第88話 ルピナスの実家
「なんだと、フェーリン家の人間が来ているのか?!」
この声はルピナスのもの。小学生みたいな背丈で白いマントを引きずって歩いちゃう魔法技士。
俺はフェーリン家の三男さんを鉱山まで連れて来た。後はフェルガさんに引き合わせておしまい。
鉱石を卸す時の条件とか、そんなの分かりませんし―。
何故か部屋にはセタント・クラインくんも来ていた。ホッポさんもいる。
「ヒルトンの街に回すのはかまわん。
ただし、この貴族どもとは既に話が着いている。
彼らはこちらの協力者だ。ヒルトンの街は通過させてもらうが、直接でこちらが取引する。
多少の通行料は払っても構わんが、そう認識しておいてくれ」
「……分かった。
こんなにいるのか……?……大貴族も混じっている。
なんてこった。これじゃ全貴族の3分の1を越えているかもしれない……」
「ふふふふ、その通りさ。
それで、フェーリン家はどうする?
トリンダー・フェーリン殿は……フェーリン家を代表してここに来ていると思っても良いのか?」
「いや……それは…………
自分はあくまでヒルトンの街の議長として来ているだけだ。
フェーリンには……長兄もいるし、父もいる。
どちらも現在のところ、国王に恭順を示している」
「まぁ…………しかたあるまい。
そう上手く行くとは思っておらん」
フェルガさんとトリンダーさんの会話。俺は口を挟まないで退散と行きたい。……のだが、一応一言だけはかけないと。
「フェルガさん、鉱石にも魔石にも余裕はある。
無ければ俺の方でなんとか融通する。
だから以前と同じ程度にヒルトンに卸してあげて欲しい」
だってさー。ヒルトンの街が潤わないと、そこに住む孤児たちにしわ寄せが行くと言う。俺の出来る範囲で何とか出来るなら、なんとかしてあげたいじゃん。
「バカモノ、余計な口を挟むな!
ああ、イズモ殿に失礼な口を利いてすまない。
ただこの手の交渉は自分に任せて欲しい」
人目を気にする性質のフェルガさん。勢いで怒鳴ってしまったものの、トリンダーさんやセタントくんがいる事も思い出して、口調が丁寧になっている。
「うううう、お怒りなる女王様、美しい。
青く燃える怒りの炎を覆い隠して冷たい目線で話す女王様も、それはそれで魅力的だ」
ホッポさんはなんだか難しい事を言っている。
セタントくんの方は皮肉な目つき。
「マクライヒ家のフェルガさん……必死だね。
…………確かマクライヒ家には長男がいる。フェルガさんは女性としては長女だけど……どういう立場なのかな。
マクライヒ家が全面的に協力している風でも無いな」
俺はややこしい話に巻き込まれないうちに退散した。
そしてルピナスと共に魔法炉で作業しているのである。
「むー、むー」
俺の話を聞いて白いマントの女性は唸っている。
「なんだか不機嫌そうだな、ルピナス」
「当り前だ。
子供たちを飢えさせて、犯罪が増えているだと?!
最悪じゃないか。
クソッ、だからフェーリンなどに任せておくべきでは無かったんだ。
うちの親がやっていれば……多少の混乱はあってもそんなひどい事にはならなかった筈だ」
「…………ルピナスの親?」
「そうだ。本来うちの家はこの近辺一体の領主だったんだ」
ルピナスから聞いた話は長かった。簡単にまとめるとこうなる。
スリーブドナード近辺の領地は以前は辺境だった。魔の山と呼ばれ、魔物が多数出現する。領地そのものは広く、丘陵地帯では葡萄などの特産品もあるが、往来に険しい場所も多く、全体として栄えていると言うよりは厳しい土地。
そこの領主がルピナスの実家。厳しい場所で領民と力を合わせて、なんとか治めて来た。
「領地こそ広いが大貴族とは呼ばれない。
いいとこ、田舎貴族だな」
しかしこの十数年、鉱山に目を付けたウルダ国がスリーブドナードを開拓した。魔法武具によって武装し、ライヒーンへと攻め込む。そのためにも金属と魔石が必要であり、鉱山の発掘作業に力を入れた。
交易拠点として麓に街が必要になった。元からあった小さな村は一気に膨れ上がった。鉱石を移送するための街道も出来上がる。
と言っても街の発展や街道を切り開く事業を田舎貴族が簡単に仕切れはしない。そこにフェーリンと言う大貴族が出張って来た。
「一応、うちはフェーリンの親戚筋にあたるんだ。
と言っても何代か前にフェーリンの何番目かの娘が嫁いできた、とかその程度の薄い間柄だけどな」
やり手の商人たち自身に任せた方が上手く行く。フェーリンにそう吹き込まれたらしい。街は商人たちが中心に議会制となり、議長が仕切る。しかし知らないうちにフェーリン家の次男がその議長職に就いていた。
「それは…………犯罪とは言えないのだろうが……限りなくグレーなやり口だな」
「グレーどころか、真っ黒だ。
さっきも言った通りウチは田舎貴族だからな。
フェーリンにとっては騙すのなんて造作も無かっただろうさ」
「タイヘンだったんでちゅねー、ルピナスちゃん。
泣いていいんでちゅよ」
「うん、るぴなす、タイヘンだったのー。
……って違う!
私は子供では無いっ!!!
…………
と言うかこの頃は本当に子供でな。
騒ぎが起きてるのは感じ取れたが、何がなにやらサッパリ理解できていなかった…………」




