に手を置くと光が強く脈打つ。
「逃がすなよ……?」
その命令と同時に、屋敷の北に広がる深い森へ精鋭部隊が放たれた。
――――――――――――――――――――――
森が……静かすぎた。
風は吹いているし葉も揺れている。
だが鳥の声もなく小動物の走る音もしない。
私は妹と目配せをし、戦闘用の短刀を両手に持った。
(……来る)
意識より先に耳の奥で理解する。
2人が高い木の上へ飛び上がった瞬間、さっきまで立っていたところに複数の矢が突き立った。
待ち伏せだった。
軽装の兵が木々の間に立ち、後方には魔法兵が控えていた。
(精鋭……なぜ?)
なぜこんなに的確に私たちを囲めたのか……疑問はあるが、私は1人目の喉を斬り、同時にシルヴィアが2人目の腕を蹴り折るのが見えた。
私たちは兵の中へ飛び込み乱戦に持ち込むと、同士討ちを狙いながら兵の手足の腱や喉を中心にナイフで撫で切っていく。
だが、数が減らない。
「捕らえろ!」
後方からの指揮官の声がして突如背後の地面が光る。
(――これも罠!?)
突如地面が白く発光し、あたりが揺れて足元が崩れた。
「ルナリア!」
「大丈夫!」
私たちは咄嗟に木の上へと逃げるが、大量の矢と魔法が飛んでくる。
「くっ! 多い!」
「シルヴィア! 後ろ!」
私たちは兵の集団をかき乱しながらも、包囲を抜けようと移動しながら攻撃を交わしていくが、崖沿いに追い込まれていた。
多勢……数の暴力にやり完全に転がされていた。
「辺境伯が実験に使われる獣人だ、殺すなよ!」
耳に入る言葉。
「解体したあとは、2人揃って容器に詰めてやるから安心しろ」
血が冷える。
(実験……)
妹の荒い呼吸が耳に入る……背後は渓谷だ。
もはや私に選択肢はなかった。
「シルヴィア」
「え?」
妹が反応するより早く、私はその横腹へ全力で蹴りを入れた。
妹の身体が空中へ投げ出され……深く暗い崖下へと落ちていった。
次の瞬間槍の柄が腹に叩き込まれ、肺の息が全て抜ける。
思わず膝をついたところに、複数の腕で押さえつけられた。
(守れなくてごめん……逃げて)
視界が暗くなる直前、私は崖下の闇だけを見つめた。
次話→このあと11時頃に投稿予定です
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