18 第十一エリア
第十一エリア、廃墟にて狩りを続けて二日目。ようやく、次のエリアへと続くポータルが見つかった。随分時間がかかってしまったのは、がれきの下敷きになっていたからだ。
俺のレベルは現在37。順調に上がっている。
「さて、お前たちともお別れだ。楽しかったぜ」
逆手に持った剣を、背後から迫ってきたスケルトンに突き刺す。それからスキル「スラスト」を使用して一気に吹き飛ばした。
骨がバラバラになりながらも、なんとか立ち上がらんとする。しかしそのときには、俺はもう剣を振り下ろしていた。
頭蓋骨が砕け散る。そして、敵の姿は消えていった。
獲得経験値 15.2
次のレベルまで2324.7
獲得アイテム Uボーンクラッシャー
なんとユニークアイテムが出た。滅多にドロップしないため、これは思いがけない祝福だ。きっと、旅立ちを祝ってくれたのだろう。さっそく、内容を確認する。
Uボーンクラッシャー
重量2820
攻撃1350
◇クリティカル-20%
◇攻撃ヒットのたびに攻撃者HPが1%減少
攻撃力は、おそらくこのレベル帯の武器の中では並外れて高い。重量があることから、小回りが利かないタイプのものだろう。そして攻撃のたびに体力が減るというのも、バランスを取るための能力かもしれない。
これは気を付けないと、使っているうちにうっかり死亡する可能性がある。大量の敵に囲まれたとき、振り抜くだけで命中しまくってしまうからだ。
たった100回敵を殴っただけで、死が訪れるのだから、ポーションは必須だ。
ともかくこれは状況を見て使い分けるとして、俺は早速ポータルへと足を踏み入れた。
†
視界はどこまでも闇に覆われていた。
どうやらここは地下らしい。湿った空気と濁った匂いが不快感を抱かせる。
慣れるまでしばらくは、なにも見えやしないだろう。はるか遠方に僅かな明かりがあるだけで、それ以外、これといった光はない。
俺は一つ、指を鳴らす。破裂音が幾度となく反響する。
そこから周囲の状況を把握。曲がり角になっているため、光が見えないようだ。俺は舌を鳴らして付近の状況を確認しながら進んでいく。
やがて曲がり角を曲がると、遠方で蠢く影があった。巨大な鎧だ。手には俺の身長を優に超す大剣。
《リビングメイル レベル40》
俺よりもレベルは上。しかも、見た目から察するに、かなり強度が高そうだ。
この状況で戦闘をするのは、一般的なプレイヤーたちにとってはひどく不都合だっただろう。が、俺に限っては特に問題はない。
駆け出すと、靴音が静かな空間に響き渡る。
巨大な鎧がこちらに向き直る。そして剣を掲げた。
刃が降ってくるよりも早く懐に入り込み、駆け抜けると同時に横一線に剣を振るう。鎧にぶち当たって、甲高い音を立てた。
やはり思っていたように、斬撃は有効ではないらしい。ならば――。
俺は武器を、先ほど手に入れたばかりのボーンクラッシャーに切り替える。すると、手にずっしりとした重みが加わった。
首の骨に似た取っ手の先端には、頭蓋骨に似た骨の塊がくっついている。大きさは直径一メートルほどはあろう。このハンマー型の武器は、移動速度さえ落ちるほどの重みがある。
動きは鈍ってしまうが、仕方がない。俺は真っ直ぐに敵へと向かっていく。
リビングメイルは掲げた剣を、横薙ぎに振るった。対して俺は回避しようとはせず、大きくハンマーを振りかぶる。すかさずスキル「ステップ」によって敵との距離を詰める。これにより、一時的とはいえ素早く敵へと迫ることができた。
そして思い切り、腕を振り切った。
鈍い衝撃とともに、疲労感が全身に加わる。おそらく、ヒット時にHPが減ることによる影響だ。
しかし、手から伝わってくる感触は急に和らいだ。
獲得経験値 32.7
次のレベルまで2292
たった一撃で敵を屠る威力。これは使い勝手の悪さに代えてなお余りある。
しかも、敵の経験値はかなり高い。一対一が望め、さらに湧きも悪くないならば、絶好の狩場だろう。
俺は床を踏み鳴らしながら、どんどん進んでいく。一本道だから迷うこともない。
それから遭遇するのは、リビングメイルばかり。どうやらこれしかいないのかと思い始めたころ、向こうに人の姿を見つけた。格子戸の前に座り込んでいる。
mobかもしれないと意識を集中させるも、そんなウィンドウは開いてこない。どうやら、本当に人らしい。
しかし、どうにも盗賊らしき姿をしているため、俺は慎重に進んでいく。そして一定の距離を取ったところで、尋ねた。
「あの……ここでなにを?」
ゆっくりと、男がこちらを振り返った。顔は血の気が引いて、青ざめている。あちこち怪我をしているようだった。
「ああ……俺はなんということをしてしまったんだ。怖かったんだ! 仕方ないだろう! なああんたもそう思わないか!?」
「なにがあったんですか?」
「ここには宝が眠っていると聞いたから、仲間の三人と来たんだ。本当に軽い気持ちだったんだ――噂を確かめてやるってくらいのさ! ……確かに宝はあった。この目でしかと見たんだ。けれど……奴がいた!」
男はぎょろりと目を剥き出しにして、食って掛かるようにこちらに首を伸ばした。
「奴、とは?」
「死霊の王だ。皆、奴に殺されてしまった。死霊を操ることができる奴の前では、死んでも肉体は操り人形とされるだけだ。これじゃあ、あいつらも浮かばれない――!」
どうやら、ボスモンスターがこの先にいるらしい。ならば、俺のすべきことは一つだろう。
「じゃあ、俺が行って倒してきますよ。宝も欲しいですし」
「ほ、本当か!? しかし、死霊の王はたくさんの死人を操る。一人で行くのは危険だろう」
「構わないさ。今までもこれからも、俺はずっとそうしていく」
「わかった。……頼む!」
クエスト
依頼主 地下道 盗賊の一味
要求 死霊王レイスの討伐
予想通り、クエストウィンドウが開いた。移動がないため、これに手こずることはないだろう。もちろん、ボスを倒せるという前提があってのことだが。
「奴はこの先にいる。気を付けてくれ」
男は鍵を使って扉を開ける。向こうは闇に閉ざされていた。
それでも俺は迷うことなく進んでいく。道は確かに存在しているのだから。
ますますかび臭さがするようになると、囁きが聞こえるようになってきた。どうやらmobが発しているものらしい。
それを聞いても震え上がることも怯えることもないあたり、俺はどうかしているのかもしれない。命の重みが、あまりにも軽すぎるのだろう。
死霊の声がはっきり聞こえるようになると、扉が見えてくる。この先に、奴がいるのだろう。
俺はいよいよ、目の前に見えた扉を開く。
そこは円形の広間だった。青白い炎が、壁に掛けられた燭台で燃えている。
そして中央には、俺の倍以上もある体躯の死神がいた。下半身はなく、胸骨から上が布で覆われて存在していた。手には巨大な鎌と杖。
《死霊王レイス レベル45》
「さて、始めるとしようか。いま一度、朽ちるがいい」
俺は剣を抜く。そしてレイスは両手を掲げるなり、数多の死骸が地から浮かび上がってきた。それぞれ、朽ちた鎧と武器を手にしている。
《リビングデッド レベル39》
数は二十を超えているだろう。もしかすると、なかなか危うい状況かもしれない。
けれど、恐怖より興奮が勝っていた。
俺は敵が仕掛けてくるよりも早く、動き出した。




