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22 合戦



 怒号が行き交い、砂塵が吹き荒れる。

 兵たちが槍を、刀を掲げていた。合戦のど真ん中にいることを、周囲の物音から把握していた。


《歩兵 レベル 40》


 ウィンドウが開いたことに、俺は安心していた。ここがイベントの延長にあることが確認できたからだ。どうやら、別のフィールドに強制的に飛ばされるものらしい。



 クエスト

 依頼主 森林地帯 落ち武者

 要求 将軍の討伐



 こんなウィンドウがあったが、そもそも承諾した覚えはない。しかし、クエストならば、達成した際に少なくとも経験値くらいは入るだろう。


 俺はあたりを見回して、どうやら兵たちの装備は二種類あり、そのうち一方だけが敵であることを知る。もう一方は味方ということになるだろう。


 しかし、どうにも劣勢のようだ。敵の歩兵に押され気味である。


「やああああああああ!」


 背後から響く、裂帛の気合。

 俺は素早く槍を回し、石突きで背後の敵を撃つ。重い手ごたえから命中したことを確認しつつ、振り返る。


 敵は簡素な鎧を着こんでいるため、当たり所によっては、大したダメージを与えることはできない。それゆえに、何もない部位を狙う必要がある。


 俺はすかさず、兵の首目がけて槍を放った。ずん、と鈍い手ごたえ。そしてしぶく血液。


 獲得経験値 38.4

 次のレベルまで 596


 経験値的には悪くない。おそらく、適正レベルだからだろう。

 それにしても、俺も随分変わったのかもしれない。


 ゲームといえども、mobが完全な人の姿を取ったものはなかった。例えばこのような武者であろうとお面をつけていたり、骸骨の頭部だったりと、人間であることを意識させるものはなかったのだ。


 それはゲームの製作会社による配慮であり、倫理観における社会的な攻撃を免れるためでもあった。


 しかし、どちらにせよ、今の俺が躊躇することはない。もうプレイヤーを何人も倒してきているのだ。人を相手にしてさえそうなのだから、ここにいる者たちは、俺にとってただのmobでしかないのかもしれない。


 それはきっと、俺のNPCたちに対する態度とそうそう変わるものではないのだろう。


 さて、やるか。 

 一つ気合を入れると、俺は目の前で寝転がっている兵へと襲い掛かっている敵目がけて槍を繰り出した。



 獲得経験値 38

 次のレベルまで 558



「た、たすかった……」

「おい。敵将の場所はどこだ」

「俺が知るわけないだろう! どこか、向こうだよ!」


 兵が示す方向は、確かに敵兵が多くなっている。ならば、その向こうに敵将がいてもおかしくはない。


「そりゃどうも。今度は向こうにいる奴らに聞くとするか」

「攻め込む気か!? この戦は、相手のほうがはるかに多いんだ! しかも、恐ろしく強い奴がいるって聞いている! 犬死するだけだ!」

「ま、死なねえよ、こんなところじゃな」


 死ぬとすれば、たかがイベントの中ではない。俺より強いプレイヤーによって、名実ともに最強の座を奪われるときだけだ。


 俺は戦場を駆け抜ける。槍を一振りするたび、敵の命が刈り取られていく。

 たった一突きするたびに、経験値はドンドン入ってくる。俺は非情なのだろうか。彼らはすでに、経験値をもたらすだけの存在となっている。


「お、あいつか……」


 敵陣の向こうに、ひときわ立派な鎧を身に付けたおっさんがいた。大柄であり、顎髭が目立つ。


《敵将 レベル50》


 目標を確認。俺はすぐさま距離を詰めていくも、歩兵があまりにも多すぎて、思うように進めない。


 そうしているうちに、どんどんレベルは上がっていく。

 けれど、あまりにも時間がかかりすぎてしまったのだろう。銅鑼が打ち鳴らされるとともに、兵たちが騒ぎ始めた。


「逃げろ! とても敵わねえ!」

「急げ、急げ――ぐわああ!」


 こちらの兵たちが、一散に逃亡を始めた。目を凝らしてみると、そこで盛んに血飛沫が上がっていることがわかる。


《サムライ レベル86》


 ちょんまげ姿の男が佇んでいた。このフィールドで出るには、あまりにもレベルが高すぎる。俺の倍以上あるじゃないか。



 クエスト

 依頼主 合戦場 自軍将軍

 要求 サムライの討伐


 クエスト

 依頼主 合戦場 自軍将軍

 要求 敵将の討伐

    自軍将軍が死亡すると失敗



 ようするに、あのサムライというボスモンスターが味方の陣地に達する前に、敵将を仕留めてしまえということらしい。しかし、それではつまらないではないか。


 俺はサムライの動きを見る。たしかに、他のmobと比べると遥かに素早い動きだ。しかし、技量がそこまで優れているわけでもないらしい。鎧ごと叩き切っていることから、相当な攻撃力に任せた戦い方のようだ。


 きっと、あれを真っ向から食らえば、どこだろうと一撃でHPが持っていかれてしまうだろう。ゲームのように、やり直しはきかない。


 けれど、俺の脚はもう動き出していた。


「邪魔だ! 邪魔だ! 死にたくなけりゃ道を開けろ!」


 あのサムライを倒す。そしてクエストを達成し、一気にレベルを上げる。それだけじゃない。敗北までの時間が長引くため、ここで経験値を稼ぎ続けることも可能になる。


 そうして突き進んでいくも、サムライが切り込んでいく速度のほうが早い。向こうは、味方が道を空けているのに、俺のほうは遠慮なく向かってくるからだ。

 このままだと追い付くのは難しい。いたずらにクエストを失敗させるだけだ。


 俺は一気に周囲のmobを薙ぎ払うと、槍を掲げた。そしてスキル「フレア」を発動させる。

 槍の先端に生じた炎は、真っ直ぐに目標へと向かっていく。そしてサムライの全身を飲み込んだ。


 赤く燃えながら、目標を変えてこちらに向かってくるサムライ。

 いいぞ。十分ヘイトが集まったようだ。


 俺はくるりと槍を回して構えると、自らも駆け出した。

 敵との距離はぐんぐん近づいていく。二つの血にまみれた道が、一つになろうとしていた。


 掲げられた刀が、俺目がけて振り下ろされる。素早く横っ飛びに回避。そして距離を取るなり突きを放つ。


 槍の穂先は敵の心臓目がけて進んでいく。そして命中。

 あっけない。そんな感想をつい抱いてしまう。


 が、そこまでだった。穂先が食い込んでいくことはなかったのだ。表面に浅い傷をつけるだけに止まり、ほとんどダメージは与えられていない。


 くそ、なんて硬さだ!


 一見するとただの和服だが、かなりの防御力を秘めているのかもしれない。あるいは、スキルなどによって強化されているのか。


 いずれにせよ、まともに当たれば俺の命はない。考えている暇なんかなかった。


 立て続けに振るわれる連撃を、ステップを用いて回避。背後に回り込むと同時に足を払い、転倒させる。


 しかし、敵は見事に受け身をとるなり立て直す。

 ダメージは与えられないし、時間を稼ぐこともできない。厄介な相手だった。


 俺は一度槍を振り回して、襲い掛かってきた歩兵を薙ぎ倒し、しばし思案する。このまま槍を振るっていても勝つことはできないだろう。武器をボーンクラッシャーにかえても同じことだ。


 ならば、どうする?

 サムライが突っ込んでくる。大上段からの一撃。そして突き。


 俺は僅かに体を浮かして「エアリアルステップ」を使用。敵の側面に回る。すると、目標を見失ったサムライは、慌てて俺の姿を探して視線を動かす。


 そして俺を認めるなり、突き出していた剣を引いた。


 ここだ!

 俺は槍を繰り出して、刀に押し当てる。するとつられてサムライが刀を押し付けてくる。

 刹那、俺はくるりと槍を回して、刀を巻き上げた。手の内が緩んでいたのだろう、刀は宙へと舞い上がった。


 サムライはしばし戸惑ったが、刀の落下地点から離れず、そのまま俺を警戒する。

 だから、俺はひたすら攻勢に出る。


 スキル「シャドウエッジ」「パワーチャージ」を使用。畳み掛けるように連続で突きを放つ。


 そのうちいくつかは外れ、いくつかは直に命中する。さらに幻影のように槍の軌跡に遅れて生じた影が、敵へと襲い掛かった。


 そして俺は全身の力を込めて体当たりするようにサムライへと飛び掛かった。さしもの敵も、真っ向から浴びる気はなかったのだろう。バックステップを取った。


 俺は敵を見て、槍を放り投げた。こんなもので敵を仕留められるなんて思ってもいない。だが、それは槍を使っての話だ。


 落ちてきた刀が、丁度俺の頭上にある。掴み取るなり、俺は大上段に構えてサムライへと切り掛かった。


 武器もないサムライは、横っ飛びに回避せんとする。

 だが、俺は刀を地面に叩きつけるなり、「フィールドブレイク」を発動。


 大地が割れ、数多の岩石が噴き出した。

 サムライは怯み、尻餅をつく。その隙を見逃す俺ではない。


 横一線に刀が閃いた。

 真っ赤な血が噴き出す。勝利の色だった。



 獲得経験値 384.5

 次のレベルまで 3558

 獲得アイテム U村正


 クエスト達成

 獲得経験値 20000

 レベルアップ!

 次のレベルまで1358



 俺のレベルは一気に47まで上昇。加えて、アイテムも手に入った。

 槍を手に、近くの雑兵を打ち倒しながらインベントリを確認。


 

 U村正

 重量4830

 攻撃3040

 ◇即死ダメージ3%

 ◇クリティカル10%

 ◇HP吸収1%

 ◇切断ダメージ+200%

 ◇非切断ダメージ-500%



 素晴らしい性能だが、いかんせん俺のレベルでは装備できない。この切断ダメージとは、おそらくモーション補正にかかるものだろう。殴って倒すことはできず、綺麗に刃筋を立てて切らないとまったく役に立たないということのようだ。


 防具などを外せば、あと二つレベルを上げればなんとか装備できるようになる。そう考えると、俺はなんとも浮かれずにはいられなかった。


 有象無象どもを切り倒し、ずんずんと敵将へと近づいていく。

 すると、今度は騎兵が現れるようになった。


《騎兵 レベル45》


 こちらはレベルが適正に近く、すっかり経験値が落ちた雑兵よりずっとましだろう。

 槍を掲げた兵を乗せた馬が、すさまじい勢いで疾駆してくる。これも一撃食らってしまえば、致命傷になるだろう。


「せいやああああああ!」


 馬上の男が叫びながら槍を突き出す。

 しかし、俺は慌てることなくステップで馬の左から右へと急に回り込むと、男を側面から突いた。確かな手ごたえとともに、男は落馬する。


 隙だらけのところに一撃。



 獲得経験値 43.3

 次のレベルまで 1314.7



 これは非常にいい。俺は主人を失って狼狽えている馬に飛び乗ると、手綱を引いて走らせる。雑魚どもは踏み潰すだけでドンドン経験値が入ってくるし、離れたところにいる相手は槍の一突きで仕留めていく。


 爽快感とともに、俺は戦場を駆け抜ける。


 そして、俺のレベルが49に達したころ、いよいよ敵陣に到着。俺は防具をすべて外し、村正を装備する。

 ずっしりと重い手ごたえがあった。


「たった一人でここまで乗り込んでくるとは……だが、やらせはせん!」


 将軍の周りに控えていた武士たちが、一斉に切り掛かってくる。

 俺は刀が近づいてくるなり、自身も村正を地に突き立てた。スキル「フィールドブレイク」が発動。


 地面が割れて、石の槍が噴き出す。

 たったそれだけで、当たり所が悪かったものは絶命したようだ。残った者は、ほんの一閃で鎧ごと引き裂かれていく。


「さて、お前に恨みはないが、これも経験値のためだ。悪く思うなよ」

「こ、この賊がああああ!」


 将軍は刀を抜いて切り掛かってくる。

 俺は空いた胴体に一撃を叩き込もうかとも思ったが、やめて攻撃を回避する。そして敵の振り向きざまに、首に刀を突き刺した。


 どっと血が吹き出し、ウィンドウが開いた。




 獲得経験値 615.2

 次のレベルまで 4562.3

 獲得アイテム U将軍の鎧



 クエスト達成

 獲得経験値 6000

 レベルアップ!

 次のレベルまで 1437.7



 予想通り、鎧が手に入った。おそらく、叩き切ってしまっていた場合は、こうならなかっただろう。


 俺はインベントリを開いて確認する。



 U将軍の鎧

 重量1535

 防御845

 ◇クリティカル低減30%

 ◇HP+600



 これといって目立ったところはないが、重量の割に防御力が高いため、使い勝手はいい。余分なところがないと言えるかもしれない。


 攻撃のために重量を割いている俺にとっては都合がいい。

 そんなことを考えていると、付近が暗くなっていく。


 そして気が付いたときには、俺は森の中にいた。もう戦いの喧騒も聞こえない。

 ふと足元に視線を落とすと、小さな墓があった。誰のものかもわからない。だから俺が気にするべきものでもないのだろう。


「さて、今日は随分レベルも上がったことだし、少し狩ったら帰るとしよう」


 白み始めた空を見上げ、俺は刀を握った。


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