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20 第十三エリア



 長い地下道を抜けると山中であった。

 深すぎることもなければ、かといって開けすぎていることもない。いたって普通の山の中だ。


 AWOではレベルが上がっても攻撃などのステータスは向上しないため、スキルや装備で上げていくことになる。したがって、いかにレベルが上がったからといって、なにもしなければ撲滅速度は変わらない。幸いにも、武器は手に入れたばかりのものがある。しかし、効率を重視するならスキルを習得すべきだろう。


 一旦、帰るべきかどうかを悩み、ともかく敵を見てからにしようと判断する。


 のんびり進んでいくと、向こうで茶褐色の塊が動くのが見えた。


《ジャイアントラビット レベル43》


 まんまるな肉体に、短い四本の脚。巨大なウサギが木々の間を窮屈そうに跳んでいる。


 俺は槍を片手に、投擲のモーションを取る。そして敵が背を向けた瞬間、全力で放った。狙いを過たず、穂先はウサギの胴体に突き刺さる。


 ジャイアントラビットは当たりを飛び回る。と、そこで突き刺さっていた槍が消えた。装備アイテムは一定以上距離が離れると、インベントリ内に戻ってくる仕組みになっているからだ。これを利用し、俺は再び敵目がけて槍を放つ。


 今度も狙い通り、胴体に突き刺さった。いよいよ、こちらの存在に気付いた敵が飛び跳ねながら向かってくる。


 俺は装備を弓に切り替え、敵目がけて矢を打ち込んでいく。高レベル帯の武器ではないため、大した威力にはならない。


 しかし、向こうも馬鹿正直に向かってくるものだから、接近したときにはすでに頭部には矢が数本突き刺さっていた。


 敵の突撃を回避しながら、俺は武器を槍に持ち替える。先ほど装備を切り替えたときに、槍はインベントリ内に戻ってきている。


 敵に狙いを定め、突きを繰り出す。が、ジャイアントラビットはそれさえ意に介さず、こちらへと蹴りを繰り出した。


 慌てて距離を取る。俺のいたところにあった木々が、直撃をくらって砕け散る音を立てた。


 側面から回り込まんとするも、うさぎはこちらを見ようともせず、前足を上げてスタンピング。


 瞬間、地面がひび割れる。俺は咄嗟に距離を取るも、生じた岩石の破片をいくつか浴びずにはいられなかった。


 しかし、敵はどうやらスキルを使った後に油断しているのか、隙が生じていた。そこを見逃さず、素早く槍を振るった。地面に叩きつけるように、穂はウサギの首のあたりを切断する。



 獲得経験値 47.3

 次のレベルまで2397.4



 経験値は悪くない。が、いかんせんしぶとすぎる。これでは、先の地下道のほうがまだましだったかもしれない。


 そんなことを思いながら狩りを続行。すると、やはりジャイアントラビットを発見する。距離が近かったため、俺は死者の槍を掲げ、勢いよく飛び掛かった。


 敵も、さすがに接近すれば気が付く。しかし、俺の攻撃のほうが早い。槍はウサギの胴体にしかとめり込んだ。


 瞬間、黒みがかった霧がかかる。


 獲得経験値 47.3

 次のレベルまで2350.1

 獲得アイテム Nウサギの毛皮



 即死のエフェクトだったらしい。すんなりとジャイアントラビットを討伐することができた。

 いつもこれくらいのダメージを与えられたら、と思うものの、そう上手くもいかない。スキル「パワーチャージ」を使えば、これに近い効率は出せるのだろうが、クールタイムの間が問題になる。使えるスキルがいくつかあれば、それで代用することはできるだろうが、今保持している

攻撃スキルはたったの三つだ。


 俺はともかく、次のエリアへのポータルを探し始める。ここよりレベルが高いとはいえ、効率がいい可能性はある。


 だから、そちらを探しながら狩りをしたほうがいいだろう。

 俺はいつも通り、周囲へと視線を向けながら、走り出した。



    †



 結局見つかることもないうちに、日が暮れてしまった。

 俺はこれ以上の捜索を諦め、一旦街に戻ることにした。街からはどんどん遠ざかっているため、移動には以前よりもさらに時間がかかることだろう。


 それでもなんとなく心休まる気がして、俺は期待せずにはいられなかった。

 案の定、沈みかけていた日は、始まりの街に着いたときには沈み切っていた。


 けれどそれとは対照的に、俺は街明かりを楽しんでいた。もうプレイヤーたちはいないが、それもいつものことだ。


 俺はまず最初に、教会へと赴くことにした。取れるスキルが見えているからだ。夜の街でも、迷うことはない。もう目を瞑っていても、辿り着くことができるだろう。

 

 そうして辿り着いた教会の付近はひっそりしていた。こんな時間から訪れる人はいないのだろう。もっとも、いつきても閑散としていることに変わりはない。


 扉を開け中に入ると、エルフリーデさんがいた。


「こんばんは」

「こんばんは、水無月さん」


 彼女は夜分に訪れた俺にも、変わらず穏やかな笑みを浮かべてくれる。燭台に火は灯っているが、仄暗い部屋の中、修道服の黒さもあって、どうにも彼女の存在がぼんやりと見える。


 俺は彼女のところへと近づいていく。

 それから少しだけ会話をする。これもいつものことだ。


「今日はどこに行かれたのですか?」

「第十三エリアまで。そこは山でした」

「もうそんなところまで。そんなに遠くまで行けると、楽しいでしょうね」


 そう言って、エルフリーデさんは目を細めた。この世界の人々が、街を離れることは滅多にない。


 NPCであるから。その考えを俺はできるだけ意識しないようにしてきたが、こういうところを見てしまうと、頭の片隅に追いやるのが難しくなってしまう。


 だから、俺は少しばかり話を変える。


「いえ、こうして街の中で他愛もない時間を過ごしているときが、なにより楽しいんですよ」

「ええ、とてもいい街ですから」


 エルフリーデさんが誇らしげに胸を張る。と、大きな膨らみも誇張される。

 俺はそちらを眺めて感嘆しつつ、彼女がどうかしたのかと首を傾げると、誤魔化すように祈りを捧げる準備に入った。


 こうなると、彼女は特に俺の視線を意識しなくなる。

 俺もまた、できるだけ意識しないようにしつつ、ウィンドウを開く。


 そしてスキルツリーを見るなり、前々から思っていた通りにポイントを割り振る。



 32ポイントを使用しました

 スキルを習得しました

 フィールドブレイク2


 32ポイントを使用しました

 スキルを習得しました

 シャドウエッジ1



 これで今までに使ったスキルポイントは388だ。ほぼぴったりとも言える。シャドウエッジは習得難易度が4と高く、必要ポイントは32の倍数となる。これを上げていくとなると、ほとんどほかのスキルは取れなくなるだろう。


 しかし、このスキルに関してはあまり上げていく必要はないかもしれない。そもそもの効果が、剣戟に遅れて追従する影の刃を生み出すスキルであり、上げたところで有効時間が増えるのが主なのだから。


 攻撃の隙をなくすことができるため、ソロでやっていくにあたって使いやすいのではないかという推測から取ったものだ。手数が増えるため、ダメージも増えることになる。もっとも、まだプレイヤーたちは誰もこれを使ったことがないため、憶測にすぎないのだけれど。


 そうしてやることもなくなると、これからウィンドウの下のほうへと続いているスキルツリーと、ウィンドウの向こうにある豊かな膨らみから続く曲線を眺める。


 まだまだ、これから期待できそうだ。

 俺はウィンドウを閉じると、立ち上がった。


「また、狩りですか?」

「ええ。ほんとうに、こればかりなんです」


 苦笑いせずにはいられない。けれど、エルフリーデさんはやはり慈愛に満ちた笑みを浮かべる。そして、俺の幸運を祈った。



    †



 エルフリーデさんにはああいって出てきたものの、俺はあまり狩りには乗り気ではない。というのも、この先のエリアがまだ未開放らしいからだ。そうなると、レベルを上げたところで、すぐに敵との差が広がってしまう。経験値が減ってしまうため、一向にレベルは上がらず、悶々と過ごすことになるだろう。


 今日は日曜日だ。金曜日まではまだまだ時間がある。


 そんなことを考えてしまうのは、やはり俺が狩り以外のことに注意を向けるようになったからだろう。


 夕食はどうしようか。今日泊まるところはどうしよう。

 なにも特別なことじゃない。そんな日常のことだ。


 俺の意識が想像の中に向けられているときのことだ。女性の声がかけられた。


「水無月さん? 今日は遅いんですね」


 買い物かごを手にしたアリエルさんが、こちらに手を振っていた。俺に気付いてもらえるよう、なんとかアピールしようとしている嫋やかな手が、実に可愛らしい。


「いつも、これくらいに帰ってきているんですよ。夕食も取らないといけないので」


 アリエルさんと夜に会うことは滅多にない。彼女はあまり出歩かないからだ。しかし、どうやら今日は違うらしい。


「あ、夕食まだでしょうか? よろしければうちで食べていきませんか?」


 と、アリエルさんが意外な提案をしてきた。


 女性の手料理! しかも自宅に招かれて!

 俺は内心、ぐっと拳を握る。まさかこんな日が来ようとは。


「ぜひ、ぜひお願いします!」


 勢いよく答えた俺に、彼女はくすくすと笑った。



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