19-冒険者ギルドと手配写真
「じゃぁそろそろ冒険者ギルドへ行こうと思うの」
「エレンの身分証を作ろうと思うの」
冒険者ギルドの身分証明書……利用できる権限は深くないが、範囲は一番広い。
色々な国で使え、あちこち移動し街に入ったりするだけなら十分すぎる代物だと記憶している。
しかし本来の……国や領主が発行した正規の身分証が無い――つまり得体のしれない人物に身分証を発行するには、それなりの後ろ盾や許可が必要なはずだ。
「あの……」
「だいじょうぶ――私たちに任せて」
「気にしないで――私たちもオーブのこととか調べたいから」
気にしなくていいらしい。2人が言うからには冒険者ギルドの冒険書については問題なく発行してもらえる算段なのだろう。
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石畳を踏みしめながら、私たちは大通りを南へと歩いていた。
夕暮れの街は昼とはまた違う匂いで、焼いた肉や酒の匂いが混じっており、街の人達が生きていると感じられる時間だった。
「ギルドは街の中央にある市場と武具屋の間なの」
「何度も来ないとは思うけれど、覚えておいて」
2人に連れられるままに街を進むと、大きな石造りの建物が現れた。
2階建てのようだが天井が高いのか、他の建物に比べて高さがある。
正面には幅広い入り口があるが、分厚い木造の扉は開け放たれており、扉の上には剣と斧が交差したような紋章が掲げられていた。
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出入りする人がかなり多い。
革鎧や金属鎧を身につけた男、弓を負う女に、どうやって背負っているのかわからないほど重そうな荷を担いだ者。
笑い声と罵声が混ざり外まで響いている。
(ここが、冒険者ギルド……)
中へ入った瞬間、空気が変わった。
木と鉄と汗の匂いが混じり、壁には依頼書が貼られ、中央には長机が並び、酒を飲む者で溢れていた。
奥には木の柵で仕切られた窓口があり、奥の扉からは職員らしき者が書類を運んでいるのが見えた。
「すごく賑やかですね……」
「夕方は依頼報告が多い時間帯だからね」
シルヴィアは答えながら迷うことなく窓口へと向かった。
右手の壁に大きな掲示板があり、賞金付きの手配書がいくつも貼られていることに気づいた。
盗賊、魔術師、逃亡兵……何気なく視線を向けた瞬間、指先が冷えた。
自分の顔が……そこにあった。
正確ではない似顔絵だが、髪の色や髪型、年齢、辺境伯家の紋章。
『重罪人/生死問わず』という文字が、赤く強調されていた。
足が……床に縫い止められたように止まりかけた。
「……」
声にならない息が喉の奥で絡まり、口の中が急に乾き始めた。
「エレン」
「おいで、エレン」
すぐ横でルナリアとシルヴィアが何度も偽名を口にし、手を引いてくれた。
「気にしない」
「あんなの無視、無視」
掲示板に貼られた紙から、無理やり視線を引き剥がされたが、赤い文字が脳裏に焼き付いて離れない。
ここが安全だと信じていたわけではない。
それでも、現実は容赦なく目の前に現れる。
窓口に着くとシルヴィアが先に名乗った。
職員の目がわずかに見開かれた。
「……あぁ、お二人さんか。ちょうどハルトヴィンさんがいるよ。奥で少し待ってくれ」
2人と私は扉の奥へ通され、石造りの廊下を足音を立てながら進んだ。
――――――――――――――――――――――
通された会議室は簡素だが整然としていた。
長机と椅子、壁にはこの辺りの地図のようなものが掛けられていた。
ほどなくして入ってきたのは、背の高い男だった。
濃色の外套に整えられた髭に鋭い視線。
だが男は双子を見ると、口元がわずかに緩んだ。
「久しいな、ルナリア、シルヴィア」
「ハルトヴィン副監督官、お久しぶりです」
「また面倒を持ち込みに来たのか?」
「否定はしない」
軽いやり取りのあと、ルナリアがオーブを机に置いた。
男の目が細まり、指先が止まる。
「また妙なものを拾ったな……遺物か?」
「多分……魔力を吸う」
「使い道は不明。今度もう一方の遺跡も調べるつもり」
「場所は前の調査対象の近くか?」
双子が地図を指し示しながら簡潔に説明し、ハルトヴィンは黙って印をつけ、しばらく思案した。
「で、そっちは?」
シルヴィアが、こちらへ視線を寄越す。
「知り合い。遺跡調査に便利な魔法が使える。ギルド登録してほしい」
ハルトヴィンの目が自分へと向いた。
静かに値踏みするような重い視線。
「……お前さん、名は?」
私は事前に2人と決めた通り、口を開く。
「エレン。生まれは――」
準備していた設定を、落ち着いて答えていく。
出身地、経歴、職歴……矛盾が出ぬよう慎重に。
ルナリアが横から自然に補足を入れてくれた。
ハルトヴィンは説明を聞くと腕を組み、しばらく沈黙した。
「……一応聞くがエレン、国か領地発行の身分証は持っているか」
「持っていません」
「そうか……最初は見習い扱いの仮登録だ。すぐに作ろう」
思わず顔を上げた……反応からして明らかに疑っている節があったのに……だ。
「いいんですか」
「こいつらの名前は軽くない」
ハルトヴィンは椅子を引き立ち上がると、扉へ向かいながら振り返った。
「少し待て。書類を回してくる」
扉が閉まり、足音が遠ざかると部屋に静けさが戻ってきた。
「……2人の……名?」
思わず声に出ていた疑問に、ルナリアが肩を竦める。
「私たち、これでも上級冒険者だから」
あまりにあっさりした口調だった。
上級冒険者……冒険者ギルドだけでなく、その多大なる貢献により国にも認められた冒険者だ。
「この辺りの遺物や遺跡関連は、ほぼ私たちの専門みたいなもの」
その言葉を聞いて、ようやく色々と納得した。
ルナリアとシルヴィアの運動能力が凄まじいが、顔の広さや知識もすごいのだ。
まだ数日しか一緒にいないが、彼女たちの凄さは身をもって理解していた。
次話→明日の7時頃に投稿予定です
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