第87話 出発
俺はケルちゃんの馬車でヒルトンの街に出かけた。
今回は門番に渡す小銭も用意している。へへへっ少しずつこの世界になじんできてるじゃん、俺。
大通りを歩いて前回見たフェーリン屋敷を探す。目立つので分からなくなる心配は無い。
「あ、護衛のみなさん、こんにちは。
遊びに来たんだけど、三男さんいる?」
「どわぁあああっ、また来た?」
「えええっ、あの女も一緒か?!」
「大丈夫、今回はクーはいないよ」
「なんだそうか。
ホッとしたぜ」
「俺も一安心だ」
「あははははははは。
あれでも優しい女性なんだ。
そこまで怖がらないであげて」
「そりゃ無理だ」
「あれは女とか呼べないぜ」
ビビっている護衛の人たちに教えてもらった。商人たちの集まりにトリンダーさんは出かけてるらしい。あ、トリンダーってのはフェーリン家の三男の名前ね。
広間に入っていくと多数の人がいる。
大事な話し合いの最中らしいので後ろの方に隠れておこう。
あっ、高い場所に三男さんがいるな。
目立たない様に彼に近づいていく俺。するとお婆ちゃんが階段を駆け上がっていく。
こわっ! 転んじゃったりしたら危ないよ。と思うけど、お婆さんの足取りはパワフル。すごい勢いで壇上の人に近づいたかと思うと語り出す。
「アンタ、物乞いした事あるかい?
キレイな服を着てお金なんかいくらでも持っていそうな奴ほど、何もくれないんだよ。
汚い物でも見る様なツラでこっちを眺めて去って行くのさ」
ゴメンなさい。
物乞いした事無いです。 いわゆるホームレスなお子様。日本でも昭和には存在したと言う。路上に座って、空き缶置いて、小銭を貰って暮らす。
俺は話には聞いた事があるし、海外ではフツーに存在するとも聞いてはいるのだが、現実に見た経験は無い。
「ところが、明日の食い物にも困っていそうな小汚い服を着たばあさんが小銭をくれたりするんだよ。
ゴメンねぇ、これだけしか上げられなくて、ゴメンねぇ。
そう言いながら子供の手に銭を渡しながら泣くんだよ。
そうすると子供も泣いちまうのさ。
ありがと、ありがと、いつかこのご恩はお返しします。
って涙が止まらないのさ。
そんな光景を一度でも拝んだ事があるのかい」
うわー、こんな話を目の前で聞かされると弱い。俺の胸にストレートに飛び込んでくる。やばい。目が潤んでくる。
そっかー。この世界に来て泣かせる系のドラマや映画も見ていなくて、こんな話聞かされるのは久しぶり。
そしてお婆さんの話しぶりには説得力が在って、ウソでは無いパワーが伝わってくる。
三男さんが立ち上がって、何か言っていて、周りが「イズモ様……」とかザワザワしている気もしたけど…………俺の耳にはほとんど入っていなかった。
「おばぁさんっ!
先ほどの話、感動的だった。
心が揺り動かされた。
自分も子供たちのため何かしたいと思う」
思わず声に出していた。
「お、おう…………
良く分かんないけど、アンタ良いヤツっぽいね」
そう言ってお婆さんも返事してくれる。
良いヤツ…………俺ってこんな熱血キャラだったっけ。
でもさー、言わずにいられなかったんだもの。それに現在の自分はこの状況を何とか出来る可能性が高い。だったら、動くべきだろ。
「ああああああぁあああぁ
貴方はイズモ様?!
なんでここにっ?!」
後ろで三男さんが声を上げる。確かトリンダーさんで良かったよな。
「ああ、ちょっと用事があって寄らせてもらった。
トリンダーさん、あなたにスリーブドナード鉱山まで来て欲しい。
所要時間なら心配いらない。2時間弱で鉱山まで辿り着ける方法を俺は持っている」
「今すぐですか……?
はぁ、……断る訳にもいかん……」
「んー、フェルガ・マクライヒさんが鉱石や魔石を街に卸す条件について話あいたいと言っている
早い方が良いだろう」
俺は三男さんに言っておいて。
「お婆さん、金属や魔石は街に流れる。
これで子供たちは救われるか?」
「あ、ああ。
すぐにとは行かないだろうが…………
この街が栄えて来れば、庶民や子供にも行き渡るさ」
「良かったー」
それだけ言って、三男さんを担いで走り出す。
「ちょっ……ちょちょちょ……イズモ殿、イズモ様、待って待って」
三男さんが何か言っているが気にしない。
聞いたでしょ。孤児たちのためなのだ。急ごうよ。
建物の表にケルちゃんがいる。ゆるくだがロープで建物に繋いでいる。
もちろん俺はケルちゃんが逃げも暴れもしない事を知っているが、周囲の人はそうじゃないだろう。放し飼いになっているのを見て、不安になる人もいるだろーな、と思っての配慮。
「……シカの背に自分が乗るのか?!
いや、それはあまりにも」
「ならば、仕方が無い」
トリンダーさんを引っ担いだまま、ケルちゃんに乗り込む。彼にケルちゃんに乗って貰って、俺は速度上昇使って、横を走るのがいーかなー、と思っていたのだが。
「ちょっ…………見て無いで誰か助けてくれ!」
「行っておいで、フェーリンの。
ここが腕の見せ所だよ。
マクライヒの娘に負けないで、出来るだけ良い条件で鉱石と魔石を奪い取ってやるんだよ」
そんなお婆さんの声に送られて、俺たちは出発した。




