第89話 食料支援
「ほう、ではあの麓の街はもともとルピナスの家のモノだったのか?」
ルピナスの話を俺は聞いていた。スリーブドナードの鉱山周辺、麓から丘陵地帯までルピナスの実家・エインスタイン家の領土だったらしい。
そう言えば、前に「実家は近いんだ」とか言っていたっけな。ルピナスの領民だとか言う人間が鉱山に出稼ぎに来たりもしていた。
「まあな。
ただその頃はあんな街じゃない。少し大きい村で農民がほとんだだったから…………今とは別モノだな」
「……じゃあ、フェーリン家がその街を奪い取って…………
ルピナスとしては返して欲しい、と思ってる訳か……」
「いや、そうは言わない。
正直、あそこまで発展したのはやはりフェーリンの手腕だろう。
大通りは整備されて、護衛の人間もいるから犯罪も少ない。
やり手の商人が集まって、宿も立派なのが出来ている。
うちの親が町長だったら……もっと混乱が起きた可能性は十分あると思う」
「そうなのか…………」
「だから……仕方が無い、と思っていたんだ!
さっきの話を聞くまでは!」
さっきの話?
俺なんか言ったっけ、ルピナスの地雷を踏むような事。
「子供がたくさん捨てられてるだと?!
浮浪児として集まって悪さをしているだと?!
そんな事を見逃しているなんて、フェーリンは何をやってるんだ!
親の居ない子供がいたら、当然領主が引き取るなり、信頼できる人間に預けるなり、必ず面倒をみるものだ」
白いマントを着た背の低い子はお怒りになっている。目が逆三角になって吊り上がっている。
「イズモもそう思うだろう?」
「うん……ああ、そうだな。もっともだ」
とりあえず頷いてしまった。だって怒ってるんだもん。それに言ってることは間違っていない。
正直に言ってしまうと、そうは言っても難しーだろーなー、とも思う。親のいない子供はもちろん気にかかるが、だからと言って面識も無い子を引き取れと言われても、躊躇する。
ルピナスのエインステイン家は以前からこの土地を治めて、子供を引き取ってもその後育てたり年頃になったら就職口世話するアテが在るのだろう。他所から来た議長のフェーリンさんにそれを求めてもなー。
「んで、次男が病気で倒れて、三男が来てるんだったな。
まぁよかろう。
あの次男は女と言うだけで人を見下すサイアクの男だった。中途半端にハンサムだったとのもよりムカつく。
長男はそれに輪をかけて悪いスケベな中年男だったし。
三男は…………よく覚えていないが、調子がいい卑屈な男だった気がする。あの中ではマシな方だろう」
「へぇ、良く知ってるんだ」
「ん、まぁな。
それより子供たちを助けるんだろう。
どうするんだ?」
「えっ…………
それは俺には難しい。
ヒルトンの街が経済的に回復すれば…………状況は良くなるとサラと言うお婆さんから聞いた」
「サラ様が…………
確かにあの人なら信用出来るが…………
経済的に回復と言う言葉の意味が良く分からんが。
要は金が回って行けば、と言う事だな。
それは時間がかかるぞ。
親のいない子が溢れて困っているのは現在なのだろ」
「何か考えがあるのか?」
「食糧支援だな。
この食糧事情は相当改善してるんだろ。
子供たちに多少でも融通出来れば一番良いと思う」
「分かった。
メシだな」
この辺が俺の弱いところだと思う。
令和日本人の意識がいまだに俺には強く在って。飢え死にする子供がいるなんて環境は想像も出来ない。令和の時代だって世界の国では飢えている子供がいる。むろんその事実はニュースでもCMでも目に入っているのだが、実感をともなってはいない。
俺自身は好物が食べられなくて泣いた事もあるが、嫌いなセロリを親に隠れて捨てたりした子供だった。
困っている子供がいると聞いてなんとかしてやりたいと思っても、即食糧支援に繋がらない。
食料は余裕がある。金属鉱石や魔石と引き換えにフェルガさんが各地の領主から分捕ってくれた。俺も魔物を倒してその肉を差し入れている。おまけに妖精さんも何処からともなく高級食材や、調味料を持ってくるのである。
労働者も増えているのだが、それでも余裕で余る。
「後はヒルトンの人間に無許可でともいくまい。
議長がここに訪れているのなら……話を通しておけば良いんじゃないか」
「良し、行ってくる」
善は急げ。
俺は三男さんの所に向かうべく立ち上がる。
「待て、私は鎖を作り続ければ良いのか?」
「そうだよ、たっくさん作って」
「しかし、もう護衛の分のチェーンメイルは出来上がったんだろ」
「んー-、ルピナスさんがアレは使えるって。
他の領主にも売るのかな?
いくらでも作って欲しいらしい」
そんな会話をルピナスとして別れる。
ちょうど三男さんは麓の街へ帰っていく前であった。フェルガさんとの会合は終わったらしい。セタントくんが見送っている。
「フツーの馬車だと時間がかかるけど良いの?
イズモさんに頼めば、一時間で着くらしいよ」
「いえ、あれは早すぎて怖いからもういいです」
なんだよー。ケルちゃんの背中じゃ不満かよー。
そんな文句を嚙み殺して俺は話しかける。
「トリンダーさん」




