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ヒロインと(自称)ヒロインが嫌いなヒト

予約投稿です

「…は―ちゃん、今のはなんですか?」

「解説させんな」

「いや、解説してもらわなきゃ分かんないよ、サッパリピーマンです」

「いや、なんか…」

「うん?」


如月は頬を更に上気させて口元を片手で遮って目を逸らした。


「ほかの…登場人物やつらに盗られるの…惜しくなったっていうか」


「はあ?」



満員電車の車内にもかかわらずかなりの音量で声を荒げてしまい、ハッとして声を低くする。


「でも!は―ちゃんは私のことヒロインのこと大嫌いなんだよね?!」

「うん、吐き気がするくらい嫌い」

「それでなんで?!」


思考回路がサッパリ分からぬ、いまどき男子って脳みその造りからちがうのかしら、と疑うイツキ。


「……学校、何で休んでんの?」

「……い、今そんなこと話してなんか、なかった」

「目ぇ逸らすな」


ぷいと背けた顔の頤を指先で直されて再び問いただされる。


「何で、学校休んでんの?」

「…黙秘します」

「誰か…そうだな、顔も会わせたくないくらい…嫌なことがあったとか」

「黙秘!」

「あんた分かりやすいなあ」


「そういうの、なんか悔しいっていうか……苦痛で顔を歪めるのも涙を見るのもおれだけがいい」

「ドSですか?!」

「ああ?ちげーよ!物の例えだよ!」

「どういうたとえよ!」

「とにかく!ひと目に晒したくねえの!ぶっちゃけ今のあんたの目死んでる!見てらんねえの!!」


イツキは言葉を詰まらせて視線を泳がせた。

見てられないくらい目が死んでるじぶん…先週の美術室での出来事が痛いくらい鮮やかに目の前に蘇ってきて。


「っ……吐く」

「えっ」

「きぼぢわるい…」

「ちょ!ちょっと待て!次の駅で!次の駅まで持ちこたえろ!!」




「スッキリ爽快!復活!」

「そう言うあからさまな言い方マジでやめてくんねぇ?!」

「いやー…望月環状線で乗ったり降りたりするのは感慨深いです」

「電車…乗れねー理由とかあんの?」

「もともと電車で来たからじゃない?簡単に元の家に帰られると困るんじゃない?」

「だれが…」


イツキはすっと人差し指を空に向かって立てた。


「寄越した人」

「カミサマとかクサイこと言わなくて安心したよ」


イツキはベンチに座って空いてるスペースをぽんぽんと叩いて座るように促した。

しぶしぶといった風にベンチの端ぎりぎりに如月が腰を下ろす。それが少し可愛らしいなと思って頬を綻ばせた。


「は―ちゃんはヒロインのこと嫌いだよね?」

「外では―ちゃんはやめろ」


イツキは膝を打って覚悟を決めた瞳で如月を射抜いた。


「なら…好感度を下げることが出来るのか……試させてもらうよ」

「は、はあ?」

「私は――――…」


イツキはかけ値なしの本気で、ここに来た経緯と先週美術室で起こったこと、パラメーターのことを包み隠さず全て、如月に話した。


にわかには信じられないこと、眉唾ものの話を聞かされて人がどう反応するのか正味のところイツキには分からなかったけれど、端から自分の存在そのものを認められないと言っていた如月にならなんと罵られてもいいと…思った。




「ふうん、で?」


予想外に淡白な反応にイツキは目を白黒させる。


「えっ!それだけ?!罵らないの?罵倒しないの?!辱めないの?!」

「おれがいつあんたを辱めたよ?!」

「だって!なんか!思ってた反応と違うんだもん!」


「パラメーター確認してみろよ、おれのは上がったか?下がったか?」

「う、ちょっと待って」


人にパラメーターの確認をしてみろ、と冷静に言われるとどこか恥ずかしいものがこみ上げる。


「あ、@ディスタンス起動」


仄暗い駅を背景に天使が羽ばたいて聖書を持った子がおもむろにデータを取り出す。


「どう?」

「………全体的に格段にグラフ変化して……素直さが著しく上がってますね…どうしたの?」

「ぐふうっ!」

「ど、どうしたの急に!!咽たの?息が苦しいの?!」


胸元を抑えて如月がわなわなと震えている。


「め、目の前で解説されると精神的に……もたない」


と、いうことはあながち間違っていないという事だろうか。


「で、それをそのトモダチ?に使ったのか?」

「使ってない」

「使ってないのに、何で逃げたよ。そいつも知らないんだろうパラメータは全員に付属するっていうこと」

「つ、使ったら……その子の信頼を…疑う事になる」

「実際今疑ってんだから元も子もなくね?」

「っ」

「あんた怖くなって逃げただけだろ?もともと信じられなかったんだろ?実際信じ切れなかったんだろ?」

「がう、ちがう!!」

「じゃあ何で問いたださなかったんだよ!その場で起動させなかったんだよパラメーター!!」

「嫌いだって言われるより、心の中で思われてる方が辛いからだよ!そうだよ!怖いよ!いけない?」


イツキは早口でまくしたてた。


「はじめてできた友達なの!好きなの!なのに私その子の彼氏といちゃつかないといけないんだよ?手を繋いで?デートして?キスして?それなのに平然とした顔で会えると思う?その子全部知ってるのに?…そんな奴友達になんてしたくないに決まってるじゃん!追い打ち自分でかけて死にたくなったらどうしてくれるの!!」


「だから、それ友達に言ったか?悪いの完全その友達と彼氏だろ、そいつらの方が罪悪感で死ねるね!」


「え?」


「お前知らなかったんだろ?友達が前もって知らせとけばわざわざ会いに行くこともなかったし、最悪の鉢合わせだってしない、意図的にルート固定しなければオールオーケー、あんたは素直にパラメーターのことを教えられてた可能性もあるだろうよ。学校休まれてる側からしたら加害者感半端なくて死ねるよ、まじで」


「……めぐるはまだ私に愛想尽かしてないと思う…?」




あんたは恋する乙女か!と一喝したくなるような一言にこめかみをぴくぴくと震わせる。

涙目で、信頼しきった顔で、無防備に、そんな表情を簡単に人に見せるな。

ここまで無自覚なまま来ると本当に神経を逆なでして苛立たせるのが上手なやつだと舌を巻く他ない。


「愛想……尽くされるような事したのか?」

「…してない」

「あんたもうちょっと胸張れよ」

「してない!」

「おれに張ってどうする」

「とりあえず!」



「………いざとなったらおれんとこ来い、さすがに手が出ねえだろ」

「だから嫌いなのに何で?」

「……今のあんたそんなに…悪くねえ」

「これで…素直ゲージの上がったはーちゃん…まだまだ育てないと意志疎通難しそう…」

「その残念な物を見るような目やめてくんない?マジで!」


とにかく帰るぞ、とひっ立てられて再び電車に乗ったのだった。









「イツキ!!!!」


悲鳴を上げるように名前を呼ばれ驚きに身をすくめた。

イツキが玄関を開けるよりも早く、マミーが飛び出してきて抱きつぶした、と理解した時にはもう彼女の腕の中だった。


「イツキごめんね、ごめんねぇ…怖かったねぇ」


置いてけぼりで思考も感覚も停止していた頭と心がマミーの言っている事やってることを分析しはじめる。


「マミー…いいよ、被害届…ちゃ、んと如月君と出してきた、し。イベントの一部なのかも…演出かもって薄々感づいてるから」


「そんなはずないでしょっ!やっぱり…!行かせるんじゃなかった!本当はこんな怖い思いしなくても済んだのにぃ!イツキが元気になれるようにって思ったのに!!」



抱き潰されて頭の後ろ側でマミーがどんな顔をしているのか分からない、でもあやすように髪を指先で梳いてみる。


「だいじょぶ、大丈夫…今日はね、外に出たおかげでは―ちゃんと仲良くなれた!」

「ごめんねイツキ、イツキ、ごめんねぇ…」

「店長さんにメイクもしてもらって…学校に行くきっかけも貰った、マミー泣かないで」


泣きやむ気配のないマミーにイツキは困惑しきっていた。

いったい何がそんなに悲しいのだろうか。明るく声をかけてもまるで逆効果だ。昨今、実の母にもこれほど長く抱きしめられた記憶が無い。





「……おかあさん?」


まるで電流が駆け巡ったかのように素早く肩に埋めていた顔をバッと離して大きな瞳を更に大きく見開いて見つめた。


「イツキちゃん、今なんて?」

「おかあさん?」

「何で…今呼んじゃうかなあ」

「なんでもかんでも…マミー謝ってばっかりで私の顔見てくれないんだもん」

「あれ、元に戻っちゃった…」


イツキは一歩下がってマミーの手をぎゅっと握りしめる。


「ただいま、お母さん」

「おかえり…イツキ!」


何でかマミは強く抱きしめ直すと、再び泣き崩れてしまった。

肝心のイツキには何が起こっているのかまったくわからなかったけれど、抱きしめられるというのも悪くないなあとぼんやり立ちつくしてマミの抱き枕よろしく抱かれていた。




「で、こんなありさまなのによく見ていられたね?」

「あんたが天然のたらしだって言う事が良く分かった…」

「そうなのよ!天使すぎない?!っていうか、名実ともに私の天使よね!!」


マミの口調に驚きを禁じえないのか肩頬を引きつらせてかたまって「そ、そうっすね」と無難に相槌を打っている。


「こういう人だから気にしないで、おかあさんこの人は如月肇君、通称は―ちゃんよ」

「外でその呼び方はやめろっつってんだろ!!」

「あら、なんだか前より丸っこくなったわねは―…如月君」

「今日はは―ちゃんの護衛があったおかげで無事に帰ってこれました」

「だからよせよそう言うの」

「ついでに、いざとなったらおれが面倒みてやると言ってくれました!」

「お嫁には行かせませんよ?!」

「かなり歪んだ解釈されてるけどおれはそんなこといってないですからね?!」


殺気だった視線で射抜かれて泡食って否定する。

意味合いはあってても受け取り方が間違ってる!!


「だから、自宅警備員になっても見捨てないでくれる人がいるから…轟沈覚悟で、話をしてみようと思う」

「イツキ…?だめよ、まだまだ疲れてるんだから」

「玄関先で話すと疲れちゃうから…中に入ってゆっくり話そう?はーちゃんも、おねがい」



如月は首を横に振ろうとしたが、イツキの目を見てしまうと頷くしかなかった。


「あのね……」


今度はマミに、学校で起こった出来事と如月とのやり取りのあらましをゆっくりと時間をかけて話した。

マミは改めてその言葉を否定する。


「いけません、めぐるちゃんがどんなにいい子でも…また繰り返す事は決まっています」

「おかあさん、お願い、今度は誤解が無いようになんとかして見せるから」

「だめよ、傷つくことがはじめから分かってるのに……今のままじゃだめ」

「じゃあ、どうなったらいいの?」


マミは虚をつかれたように、珍しく黙りこんだ。


「立ち直る、今日みたいに前を向いてみせるから。うまくいかなかったら…お母さんの言う通り自宅警備員の道極める」


そこで「はあ?!」と声を荒げて猛反対したのは、意外なことに如月だった。


「ざけんな、引きこもり予備軍なんておれは認めねえよ?!」



ぐいっと腕を勢いよく引かれたもんだから倒れ込むように如月の胸に縋りついた。


「いいですか、この顔見てください、化けたと思いません?こんなのを家に一日中化粧もせずに置いておくなんて理解できませんね」

「ええ、天使すぎて悶えちゃうのは同意見よ」

「も、もし仮に…学校に行けないくらい塞ぎこんだら…こいつはうちの店で働いてもらいます」

「はあ?!」

「そうすれば万事解決です」


「如月君、あなた分かってる?それって立派な〝罰則ペナルティ〟よ?」


「おれにルート固定させておけば、そこまで重くは無いでしょう」


イツキの知らない単語で知らないことを話しているが、ふたりはそれを説明しない。

マミは呆れた顔で「あなた」と呆然と声を漏らす。


「本気?それって……この子の一生を背負うってことよ?」

「悪くないんじゃないっすかね」

「……本当に、私の知ってる如月君とは別人ね、あなたもっとヒロインのことを目の敵にして排除しようとして…関わらないようにしてたのに」

「さあ、きまぐれですよ」


如月を見上げる。


「は―ちゃん、よくわかんないけどそんなとんでもないことされると愛が重たいわ」

「あんたがうまいこと折り合いつけりゃあ…そう言う事にはならなくね?」

「愛が重たいんだけど、は―ちゃんホントにヒロイン嫌い?」

「血反吐が出るほど」


マミは処置なしと言わんばかりに声を上げて笑って居心地悪そうに胸に縋ったイツキを突き放した。


きりのいい所まで書きあがったのでもう一話アップしますね

如月は扱いやすくていいキャラしてます


これから出てくるのは素直じゃないキャラばっかりです

こういうデレてくるキャラはいけませんね楽しくなって筆が進んでしまいます

しかし、一人ひとり丁寧に(?)しつこく書こうと思いますので

気長に待っていただけると幸いです

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