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9 大蜘蛛討伐



 目の前には一本の大樹があった。聖樹なのだろう。そして、その周りをうろつく真っ黒な大蜘蛛と、十数体の子蜘蛛。確かに、一人で挑むようなクエストじゃない。パーティが推奨されるのも納得だ。


 敵に注意を向けると、ウィンドウに情報が現れる。



 《大蜘蛛 レベル10》

 《子蜘蛛 レベル5》



 子蜘蛛のほうは適正レベルだ。もしかすると、第二エリアが使えない今、ここが一番おいしい可能性もある。

 やがて、アーベルもやってくる。そして、敵の数を見て顔を引きつらせた。


「大丈夫か? 俺は攻めていくから、近づいてくるなよ。いいか、生き延びることだけを考えろよ」

「は、はい! わかりました!」


 アーベルは緊張したまま答える。無理を言ってでも、置いてきた方がよかっただろうか。俺は呆れ気味に、彼を見る。



《アーベル レベル7 HP600》



 どうやら、パーティ状態として認識されているらしく、情報が見られた。これならば、即死することもないだろう。


 俺はそう決めつけると、敵目がけて動き出す。

 子蜘蛛どもは俺に気が付くと、わらわらと集まってくる。かちかちと牙を鳴らしながら、短い毛の生えた足を盛んに動かし、近づいてくる。


 大きさは俺の胸のあたりまでしかない。あまり動きが速そうにも見えないし、硬そうにも見えない。しかし、同時に何体も襲ってくることを考えると、気は抜けない。


 一番最初に接近してきた子蜘蛛が、跳躍してくる。俺は横に回避するなり、剣を振るった。横薙ぎの一撃が、胴体を捉える。


 体液を撒き散らしながら、真っ二つになった胴体が転がっていく。そして消滅。



 獲得経験値 1.5

 次のレベルまで 519.5



 こ、これは!

 感嘆しながら、振り返りざまにもう一体を討伐。



 獲得経験値 1.5

 次のレベルまで 517



 一体あたりの経験値は低いが、時間当たりの経験値はかなり高い。

 あとは湧きが早ければ、絶好の狩場となる。テンションが上がってきた。


 そうして浮かれ気味の俺のところに、次々と子蜘蛛が群がってくる。俺はひたすら躱し、切って切って切りまくる。


 どんどんと入ってくる経験値。いよいよ、子蜘蛛の大半が片付いてしまうと、大蜘蛛が近づいてくるのが見えた。


 ぐっと足に力を溜めると、こちらに向けて一気に跳躍。

 本来ならば、距離を取るべきだろう。そして遠距離スキルで一斉攻撃、というのが無難な戦略だ。しかし、俺はその場で待ち構える。


 そして、眼前に巨体が迫ってくると、敵目がけて滑り込むように移動。複数ある蜘蛛の胴体の真下へと入り込む。すぐ隣の大地を蜘蛛の足が抉り取っていた。


 蜘蛛の勢いはすぐには止まっていないことを生かし、剣を叩きつける。敵の勢いがすさまじく、そこまで勢いよく振ることができなかったにもかかわらず、刃は食い込んでいく。


 体液を浴びながら、俺はすぐさま離脱する。

 結構なダメージを与えたらしく、大蜘蛛は中々立ち直れずにいた。その隙に、俺は子蜘蛛を退治していく。


 二体ほど倒したところで、子蜘蛛がリスポーンした。


「よしっ!!」


 俺は思わず叫んでしまった。アーベルは驚いたようだが、気にしてなどいられるか。これは短時間でガッツリレベルを上げられるチャンスなのだから。


 子蜘蛛を狩っていくも、ドロップアイテムは得られない。しかし、レベルさえ上げてしまえば、すぐに稼げるようになるから問題はないだろう。


 調子に乗ってドンドンと仕留めていく。およそ3秒に1体とすると、20分で1レベル上がる計算だ。俺のレベルが上がるにつれて獲得経験値は下がっていくことを考慮しても、レベル7くらいまではここで粘ってもいいかもしれない。


 そんなことを考えていると、大蜘蛛が尻を向けてきた。そして糸いぼから勢いよく糸を撃ち出した。


 俺は軽く躱して、そのまま子蜘蛛狩りを続ける。当たりどころがよければ、一発でいけるが、掠った程度では二発以上必要になるのだ。集中力が肝要になる。


 そうしているうちに、レベルアップ。俺のレベルはようやく6に上がった。よって、多少経験値はまずくなる。しかしまだまだ許容範囲内。


 これからしばらく続けようとしていた俺とは対照的に、大蜘蛛を一向に倒す気配がない俺に痺れを切らしたのか、アーベル君が叫ぶ。


「そろそろ仕留めてくださいよ!」

「馬鹿、大人しくしてろって!」


 叫んだことで、大蜘蛛のヘイトがアーベルに移る。彼は怯えたように後じさりする。そんなに怖いなら声を上げるなよ。


「ったく」


 俺は子蜘蛛の相手を放棄し、足を盛んに動かして移動を開始した大蜘蛛へと距離を詰める。そして足の一本を切断。


 巨体が倒れ込むことはなく、くるりと振り返る。ヘイトが俺に向いたようだ。この機会に機動力を奪っておくかと考え、俺は数度剣を振るう。頭に近いところの足が三本、宙を舞った。


 大蜘蛛の胴体が地に倒れる。


 うわ、やっちまったか!?

 イベントボスを倒せば、おそらく子蜘蛛は湧かなくなる。それじゃあ、狩りが続行できない。困ることこの上ない。


 しかし、杞憂に過ぎなかったようだ。大蜘蛛はゆっくりと立ち上がり始める。俺はほっとして、子蜘蛛の相手を再開した。


 今度はアーベルもびびってしまったのか、小さくなって、隅っこで大人しくしている。それでいいんだ。


 大蜘蛛はHPを減らしたためか、俺のほうを見て連続して糸を吐くようになった。こうした攻撃の変化もあるから、できるだけ傷つけないようにしておきたかったのだが、なってしまったものは仕方ない。


 しかし、効率が落ちるのだけは勘弁だ。

 勢いよく踏み込み、子蜘蛛を断つ。


 と、腕に痛みが走った。どうやら、焦りすぎて躱しきれなかったようだ。俺のHPは1だけ減少して、697になっていた。


 こんな半端な数字になっている理由は、自動回復があるからだ。1時間で10%だけ回復するものなのだが、レベルアップしても全回復はしないため、回復最中ということになっている。


 それにしても、確かに痛みがあった。ここはやはり、普通のゲーム内ではなくて――


 剣が振るわれると、緑がかった体液が飛び散った。俺は雑念を捨て、再び狩りに意識を向ける。たった1の減少だろうが、重要な差になることがある。だから内省せねばならないだろう。


 俺は自分の動きと相手の動きを見つめなおす。VRMMOではゲーム内能力に比べ、プレイヤースキルが大きく影響している。だから、どれほど強キャラだろうが、技術の差で翻弄されることになるのだ。


 自分の技術に胡坐をかいていれば、すぐに追い抜かれていく。どれほど実力があろうが過信などしていられない。


 そうして順調に狩りを続けてもう一度レベルアップ。レベル7になった。

 こうなると、初めは1.5も貰えた経験値が1.1まで落ちている。どうやら、格下相手の狩りには厳しい仕様らしく、敵のほうが低レベルになると、ガクッと経験値が落ち始めるようだ。


 そろそろ、ここでの狩りも終わりにしてもいいだろう。まだ1時間も経っていないが、武器などを新調すれば、他の狩場でも効率よく仕留めることができるだろう。それに、クエスト達成による経験値もある。


 俺は決断すると、大蜘蛛のほうへと駆けていく。


 巨大な牙を打ち鳴らしながら、体を引きずるように迫ってくる。そして俺に向けて糸を噴射してくる。

 だが、足を失ったのが大きい。もうこうなってしまっては、向こうから仕掛けてくることはできそうもない。


 パーティならここで、きっと壁役が前に出て、遠距離から仕留めるんだろうなあ。

 詮無きことを考えた。俺は一つ瞬きをするなり、大蜘蛛の糸を回避すると同時に跳び上がる。そして眼下に大蜘蛛を捉えると、脳天目がけて剣を振り下ろした。


 頭が弾ける。しかし、まだ死んではいない。

 必死に体を揺する蜘蛛の背に着地するなり、俺は逆手に持った剣を突き立てる。数度、刃を食い込ませると、俺の体は落下を始めた。



 獲得経験値 342

 次のレベルまで 451.2

 獲得アイテム Uブラックマント



 これは、かなりうまいな。何度でもこのクエストをやり直したくなるくらいには。それに、なにやらユニークアイテムまで手に入ったようだ。


「すごいです! あの大蜘蛛を倒してしまうなんて! あ、すぐに皆を呼んできますね! 待っててください!」


 アーベルがポータルの向こうに消えると、俺はインベントリを開き、アイテムを確認する。



 Uブラックコート

 重量420

 防御46

 ◇移動+30

 ◇HP+220

 ◇MP+60

 ◇全属性防御5%



 なかなか高性能なアイテムだ。重量が重いのが気になるが、そこに目を瞑れば、使える能力が揃っていると言えるだろう。


 俺は早速、インベントリから取り出して装備。

 なんのデザインもされていない、真っ黒な外套を羽織る。触り心地は柔らかく、悪くない。問題は、街中で目立ってしまうことくらいだろうか。


 そうしていると、エルフの長老たちが戻ってくる。いよいよ、クエスト達成か。そんな期待をしながら、彼らが聖樹の元に来るのを待った。



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