第68話 メイドは休まない
1つ1つ。曖昧なまま放置して来てしまった問題にけりをつけて行く。唯香のことも。ナユタのことも。和奏ちゃんのことも…。
今のままではダメだと思うから…。
「幸守様ぁ〜!! ひしっ! うりうりうりうり、しゅこしゅこしゅこ〜……どうして今日は防御も回避もなさらないので〜?」
それは、確認したかったからだ。同じ孤児院出身の女の子。僕の幼馴染。水城院 ナユタという他人にはなれない、僕の人生に大きな影響を与え続けて来たこの大切な人のことを、僕自身がどう思っているか確かめたかった。
僕はナユタの身体を優しく抱き締めてみる。
「ほえっ!?…ゆ、幸守様がナユタのおっぱいの感触を確かめてくださっている!?」
「違う!!」
いや、大体合ってるとも言える。でも、口では断固として違うと言い放っておく。では本心ではどう思っているかって?
そりゃ、安心する胸だと思っているよ。母性の塊みたいな素晴らしい胸だ。孤児院時代、いつでも君は僕を放っておいてくれなかった。だから僕は、あの場所で独りにはならなかった。君にどれ程救われて来たか。
この子が好きだなって、そう思うのは当たり前のことで、それは今でも変わってなんかいなかった。変えようとしても、僕の勝手な都合で突き放してみても、それでも君は僕と一緒に居てくれた。互いに大きくなったよね。
「またまだ成長していますよ幸守様!」
「まだ大きくなる気? 今、何カップ?」
「ごにょごにょごにょ…」
「君は本当にこっちの世界の人間なの?」
あまりにもアンバランスなおっぱいだ。
「この女体は、幸守様を誘惑するために、天がナユタに与えてくださったギフト。であるならばナユタは、今日も全身全霊をもってして肉体によるゴリ押しから始まる幸守様徹底攻略され計画を開始するのです!」
あくまで攻略されたいナユタさん。
そこにはナユタの美学が詰まっている。
ここがナユタの、ただの変態とは違うポイントだと言えるだろう。まあ、結局のところ変態メイドであることに疑いの余地は無いので皆さんはお気になさらず、彼女は変態メイドであると認識してもらって構わない。それもまた疑いの余地も無い事実だ。
「ナユタ…僕の部屋に来て……」
「んん〜? ん?…ん〜、平熱ですね?」
「別に風邪なんかひいてないよ。言っておくけれど、部屋に連れ込んでベッドに押し倒したり、とかはしないからね!…」
「ちっ…」
「こらこら、舌打ちしない…」
そんな期待は今から捨てておきなさい。
そんなこんなで水城院家のお屋敷を管理をするお仕事の真っ最中だったナユタに、少しだけ時間を割いてもらうことにした。
「……ナユタが幸守様に、幸守様の部屋へ連れ込まれたこと何回目でしょうか?」
そうだね。身の危険を感じていたから、そう何度も入室を許可した記憶は無いね。
「数えられる程かも?…熱は無いよ…」
熱でもあって、僕がバグってなければ自分は入室を許可してもらえない。とでも思っているのだろう。そのエキサイティングな性格が直るなら僕はいつでも来てもらって構わないと思っているんだけどね。
「ふっ、わかりました〜! やはり幸守様も男の子。専属奴隷メイドが欲しくなるお年頃になったということなのですね! ナユタは今日! この日を待ち望んでおりました〜!!」
「熱でもあるんじゃないのナユタ?」
いや、大丈夫だ。ナユタは常にこうだから。
「それでね。今日はナユタに、デートのお誘いをしようかなと思って……だから、熱は無いんだよ…」
「………幸守様が、ナユタに、デートのお誘いだなんて…不潔ですっ!…不純異性交遊は校則で禁止されているはずです!!」
「おいおい、ちょっと待とうか。良い子だから、今までのナユタの行動を隅から隅まで全部思い返してみようかぁ〜!? 」
「幸守様こそ、ちょっと待ってください! ナユタは幸守様に唯香様のような普通の女の子として扱われるわけにはいきません!」
「えぇ〜、ダメなの!?…」
「ナユタのアイデンティティが失われてそんじょそこらの緑髪メイドさんに降格してしまうではありませんか!?」
「大丈夫だよ。そんじょそこらに地毛が緑髪のコンバットメイドさんは居ないよ。ナユタがナンバーワンだよ。キャラパワーが高過ぎるから何ならちょっとナーフしてほしいかなとか思ったりもしているよ…」
この世界はナユタ1強で構成されている。もちろん彼女を1強に育て上げた、僕らの師匠には誰も敵わないとは思うけれど、あれはチート級の隠しキャラなのでメインキャラクターの中ではナユタがナンバーワンなのだ。
「ナユタにバランス調整を求めるなんて、狂気の沙汰としか思えません!? 幸守様のために丹精込めて育て上げたこのおっぱいに何の不満があると言うのですか!?」
そのおっぱいに不満は無い。凶器過ぎるから出会い頭に押し付けて来るのは控えて下さいとは思っているけどね。
「バランスがぶっ壊れている自覚があって何よりだよ。それよりも、僕とデートをしてくれるの? してくれないの? どっちなの?」
「………場所は、ナユタが選んでもよかろうなのでしょうか幸守様!?」
行きたいところがあるのか。
伝家の宝刀。例の遊園地(3回目)を軸にデートを組み立てる手はずだったが、ナユタに行きたいところがあると言うならば、それを聞き届けてあげるべきだろう。
「いいよ。どこに行きたい?」
「ラブホテル!」
「却下!!」
読めた答えだろう水城院 幸守!
お前はまだナユタを理解していないのか?
「…では、幸守様のお部屋ですかね…」
「きゃっ……お家デートってやつ?」
「はい。たぶんそれです幸守様!」
「僕の部屋にはベッドがあって、内側から鍵もかけられる。シャワーを浴びることができる個室もあるし、邪魔者もそう現れない。実質ラブホテルだな。とか、思ってない?」
「バレては仕方がありませんね!!」
「おいこら、少しは悪びれろよ!?」
よし。ナユタを理解できているぞ!
「本当に行きたいところは無いの?」
「……そうは言われましても…」
真剣に考えるナユタさん。第2のラブホテルが潰されて、第3、第4のラブホテルはどこかななんて考えで思考が支配されている。容易に想像できてしまった。
案外、人の心とは読めるものなのか?
「わかった。僕の部屋にしよう…」
「よろしいのですか幸守様ぁ〜!」
「良いけど、お部屋デートって何をするのかよくわからないし、調べておかないと。今週の土曜日はナユタのために1日空けておくから、ナユタも源治郎さんに頼んで1日休日を貰っておいてくれるかな?」
「ふっふっふ、その必要には及びません幸守様。こんなこともあろうかと、仕事は3日先の分まで終わらせてあるのです。その日のうちにしかできないお仕事のみを片付ければ良い手はずですので、お休みを頂く程のことでは御座いません!」
本当に働き者だなぁ〜。頭が下がる。
「わかった。僕が源治郎さんに頼んで丸1日何も仕事させないようにして来るよ」
「あっ、ああ〜! ああぁ〜!…ナユタは大丈夫です! 幸守様はナユタのメイドさんとしての仕事っぷりを疑うのですか〜!?」
「いや、疑いの余地も無い仕事っぷりだと思うから逆に少し休めと言いたくなったよ。僕が24時間365日働いてたらナユタだって働かずにたまには休めと言うよね?」
「幸守様が24時間365日食って寝て食って寝て、メイドさんを躾けて楽しむだけの毎日を送れるように、ナユタが幸守様の分も働きますから大丈夫です!!」
そんなことできるわけないだろ。と言いたいところだが、彼女にかかればそれくらい、難無くできるから困ってしまう。僕はそこまでのダメ人間にはなりたくはない。むしろ、大人になったらこれまで頑張って来たナユタを養いたいくらいだ。
今度は、僕の番でもいいくらいだ…。
「よ〜し! 源治郎さ〜ん!!」
「あぁ~! ああぁあ〜! ああぁ〜!!」
どうしてもナユタは休みたがらないな。
「源治郎様を利用してナユタに休暇を押し付けて楽しむなんて、幸守様も随分とメイドの調教を覚えてしまったご様子!」
「そ、そんな。これは調教なの!? じゃあ源治郎さんを利用してナユタに休暇を押し付けて楽しむのはやめよう! なんて言うわけ無いだろ源治郎さ〜ん! 源治郎さ〜ん!!」
「ああぁ〜!? わかりました! 幸守様の言いつけには何でも従います。ナユタは従順な幸守様の奴隷です! ですから、お休みを与えることだけはお許しください!!」
「どんなお仕事中毒者なの? どうしてそんなに働きたがるの?」
「幸守様こそ、どうしてそんなにナユタに休暇を与えたがるのですか〜!?」
「……1日、一緒に居たいからだよ…」
「1日中一緒にシたいから…はぁ、はぁ…」
ああもう、この場はそれでいいや。
「そうです。なので今週の土曜日は1日休みを貰います。水城院家が雇っている呼べば来る使用人さんたちに、その日はナユタの仕事を全て任せます。良いね?」
「1日休むことでナユタのメイドさんとしての価値がどれ程下がると思っているのですか幸守様!? 1日休むか、幸守様とのエッチで濃厚でドロドロの一時か…」
何故その天秤が均衡を保つ?
僕は今、とっても複雑な気分だよ。
「僕とのエッチで濃厚でドロドロの一時が欲しいのならば休みなさい!!」
「ぐぅううぅ〜!…幸守様に騙されて休まされるなんて、そ、そんなぁ…そんなぁ〜」
騙されていることには気づいているらしい。そりゃそうだ。エッチで濃厚でドロドロの一時的不純異性交遊は校則で禁止されているからね。もちろんこれは優しい嘘だ。
「そうか。ナユタは僕とのエッチで濃厚でドロドロな一時が不満なのか…」
「いえそんなことは! ナユタは幸守様とのエッチで濃厚でドロドロな一時を常に待ち侘びていたと言っても過言ではありません!!」
過言であってほしかった。
「だったら! ナユタは1日お休みを貰って僕とのエッチで濃厚でドロドロな一時を満喫するべきなんじゃないかな!? 今気付いたけど、このセリフを僕に言わせたいがために場面を引き延ばしていたりするのかな!?」
「……にやり………」
「ぶっ飛ばすよ!?」
「どうぞ幸守様! ナユタは幸守様専用奴隷メイドサンドバッグです! この胸は、幸守様のパンチを受けるミットの代わりをも果たせる優れもの。どうぞ、お試しください!」
1発試してやろうか!?
弾力でパンチが跳ね返って僕の顔面が強打されそうだ。
「よし、それじゃあ源治郎さんに…」
「あぁ〜…あっ、あああぁ〜!?…」
「………わかったよ。ナユタお休み無し!…その代わり、今週の土曜日。お仕事の時は僕も全部手伝うから、お仕事をしていない時はずっと僕と一緒に居ること! いい?」
お仕事も一緒にやればお家デートだ。
本当か? いや、知らないけど、ここはもうそういうことにしておこう。
「…むぅう〜、1人でできますのに〜」
「源治郎さ〜ん!?」
「あぁああ〜! 了解です幸守様ぁ〜!!」
「…よろしい」
「ふぇえ〜ん! 幸守様に辱められました〜」
「人聞きの悪いこと言わないでね!?」
さてと、デートの約束は取り付けた。こんなに苦戦するとは思わなかったけれど、作戦の第1段階は完了だ。次はデートプランの構築なわけだけど、お家デートって何をするものなのかな? ナニではないことは確かだと思うのだけれど、ここは誰かに相談するべきか。
和奏ちゃんに唯香以外の女の子の相談をするわけにもいかないし、新園さんを頼ったらむしろ幸守様とのエッチで濃厚でドロドロな一時に拍車が掛かるだけだろう。論外だ。
しかしな〜。他に相談可能な恋愛経験が豊富そうな相手は…。
「よし、ナユタ。今日はもう帰ってお仕事の続きをして来ていいよ!」
「いきなりの都合の良い女扱い! はぁ、はぁ、はぁ…幸守様にぞんざいに扱われる時、ナユタは生の喜びを実感します!」
どんな特殊な生態をしているのだろう?
「ほら、出て行った出て行った〜」
「は〜い! お仕事して来ま〜す!」
やけに素直だが、まあいいだろう。こちらから抱き締めたこともあり、またしばらくの幸守様エネルギーは回収済みということなのだろうと考えておく。幸守様エネルギーって何のことだか未だによくわからんけれども。




