第69話 恋愛相談
僕は部屋の内鍵をかけてから、携帯電話を開いてとある人物に電話をかけることにした。
ぷるるるる。ぷるるるる。がちゃ。
「は〜い! アナタの愛人なっちゃんだよ〜」
「それは違うけどね!?」
ここで頼れる相談相手。それは、和奏ちゃんの中学生時代の友人で、トリプルデートの時に親睦を深め、最終的には別に使うことも無いだろうなと思っていた電話番号も交換したなっちゃんさんだった。
都合の良い女として利用してやろう!
ふっふっふっふっふ!
「今週の土曜日なら空いてるよ〜!」
「ごめん空いてない。会う気もない…」
「幸守先輩ひど〜い!」
「それは本当にごめん…」
「それでそれで! 私に何か相談事でもあるのかな? ワカとは上手くやってるかな?」
和奏ちゃんは昨日振りました。とは口が裂けても言えないが、相談には乗ってもらわないと僕が困るので話を合わせておく。
「実は、かくかくしかじかで…」
「ふむふむ。お家デートかぁ〜」
彼氏持ちのなっちゃんさんなら、お家デートくらい経験があるはずだ。さあ、その嬉し恥ずかしい甘酸っぱい恋愛エピソードを僕に打ち明けて、僕の糧となってくれ。
「先ずコンビニでコ〇ドームをっ…」
ガチャ。ツー。ツー。ツー。ツー。
ぷるるるる。ぷるるるる。がちゃ。
「ひど〜い! どうして切るんですか!?」
「相談する相手を間違えたからだよ!」
「軽い冗談じゃないですか! て言うかまだワカとヤってないんですね。幸守先輩奥手過ぎますよ! 普通付き合って3日もあれば、なし崩し的にそういう流れだと思います!」
「えぇ〜…やっぱり、僕は相談相手を間違えている気がするんだけど…大丈夫?…」
「なし崩し的にそうなる方法が聞きたかったわけじゃないんですね〜。だったら、後は普通に楽しめばいいんじゃないですか? 幸守先輩はお家デートしたことが無いんですか?」
「はい。僕、硬派なので…」
「幸守先輩、何だかこの前とだいぶイメージ変わってませんか? トリプルデートの時はお外用のキャラだったんですか?」
いいえ、何でもできる真面目で優しい優等生の理想のお兄ちゃん系彼氏やってました。とは言えないのでそういうことにしておく。
「まあ、あの時は、なっちゃんさんとも初対面だったし、和奏を喜ばせなくちゃと思って結構気を張っていたからね…」
「ふ〜ん。そうなんですか。でも、なっちゃん的には今の砕けた幸守先輩も良い感じだな〜って思いますよ! 愛人になりたいくらいにはウェルカムですよ〜!」
「それは遠慮しときます」
ちっ、と舌打ちが聞こえた気がするが、聞こえなかったことにして続けて話す。
「それで、なっちゃんさん的には、お家デートで彼氏にされて嬉しいことって何かな? 後学のために教えてもらえたりしませんか?」
「ん〜、そうですね〜。お家デートのメリットって周囲の目を気にしなくていいことにあると思うんですよ〜。例えば、エッ…」
ガチャ。ツー。ツー。ツー。ツー。
ぷるるるる。ぷるるるる。がちゃ。
「次切ったらもうかけませんよっ!?」
「ごめんつい…でも、なっちゃんさんがふざけたりするからだよ? 凄い参考になりそうな気配から一変が過ぎるよ?」
「別にふざけてませんってば! 私のクラスの女の子だって3割はもう経験済みですし、幸守先輩モテそうなのにお硬いとか、そこはちょっとマイナスポイントかもですね〜」
「それは見解の相違だと思うんですが?」
というかクラスの3割経験済みは嘘だろ。それ絶対に意地を張って、私もう経験済みなんだ〜。みたいな感じに言ってるだけの人が大半だって。僕の友達グループだってまだ全員未経験者だしさ。え? 違うの??
照明君とか、新園さんとか、硬派な将隆君はまだだと思うけど、実はもう、どこかで軽く誰かと遊んでいたりするのだろうか?
「あのですね〜先輩、彼女を大切にしたいって気持ちは素敵ですけど! 大切にされ過ぎると次に起こることは何か!?」
「何か!?…」
「ああ、この人、私にそんなには興味が無い人なんだな〜。もういいや、冷めた。次の恋探そ〜。ってなっちゃうでしょ〜!!」
「なっちゃんさんみたいに!?」
「ギクッ…私のことはいいんですよ!!」
こちらに踏み込んで来るなオーラを電話の向こうから感じ取る。なっちゃんさんはきっと恋多き女の子なのだろう。
「そ、そうだね。ごめん。今は僕が相談に乗ってもらっていたんだった。話を続けてもらえますでしょうか。なっちゃんさん…」
「全く全くですよ〜! つまりですね。エッチなことをしないまでも、普段人目があってできないことはお家デートの時にこそやるべきだという話です。君のことが好きだよと伝えるアクションを起こすのです!」
「ふむふむ。つまり、具体的には、頭なでなでとか、ギューっとか?」
「ええ? ワカはまだまだお子様だなぁ〜。そんなんだといつか幸守先輩に振られちゃうぞ大丈夫かぁ〜? 股開けとは言わないけど、胸くらい触らせてやりゃいいのに〜」
切っていいかな?
不用意に和奏ちゃんが汚されて行く。僕たちの天使で何て妄想させるんだ。鼻血が出そうだ。誰か、切らずに我慢した僕を褒めてくれ。
「そんなことしたら嫌がられるでしょ?」
「は?? 何でですか? 幸守先輩もしかして女の子が卑猥なことを全く考えない神にこの身を捧げている一生純潔シスターさんとでも思っていやしませんか?」
「…ひ、人によっては………」
唯香や和奏ちゃんは実際そんな感じじゃないんでしょうか!? いやいや、唯香は自ら僕にキスを求めて来たし、和奏ちゃんも直ぐに頭を撫でてほしそうに迫って来た。
今回デートをするターゲットのナユタに至っては脳の8割は僕とエッチすることで染まり切っている女の子だ。もしかして、僕の方が間違っていたのだろうか!?
「幸守先輩…いつまでも、両想いの相手に自分から手を出さない男を世間の女の子たちが何て言うか知っていますか〜?」
「…やめて、聞きたくない」
何となく知っている気もする。
「チキン野郎!! って言うんですよ…」
「やめてっ! その言葉は心に刺さる!!」
僕は、僕は、女の子のことを大切にしたいと言って、そんな言い訳で関係の進展を拒んでいた臆病者。チキン野郎だったのか!? 精神にパイルバンカーを撃ち込まれた。危うく気絶してしまうところだった。
「どうですか!? 参考になりましたか?」
「う、うん。凄く参考になった。多少のボディタッチくらいはむしろしないと、君には興味無いよという意思表示と取られてしまい兼ねないってことだね。恋多き女の子であるなっちゃんさんに相談して良かったよ…」
「恋多き女の子は余計ですが、そんなに感謝しているならそろそろわたしのことを愛人にすることも検討していただければと!」
「それは遠慮しておくよ」
「ちっ、幸守先輩モテモテでしょ〜。もっと遊べばいいのに〜。まあ、そんなこと言ったらワカに怒られるので今のは無しでお願いしますね〜」
「僕の方も、和奏の友達にこんな相談したなんて恥ずかしいから、くれぐれも和奏には内緒で頼むよ。ありがとうなっちゃんさん」
「はい〜! また何かあれば、幸守先輩の愛人候補であるこのなっちゃんさんに、何なりと相談しちゃってくださいよ〜! ではでは、次は童貞卒業報告からでお待ちしております!」
ガチャ。ツー。ツー。ツー。
凄い娘だった。でもそうか。僕ってチキン野郎だったのか。心に深刻なダメージを受けてしまったけれど、なっちゃんさんに相談したのは正解だったと思う。よし、次はモーちゃんさんに電話をかけるんだ。
ぷるるるる。ぷるるるる。ガチャ。
「はい。もしもし幸守先輩ですか?」
「お久しぶりです」
「お久しぶりです。トリプルデートの時以来ですね。ひょっとして、愛人の件…検討していただけたということでしょうか? 今週の土曜日でしたらフリーですし安全日ですよ」
近頃の若い奴らは盛っている。
「もしかして、なっちゃんさんが隣に居たりするのかな?」
「ふふふふふ、当たりです!」
声がいきなり変わりまして、なっちゃんさんが喚き散らかす。
「幸守先輩節操無いですね〜! 水城院ハーレムを作る際には、私とモーちゃんも是非とも混ぜてくださいよ! 都合の良い女で良いんでよろしくお願いしま〜す!」
「危うく電話を切るところだったよ…」
「自分からかけておいて!?」
「モーちゃんさんにも相談に乗ってもらいたいから電話を返してあげてくれるかな? 実は僕、あまり女の子の友達は多くなくてね。女の子の気持ちを鋭意勉強中なんだ…」
「へぇ〜意外。幸守先輩に言い寄って来る女の子なんていくらでも居そうなのに、今週何人の女の子を振ったんですか〜?」
「4人だね。だいぶ落ち着いてきて……って何でそんなこと答えなきゃならないの?」
「す、すごっ…予想はしてたけど、落ち着いて来て4人はすごっ…何かあった?…」
「……………………………」
「私たちの協力が欲しいんだよね〜?」
答えないと電話をモーちゃんさんに返さなそうだなこの子。
「はぁ〜、最近学園で球技大会があってね。そこでちょっと活躍して学年毎のMVPになってしまって、無駄に目立ってしまったからそのせいだと思うよ…」
「何それ笑いますね〜。テストオール100点で学年首席、にも関わらず球技大会じゃ大活躍のMVP…顔も上の下で、お金持ちで約束された将来性…うは〜、ヤバっ! 持ってる人間は違うなぁ~!」
なっちゃんさんは僕の境遇を知らない。彼女に悪気はないんだろうと思う。1日一緒に過ごしただけだけど、悪い人間でないことはわかっているつもりだ。
それに、運が良いというのはあながち間違いでもない。実力でこの場所にいるなんて自惚れちゃいない。
「幸守先輩やっぱり優良物件でしたか〜!…惜しい男を逃しました。やはり、今からでも私を幸守先輩の愛人候補に!…ワカのついでで構わないのでどっすか〜? あっ……」
「ごめんなさい幸守先輩。なっちゃんは放っておいて、用件をお伺いしますよ」
「あ、うん。隣りに居たのなら聞いていたとは思うんだけどね」
「お家デートについてですね。そうですね。私の場合は、彼の得意なテレビゲームなどで盛り上がった後に、自然と距離が近くなって行き、互いの意思を確認してから、そのままコンビニに例のものをかっ…」
ガチャ。ツー。ツー。ツー。ツー。
ふう、これ以上有益な情報な無さそうだ。
ぷるるるる。ぷるるるる。ガチャ。
「だから、切るなぁ〜! まだモーちゃんのエピソードを聞いていないでしょ!?」
なっちゃんさんからの電話だった。
「聞いちゃダメな内容に突入しようとしていたでしょ!? どう考えても聞いちゃダメな内容だったよね!?」
「そうなの?…幸守先輩ならいいって…」
「いや、僕が困るから!?」
声が再び変わりましてモーちゃんさん。
「その先の話は不要で、もっと手前の話が聞きたい。ということでしたね…」
「なっちゃんさんと違って話がわかるね…」
にゃにを〜!? と、なっちゃんさんの声が聞こえて来るが無視することにした。
「それでは私からは、お家デートのメリットなどいかがでしょう?」
ほう。興味深い。
「それはズバリ、外食やレジャーにかかる費用をまるまる節約できることにあると思いますね。また、移動の時間なども節約することができてコミュニケーションを取る時間が増えるので、心と身体の距離が縮まりやすいのがお家デートだと認識しております」
「ふむふむ。なっちゃんさんに心を抉られた分、モーちゃんさんのは普通に為になるね」
にゃにを〜!? と、なっちゃんさんの声が聞こえて来るが再度、無視することにした。
「また、その人の部屋の雰囲気や、暮らしぶりを垣間見ることで、相手の新たな一面を発見できたり、その人と一緒になった時の結婚後の具体的なイメージが湧きやすくなると考えています。お役に立ちましたか?…」
「はい。勉強になりました。勉強になりましたというか…モーちゃんさんセミナーは今後ともご贔屓になりたいです。あ、なっちゃんさんセミナーはもういいです…」
にゃにを〜!? と、なっちゃんさんの声が聞こえて来るがやっぱりもちろん当然の如く無視することにした。
「受講料は私との愛人関係で手を打ちます」
「やっぱりいいです! 無料セミナーのうちに手を引くことがベストとも学ばせていただきありがとうございました!」
「いえいえ、これでトリプルデートでお食事を奢っていただいた分は返せましたか?」
「………ふふ、そうだね。モーちゃんさんは本当にしっかりしているね。また何かあったら、今度は借りとして相談させてもらうかもしれないね。ありがとうモーちゃんさん」
「ご健闘を御祈りしております幸守先輩」
にゃにを〜!? と、まだ何も言ってないのに先読み不発したなっちゃんさんの声が聞こえて来るがやっぱりもちろん当然の如く問答無用で無視することにした。
ガチャ。ツー。ツー。ツー。
知られざる相手の一面か。
もう何でも知っている気になっていたけれど僕はまだナユタのことを何でも知っているわけじゃない。そんな当然のことを再認識することができた。モーちゃんさんセミナーはオススメ登録をしておこうと思う。
頼れない悪友たちを見限り、頼れる後輩(後輩ではないんですけどね)に相談して良かったなと思う。
セミナーで習った、お家デートとは何ぞや。というものを参考に、僕は早速、お家デートのプランニングを開始するのであった。




