12 夕食
すでに辺りでは夕食の準備に取り掛かっている家々もあるようだ。
俺は慌てて鍛冶屋のところへと赴く。すると、幸いにもまだ営業時間内だったようだ。中へと足を踏み入れると、一斉に男たちの顔がこちらに向いた。
「えっと……トレントの材料、取ってきましたよ」
「本当か! よし、これで仕事ができる!」
俺が材料を渡すと、男たちは嬉しげに作業を始めた。
クエスト達成
獲得経験値 500
次のレベルまで213.2
これで終わりだろう。そう思っていると、ある男が鎧を持ってきた。なにやら全体が緑で、コケっぽい。
「礼をしたいのはやまやまなんですが……仕事ができず金が入ってこなくて、今はこれしかないんです」
代金の代わりにしてくれ、ということだろう。
なにも期待していなかっただけに、もらえるだけましに思われてしまう。それに、誰だって金もないのに商品を受け取ってしまうことだってあるさ。
俺は彼から鎧を受け取り、インベントリ内で情報を確認する。
Uグリーンメイル
重量720
防御212
これは……微妙だなあという感想しか出てこない。とりあえず防御力が高いのはわかったが、重くて動けないんじゃ亀じゃないか。ああ、そもそも亀の素材からできたものなのか。
使うかどうかはともかく、壁役をこなそうというプレイヤーには受けるかもしれない。
と、そこであることを思い出す。全体向けのチャット機能で販売するのは、よく行われる行為だ。
しかしどうにも、チャット自体がほとんど使われていないようだ。まっさらな状態を一番初めに使用するのは気が引ける。
結局、俺はなにもしないことにした。
鍛冶屋の面々に礼を告げて、そして街に出る。すると夕食のよい香りが漂ってきた。
腹減ったなあ。そんなことを考えて、はたと気が付く。プレイし始めてからもう5時間だ。一瞬だけログアウトしようと思うも、そんな機能はない。
さて、どうするか。あの男が言ったことが本当だとすれば、俺はこの異世界に来てしまったことになる。
暫し考えるも、結局出てきた案は変わらない。
「飯だけ食って、狩りに行くか」
たとえなにが真実だろうと、勝つためにはそれしかない。
街中を歩いていくと、どうやらこの街を拠点とすると決めたらしいパーティが、小さなレストランで食事を取っていた。
ほかに目ぼしい店もなかったので、俺もそこで軽く食事をとることにした。メニューは貝類が多い。どじょうやすっぽんなんかもあるが、とても俺の口には合わないだろう。
ウェイトレスの女性に、洋食のセットを頼むなり、俺はパーティの会話に耳を傾けた。
「なあ……やっぱりここ、本当に異世界なのかな」
「信じざるを得ないだろ。お前だって、傷の痛みは実感しただろ?」
「ああ。やはりPvP、でなきゃまずいんだろうか」
「なんでも強制参加らしいぜ。フィールドに飛ばされるらしい。……相手は悪のカルマの奴らだぞ。嬉々として殺しにくるだろうが、説得してみるか?」
「いや、やめておこう……やるしかないよなあ」
聞こえてくるのは、暗い会話ばかり。しかし、彼らにとっても悩みの種は同じだったようだ。
正直、俺は語学力に関しては自身がない。だから、言ってることは大体しか聞き取れなかった。なんせ気を抜いたら、ただのノイズにしか聞こえないくらいなのだから。
しかし、他人の口から告げられると、改めて現実感がやってくる。ならばますます、強くなるしかない。
俺は早々に食事を終えると、少々情報を集めてから、街の外へと歩き出した。
†
すでに暗くなっていることもあって、第三エリアにはパーティの姿はほとんどない。やはり危険が多いからだろう。
俺は街で集めた情報を元に、第四エリアへのポータルを探し始める。どうやら、北のポータルはまだ奥に続いているらしいが、あまりにもモンスターが強すぎるため、人が行き来することはないらしい。
高レベルのmobをなんとかして狩って装備を狙うこともできなくはないだろう。しかし、一撃でももらったら終わるだけでなく、経験値もほとんど入らない。そう考えると、いい選択肢ではないだろう。
しばらく探してみると、ようやく第四エリアへのポータルを発見することができた。すでに俺のレベルは9になっている。ここの適性も終わることだから、移動するのは悪くない。
そう思いポータルを踏む。
そして視界が変わる。一面に海が広がっていた。といっても、浅瀬だから溺れることはないんだけれど。
見渡すと、巨大な蟹の姿がある。俺の倍以上の体高だ。横幅はそんなもんじゃない。
《ジャイアントクラブ レベル11》
レベルが同じ程度だから、狩れないことはないだろう。体格の違いは大きいが、だからといってパーティを組む相手などいない。
「やるか。今日中にレベル12くらいまで上げるとしよう」
さすがに二体に挟まれてはかなわないので、付近に敵がいないことを確認する。どうやらここは東西の第三エリアから繋がっているらしく、かなり広大なマップになっていた。
足元から伝わってくる、夜の海の冷たさをに身震いしながら、敵へと距離を詰めていく。
ジャイアントクラブがこちらの存在に気が付く。すると左右に移動しながら、近づいてくる。
狙いがつけにくくなるも、問題はない。弓を引くと、生成された光の矢が敵の胴体に命中する。
しかし、大して効いている様子はない。どうやら、防御力がかなり高いようだ。それならば、弱い部分に集中させればいい。
接近すると、ジャイアントクラブは巨大なハサミを打ち下ろしてくる。俺は「ステップ」を発動して一気に懐に入り込み、跳躍する。
そうして敵の上に躍り出ると、狙いを定めて射出。
光の矢は剥き出しになっている蟹の目玉を貫いていった。灰色の瞳が勢いよく弾ける。
俺は暴れる敵の上に着地すると、すかさずもう一方の目玉を蹴り上げる。鈍い音がして、ややへこむばかり。数度踏みつけると、ようやく膜が破れて中身が噴き出した。弓の攻撃力が反映されていることもあって、蹴りでもそこそこやっていける。
ハサミが左右から迫ってくると、俺はバックステップを取って地上へと降り立つ。
すぐさま敵は追ってくるが、俺は適度な距離を保ちながら弓を引く。敵の頭部に命中、殻がようやく割れ始める。
そこから数度、時間をかけて撃ち続け、ようやくジャイアントクラブは動かなくなった。もう五分近く相手をしていただろう。
獲得経験値 92
次のレベルまで 830
効率は悪くない。ならば、このまま続けるのみ。
俺は新たな敵を見つけるなり、駆け出した。




