22-双子はどこにいった
道具屋の扉を押すと、小さな鈴が乾いた音を立てた。
狭い店内には革袋や保存食に松脂、縄や簡素な刃物が並んでいる。一見すると冒険者向けのよろず屋という感じだった。
帳場にいた男は顔を上げ、こちらをゆっくりと眺めた。
ただの客を見る目ではない。
店に入ってきた理由を量るような、薄く張り詰めた視線だった。
「いらっしゃい……何かお探しかな」
「兎…………兎の人形を2つ、買いに来ました」
男の目がわずかに細まるが、その表情は変わらなかった。
「色は?」
一瞬だけ……ほんの一瞬だけ呼吸が浅くなった。
「――銀と……青」
男は「銀……ね」とこぼすと帳場の奥に垂れ下がっている布をめくった。
「こちらにあります」
――――――――――――――――――――――
私は細い通路を抜け、裏の小部屋へ通された。
そこは倉庫のように見えるが、壁際には古びた木箱と、見慣れない石板が置かれていた。
薄暗い室内の中央に、白髪混じりの兎人族の老人が座っており古い羊皮紙に目を通していた。
長い耳は力なく垂れ、片方には古い裂傷が走っていた。
刃物かあるいは魔獣か――深く、命を削られるような傷跡だ。
「……確かエレン、だったか」
低く乾いた声だ。
名を呼ばれただけなのに、胸の奥を見透かされたような感覚がある。
ルナリアかシルヴィアから聞いているのだろうと思いながら私は頷いた。
老人はわずかに口の端を上げた。
「わしはレグナルト。この店に居候させてもらってる隠居だよ」
軽く言うが、その目は濁っておらずかなり鋭い。
ただの隠居でないことは、その傷と空気が物語っていた。
私は背筋を正した。
「エレンです。ルナリアとシルヴィアにお世話になってて今日は――」
「わかっておる」
レグナルトは私の言葉を最後まで待たず、隣に置かれた小さな金属の輪に指を触れた。
それはルナリアが持っていた護符のようにも見えたがもっと古い昔のものだとわかるものだった。
中央には淡く曇った石が嵌め込まれている。
「先日、ライゼンベルグ辺境軍が何らかの作戦を行った」
「作戦……?」
「精鋭部隊が動いた……ようだ」
片方はおそらく捕えられただろう……もう片方はおそらく今はまだ無事だろうとレグナルトは説明する。
「どうして……」
どうしてそんなことがわかるのか。
わかるならなぜ……と思ったが、その疑問を口にする前にレグナルトが答えてくれた。
「我ら一族は便利な遺物を持っておっての。わしはそれを通じて付近の様子を探ることができるのだよ。片方は地上に近いが、もう片方はもっと近深くにおるようだ」
「……地下?」
老人は頷いた。
「古い遺跡か何かだろう。ライゼンベルグの辺境伯の屋敷の北側一帯に走っている」
部屋の空気が静まり返る。
あの屋敷にそんな地下遺跡があるなど、初めて聞いた。
レグナルトは石に触れたまま、目を細める。
「ふむ……地上に近いほう……おそらく辺境伯の城の地下だろう。その近くに強力な遺物が――精神を狂わす類の遺物……それぐらいしか、わしにはわからん」
背筋に冷たいものが走る。
父の変貌や地下の実験……すべてが一本に繋がってしまう。
(ルナリア……シルヴィア……どうか無事で……)
レグナルトの指先の石がかすかに震えると、連動するかのように外套の内側に入れてある木彫りのお守りがわずかに振動した。
(……っ!?)
遠く――街道の遙か向こう……渓谷を超え、深く広がる森を越え、城の方向へと意識を伸ばす。
さっきまでぼんやりとしか視えなかったはずなのに、今回は違った。
ひとつ……はっきりと動かない輪郭が視える。
何かに縛られているような、重い魔力を感じる。
もうひとつ……こっちはさらに地中深く……深く沈んだ場所で、かすかに揺れている輪郭……。
ズキ、と頭の奥が痛む。
「見えたか」
レグナルトの声は、私が何をしていたのか理解しているようなものだった。
私は息を整え頷いた。
「……2人が、視えました。一つは地上近く。もう一つは、もっと深い場所に」
私は目を開ける。
「助けに行きます」
その言葉は自然に出ていた。
私なんかが行っても助けられるのかという疑問は、自ら打ち消す。
「正面からは無理じゃぞ……向かうなら地下からだ」
老人は石から手を離す。
「城の下に走っている古い遺跡を辿れば合流できるはずじゃ……。お前の力――空間を読むことのできる力ならあるいは」
胸の鼓動が早まる。
理由はわからないがお父様が軍を動かし、2人のうちどちらかを捕え、片方は近深く……そして屋敷にあるという危険な遺物。
それでも……2人はまだ生きている。
「行きます」
「国境の近く……アイゼン一族が使っている抜け穴があるはずじゃ。そこを使えばライゼンベルグの森まで抜けられるだろう」
待つ時間は今日で終わりにしょう。
次話→このあと9時頃に投稿予定です
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