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平穏を望む宮廷魔導師は、自由気ままに暮らしたい  作者: nene
第1章 春風の街、フィオーレ

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第16話 森に眠る古い結界


 辺境伯家から戻った翌朝、エリアスは一通の手紙を書いていた。


 宛先は王都の王立魔導院。長年、彼の仕事を支えてくれたオスカー・リードである。


 休暇に入ってから、まだ一度も近況を知らせていなかった。


 出発の日、オスカーには到着したら手紙を書くよう念を押されていたのだが、街を見て回るうちに、つい後回しになってしまっていた。


『オスカーへ


 フィオーレに到着してから、十日ほどが経ちました。


 こちらは春の花が美しく、食事もおいしい街です。宿の方々にも親切にしていただき、毎日楽しく過ごしています。


 最近は冒険者ギルドにも登録しました。薬草の採取や畑の調査など、王都では経験できなかったことを学んでいます。


 それから、森で小さな白い獣を保護しました。リュカと名づけ、今は一緒に暮らしています。


 体調も良好ですので、どうか心配しないでください。


 エリアス』


 そこまで書いたところで、筆が止まった。


 何か忘れているような気がする。


 エリアスはここ数日の出来事を思い返した。


 冷却魔道具の修理。


 古書店での出会い。


 辺境伯家への訪問。


 そして、森で見つけた石柱。


「……そうでした」


 手紙の末尾に、もう数行を書き加える。


『追伸


 北の森で、古い結界術式の一部と思われる石柱を発見しました。現在は調査を急がず、周辺への影響を確認しています。


 休暇中に無理をするつもりはありませんので、ご安心ください。』


 書き終えると、エリアスは満足して便箋を折り畳んだ。


 机の上では、リュカが白い尾を揺らしている。


「これで、オスカーも安心してくれるでしょう」


 リュカは返事をせず、封筒の角を前脚で押さえた。


「それは食べられませんよ」


 エリアスが封筒を引き抜くと、リュカは不満そうに耳を伏せた。


 その様子を見て、エリアスは小さく笑った。


 手紙を出したら、今日は市場で新しい果物でも探してみよう。


 そう考えていたところへ、部屋の扉が叩かれた。


「エリアスさん、お客さんです!」


 ノアの声だった。


「どなたでしょう?」


「辺境伯家の方です。昨日も来ていた馬車の人だと思います!」


 エリアスは封筒を机へ置いた。


 昨日の今日で、何か用事ができたのだろうか。


「すぐに下ります」


     ◇


 食堂では、辺境伯家の紋章が入った上着を着た男性が待っていた。


 昨日、屋敷で案内してくれた使用人だった。


「レインフォード卿。朝早くから申し訳ございません」


「いえ。何かありましたか?」


「セドリック様から、お手紙を預かっております」


 差し出された封筒には、見覚えのある緑色の封蝋が押されていた。


 エリアスは礼を述べ、その場で手紙を開いた。


『エリアス殿


 昨日は楽しい時間をありがとうございました。


 お話しした古い地図について、父の許可が得られましたのでご連絡します。


 本日午後、書庫をご案内できればと思います。


 なお、北の森に関する記録を整理していたところ、少し気になる記述が見つかりました。


 お時間があれば、ぜひ一緒に確認していただきたいのです。


 セドリック・エルフォード』


 エリアスは便箋を閉じた。


「午後でしたら、伺えます」


「ありがとうございます。では、そのようにお伝えいたします」


 使者が帰ると、ノアが厨房から顔を出した。


「また辺境伯家からですか?」


「ええ。昨日お話ししていた資料を見せていただけるそうです」


「資料?」


「昔の地図です」


「……地図のために、わざわざお屋敷へ?」


 ノアは少し驚いた様子だった。


「とても古いものらしいので、楽しみなんです」


「エリアスさんって、本当に本とか古いものが好きですよね」


「ええ。昔の人が何を考え、どんな暮らしをしていたのか、知ることができますから」


 ノアは感心したように頷いた。


「僕だったら、昔の地図を見てもよくわからないだろうなあ」


「今の地図と比べるだけでも面白いですよ。なくなった道や、場所が変わった建物もありますから」


「へえ。そういう見方もあるんですね」


 そこへ、ミラが朝食の皿を運んできた。


「ほら、二人とも。話してないで食べなさい」


 温かい卵料理と、焼きたてのパン。


 香草を加えたスープからは、湯気が立ち上っていた。


 エリアスは礼を言い、席に着いた。


 リュカは足元で、朝食が始まるのを待ち構えている。


 どうやら、今日も食事の時間だけは正確に覚えているらしい。


     ◇


 辺境伯家の書庫は、屋敷の西棟にあった。


 高い天井の部屋には、壁一面に書棚が並び、古い地図や記録集が大切に保管されている。


 窓には厚手のカーテンが掛けられ、室内は少しひんやりとしていた。


「お待ちしていました、エリアス殿」


 セドリックが机の前から立ち上がった。


「こちらこそ、お招きいただきありがとうございます」


「昨日の今日で申し訳ありません。気になることを見つけると、どうにも落ち着かなくなる性分でして」


「お気持ちはよくわかります」


 エリアスが答えると、セドリックは少し笑った。


「そうおっしゃっていただけると思っていました」


 机の上には、大きな地図が広げられていた。


 紙は黄ばんでいたが、保存状態は悪くない。


 細かな文字と複雑な線が、リュネリア地方の地形を描き出している。


「こちらが約三百年前の地図です」


「……ずいぶん詳しいですね」


 エリアスは地図へ近づいた。


 山や湖だけでなく、古い街道や集落の位置まで記されている。


 現在のフィオーレに当たる場所には、小さな村の印が描かれていた。


「この頃は、まだ街が小さかったのですね」


「ええ。フィオーレが現在の規模になったのは、百五十年ほど前からだそうです」


 セドリックは地図の北側を指差した。


「ご覧いただきたいのは、こちらです」


 そこには、森を横切る細い道が描かれていた。


 道は現在の薬草畑に当たる場所から北へ伸び、いくつもの小さな印を通って、森の奥へ続いている。


「……これは」


 エリアスの目が止まった。


 道沿いに描かれた印には、見覚えがあった。


 腰ほどの高さの石柱を表す、簡単な図柄。


 先日、薬草畑の近くで見つけたものと一致している。


「同じですね」


「やはり、そう思われますか」


「ええ。この位置なら、私が見つけた石柱とほぼ重なります」


 セドリックは頷いた。


「古い記録では、これらを『境界の標』と呼んでいます」


「境界の標……」


 エリアスは地図を見つめた。


 道沿いに並ぶ石柱は、全部で七つ。


 その先には、円形の建造物らしきものが描かれていた。


「こちらの建物は?」


「記録には、ただ『北の祭殿』とあります」


「祭殿ですか」


「ええ。用途は不明です。今では所在もわかっていません」


 エリアスは建造物の周囲に描かれた線へ目を向けた。


 普通の地図なら、地形を示すための線だろう。


 しかし、これは違う。


 円形の建物を中心に、細い線が規則的に伸びている。


「……セドリック様」


「何でしょう」


「この地図は、どなたが作成されたものですか?」


「三百年前、当家に仕えていた測量師だと伝わっています」


「魔導師だった可能性はありますか?」


 セドリックは少し考えた。


「そこまでは調べていません。何か気になることが?」


「ええ。この線の引き方です」


 エリアスは地図の北側を指差した。


「地形を表しているように見えますが、実際には魔力の流れを記録しているのかもしれません」


「……魔力の流れ?」


「はい。石柱を結ぶ線が、通常の街道とは少し違う形をしています」


 エリアスは鞄から手帳を取り出し、空いたページへ簡単な図を描いた。


 中央に円を置き、その周囲へ七つの点を配置する。


 それらを細い線でつなぐと、ひとつの大きな魔法陣に似た形になった。


「……なるほど」


 セドリックは図を見つめた。


「つまり、石柱はそれぞれ独立しているのではなく、つながっていると?」


「その可能性があります」


 エリアスは頷いた。


「もしそうなら、ひとつの石柱に異常が起きたとき、ほかの石柱にも影響が出るかもしれません」


 セドリックの表情が引き締まった。


「……それは、困りますね」


「ただし、まだ推測です。実物を確認しなければ断定できません」


「そうですね」


 セドリックは机の端に置かれた別の記録集を手に取った。


「では、こちらもご覧ください」


     ◇


 古い記録集には、森に関する出来事が年代順に書き留められていた。


 豊作だった年。


 大雨によって街道が崩れた年。


 魔物が増え、森への立ち入りを制限した年。


 そうした記録の中に、エリアスは気になる一節を見つけた。


『春の終わり、北の森にて魔力の乱れを確認。境界の標、三か所に異常あり。


 祭殿の守護術式を調整し、森の魔力は安定を取り戻した。』


 エリアスはその文章を二度読んだ。


「……守護術式」


「やはり、気になりますか」


「ええ」


 記述自体は短い。


 けれど、重要な情報が含まれていた。


 境界の標。


 祭殿。


 守護術式。


 それらが、ひとつの仕組みとして働いていた可能性が高い。


「この記録を書いた人物について、何かわかりますか?」


「残念ながら、名前は記されていません。ただ、当時の辺境伯が王都へ報告した文書にも、似た記述があります」


「そちらも拝見できますか?」


「もちろん」


 セドリックは書棚へ向かった。


 その間、エリアスは地図へ視線を戻した。


 七つの石柱。


 森の奥にある祭殿。


 そして、古い守護術式。


 もし、この仕組みが今も働いているなら。


 薬草畑の魔力が乱れたのは、単なる石柱の故障ではないのかもしれない。


 エリアスは少し考え込んだ。


 先日行った応急処置は、あくまで魔力の偏りを和らげただけだ。


 石柱そのものには、大きな変更を加えていない。


 それは正しい判断だったと思う。


 しかし、原因がもっと奥にあるのなら、根本的な調査が必要になるだろう。


「……エリアス殿」


 戻ってきたセドリックが声をかけた。


「ひとつ、気になっていることがあります」


「何でしょう?」


「最近、北の森の周辺で魔物の目撃が増えています」


「ギルドでも、そのような話を聞きました」


「ええ。幸い、大きな被害は出ていません。ただ、普段は人里へ近づかない種類まで見られるようになったのです」


 セドリックは記録集を机へ置いた。


「私は、森の環境に何らかの変化が起きているのではないかと考えています」


「……そうですね」


 エリアスは頷いた。


「少なくとも、魔力の循環には異常が生じています」


「調べることは可能でしょうか」


 その問いに、エリアスはすぐには答えなかった。


 王都にいた頃なら、調査の必要性が認められれば、すぐに魔導院の人員を動かせただろう。


 しかし、今は休暇中だ。


 しかも、発見された古い術式がどのような役割を持つのか、まだ十分にわかっていない。


 不用意に触れれば、かえって状況を悪化させるおそれがある。


「……まずは、外側から状態を調べるのがよいと思います」


 エリアスは答えた。


「術式に手を加えず、石柱の位置と魔力の流れを確認するだけなら、危険は比較的少ないでしょう」


「なるほど」


「ただ、森の奥にはまだ足を踏み入れていません。道に詳しい方の同行が必要ですね」


「こちらから案内役を手配することもできます」


「ありがとうございます。ですが、ひとり心当たりがあります」


 エリアスはカイルの顔を思い浮かべた。


 森の地形に詳しく、危険への対応にも慣れている。


 それに、何より信頼できる友人だ。


「冒険者のカイル・ヴァルディスという方です」


「ああ、カイル殿ですか」


 セドリックは名前を聞いて頷いた。


「存じています。ギルドでも評判のよい方ですよ」


「そうなのですね」


「ええ。腕が立つうえ、依頼を途中で投げ出さない。少々、報告書の提出が遅いという話もありますが」


 エリアスは思わず笑った。


「それは、私も聞きました」


 セドリックも微笑んだ。


「では、カイル殿へご相談いただけますか」


「はい」


「必要な許可や資料はこちらで用意します。ただし、無理はなさらないでください」


「もちろんです」


 エリアスは丁寧に頷いた。


 セドリックはしばらく彼を見つめ、それから少し表情を和らげた。


「……本当は、休暇中の方へお願いすべきことではないのでしょうけれど」


「いえ。私も気になっていたことですから」


「そうおっしゃっていただけると助かります」


 セドリックは机の上の地図を丁寧に畳んだ。


「では、写しをお持ちください。何かわかりましたら、ご連絡いただければ」


「ありがとうございます」


 エリアスは地図を受け取った。


 古い紙には、今のフィオーレにはない道がいくつも描かれている。


 そのひとつが、森の奥へ続いていた。


     ◇


 屋敷を出ると、午後の風が少し冷たく感じられた。


 エリアスは石畳の道を歩きながら、鞄の中の地図を思い返していた。


 古い結界。


 七つの石柱。


 そして、北の祭殿。


 魔法に関わることとなると、どうしても興味が湧いてしまう。


 しかし今回は、単なる研究では済まないかもしれない。


 森の環境に影響が出ているのであれば、街で暮らす人々にも関係する。


 ルドの薬草畑も、そのひとつなのだろう。


「……まずは、カイルに相談しましょう」


 そう呟き、中央広場へ向かった。


 ギルドへ行けば、彼に会えるかもしれない。


 そう思ったのだが、広場の角を曲がったところで、ちょうど見覚えのある赤褐色の髪が目に入った。


「……カイル?」


「お?」


 声をかけると、カイルが振り返った。


「エリアスじゃないか!」


 肩には大きな荷物袋を提げている。


「こんなところで何してるんだ?」


「辺境伯家へ伺っていました」


「ああ、そういや昨日も行ってたんだっけ」


 カイルは頷いた。


「で、今日は何の用だったんだ?」


「少し古い地図を見せていただきまして」


「……また地図か」


 カイルは苦笑した。


「お前、本当にそういうの好きだな」


「ええ。とても興味深い内容でした」


 エリアスは鞄から地図の写しを取り出した。


「実は、そのことで相談したいことがあるんです」


「相談?」


「北の森についてです」


 カイルの表情が変わった。


「……森?」


「はい。先日見つけた石柱が、どうやら古い結界の一部らしいんです」


 エリアスは簡単に説明した。


 七つの石柱が森の奥へ続いていること。


 その先に、古い祭殿があるらしいこと。


 そして、最近の魔力の異常と関係している可能性があること。


 カイルは黙って聞いていた。


「……なるほどな」


 説明を聞き終えると、腕を組む。


「じゃあ、その祭殿ってところへ行きたいのか?」


「いずれは。ただ、まずは外側から調べたいと思っています」


「外側?」


「石柱の位置と状態を確認するんです。危険な場所へ無理に入るつもりはありません」


 カイルは少し考えた。


「……まあ、それなら」


 地図を覗き込む。


「この辺りは、俺も何度か通ったことがあるな」


「本当ですか?」


「ああ。ただ、この先は道が悪い。昔の街道が残ってるなら、探せるかもしれないけど」


「そうなのですね」


 エリアスは地図を見つめた。


 カイルはしばらく考えてから、にっと笑った。


「よし。付き合ってやるよ」


「ありがとうございます」


「ただし、条件がある」


「何でしょう?」


「危険だと思ったら、すぐ引き返すこと。勝手に奥へ行かないこと。それから、変な魔法を使う前には俺にひと言相談すること」


 エリアスは少し驚いた。


「……変な魔法、ですか?」


「お前の言う『ちょっと調整』とか『少し直す』ってやつだよ!」


 カイルは真面目な顔で言った。


「あれ、こっちからすると結構心臓に悪いんだからな」


 エリアスは少し考えた。


 確かに、先日の石柱も、事前に詳しい説明をしていなかったかもしれない。


「……わかりました。気をつけます」


「本当だな?」


「はい」


 カイルはしばらく彼を見つめた。


 それから、諦めたように息を吐いた。


「……まあ、信じるよ」


 エリアスは小さく笑った。


「ありがとうございます」


「じゃあ、明後日あたりにするか。明日は俺、護衛の仕事があるんだ」


「承知しました」


「朝早く出た方がいいな。昼過ぎには戻れるようにしよう」


「ええ。それがよさそうですね」


 二人はそう約束し、別れた。


     ◇


 鈴蘭亭へ戻ると、食堂には夕食の準備をする音が響いていた。


 厨房からは、野菜を刻む軽快な音と、鍋の煮える香りが漂ってくる。


 エリアスが扉を開けると、ノアが顔を上げた。


「おかえりなさい!」


「ただいま戻りました」


「今日はどうでした?」


「とても興味深い資料を見せていただきました」


「また本ですか?」


「今日は地図ですね」


 ノアは笑った。


「エリアスさん、本当に楽しそうですね」


「ええ。知らないことが多くて」


 エリアスは微笑んだ。


 そのとき、足元へ白い影が駆け寄ってきた。


「……リュカ」


 小さな獣が、勢いよく靴に飛びつく。


「ただいま」


 エリアスが抱き上げると、リュカは胸元へ顔を押しつけた。


「いい子にしていましたか?」


「してましたよ」


 ノアが笑いながら答えた。


「ただ、昼過ぎにちょっと騒いでましたけど」


「騒いでいた?」


「ええ。窓の方を見て、何度も鳴いてたんです」


「……そうなのですか」


 エリアスはリュカを見た。


 白い獣は、何事もなかったかのように目を細めている。


「何か気になるものでも見えたのでしょうか」


「さあ。僕には何も見えませんでしたけど」


 ノアは肩をすくめた。


「でも、おやつをあげたら落ち着きました」


「……なるほど」


 エリアスは思わず笑った。


「やはり、食べ物には弱いのですね」


 リュカは抗議するように鳴いた。


 ノアが吹き出す。


「絶対、今の意味わかってますよね」


「そうかもしれません」


 エリアスはリュカの頭を撫でた。


 柔らかな毛並みの下に、温かな魔力が感じられる。


 しかし、その奥には、昨日までとは少し違う揺らぎがあった。


 ほんの一瞬。


 森で見つけた石柱に似た魔力が、微かに反応したような気がした。


「……?」


 エリアスは手を止めた。


 リュカが顔を上げる。


 淡い青色の瞳が、じっとこちらを見つめていた。


 エリアスはしばらくその瞳を見つめ返した。


「……リュカ」


 小さな耳が動く。


「あなたは、あの森のことを知っているのですか?」


 白い獣は答えなかった。


 ただ、エリアスの腕の中で静かに体を丸めた。


 その様子を見て、エリアスはそれ以上聞くのをやめた。


 今はまだ、答えを急ぐ必要はない。


 けれど、少しずつつながり始めているものがある。


 古い結界。


 森の異変。


 そして、リュカ。


 それらが何を意味しているのか。


 エリアスは窓の外へ目を向けた。


 夕暮れの空の下、北の森が遠くに見える。


 木々の向こうには、まだ誰も知らない古い魔法が眠っているのかもしれない。


「……明後日が楽しみですね」


 そう呟くと、リュカの尾が小さく動いた。


 鈴蘭亭の食堂には、温かな夕食の香りが満ち始めていた。

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