第65話 デート本番
時間はたっぷり1週間もあった。その時間を用いて、どんなデートを唯香にご提供するのが1番か思考を重ねた結果。僕が選んだのがこのお馴染みの大型遊園地である!
道中の会話も中々弾んでいたし、唯香にコーディネートしてもらった服装もそのまま採用して来たので間違い無いはずだ。少なくとも唯香はこのお高い服装が僕に似合っているとコーディネートしていたはずだからね。
さあ、この遊園地が初見の唯香に対して2度目の僕に死角は無い。事前に遊園地内の全てのアトラクションもリサーチ済みである。和奏ちゃんとの彼氏の振りデートで経験した知識をフル活用して、唯香に楽しんでもらえるように最大限のおもてなしをするのだあぁ~!……。
「和奏と一緒に来た遊園地じゃない…」
「えっ!? 何で知ってるの!?」
「えっ!?…わわ、和奏に聞いたからよ!」
「………そりゃ、そうか…」
「そ、そそそ、そうよ!?」
「どうしてそんなに慌ててるの?」
「そんなことないわよ! 安全思考の幸兄らしい無難なチョイスだなと思っただけよ!」
幸守君は心にダメージを受けた。
「……い、嫌でしたか?…」
早速外してしまったのだろうか?
せっかく気合の入ったおめかしをして来てくれた唯香に、地の利を生かしたご要望に何でもお応えできそうなポイントを選んだだけなのだけれど、もしかして唯香は遊園地とかあまり好みではなかったかな。事前に聞いておくのが正解だったのかもしれない。サプライズは難しい。
動物園か水族館が正解だったか。でも、都会のお猿ならほぼ毎日見ているからなぁ〜。
「嫌じゃないから! そこまで落ち込まなくてもいいじゃない!? もうっ…幸兄がデートに誘ってくれて、それも2人切りで……それだけで凄く嬉しくて、この1週間…今日という日が待ち遠しくてワクワクしてあまり眠れなかったんだからね!」
「…ん? それは良くないのでは!?」
唯香のお肌にダメージが? 大丈夫かな?
僕は唯香の顔を覗き込む。
「なっ、何? 幸兄いきなり、き、きっ…」
「寝不足でクマとかできてないかなと…」
照れていた唯香がいきなり真顔になる。
「…大丈夫よ。それより顔近い! 寝不足という程ではないわ。とにかく、それくらい私は楽しみにしていたんだから…今日はたくさん私を楽しませてね。幸兄!」
「うん! お任せあれ! それでは早速、唯香はどんなアトラクションに乗りたい!?」
「絶叫系!! ホラー系も良いかも!」
「わ〜い! 和奏ちゃんが絶対に、死んでもチョイスしないタイプのアトラクションだ〜」
デート(仮)は参考にならなそうだな〜。
絶叫系は乗らなかったからわからないけれどリサーチだけはしてある。やはり1番人気のドラゴンツイスターは欠かせないだろう。
「ジェットコースター全種乗りたいわ!」
「わ〜い! 何の計画も無しに来たら並んでるだけで、ほとんど終わっちゃう注文だ〜!…でも大丈夫! こういう要望もあろうかと、どの順番で整理券を入手しに行けば良いかはあらかじめ計算済み、そしてその計算に本日の客層と人口を加え導き出されるその順序は……見えた!……」
「こんなところでも幸兄らしいわね…」
「唯香に超楽しんでもらいたいからね!」
「あ、ありがとう…」
「ドキッとした!?」
頬が赤いから聞いてみたけど…。
「ドキドキしてる。朝からずっと…」
「……えっと、その…実は僕も……」
唯香に本当に楽しんでもらえるのか不安でドキドキしていたのもあるけれど、多分それだけじゃないと思う。道中も感じていた。おめかししている今日の唯香は、何だかいつもより断然可愛い。道行く男性客が唯香の可愛さに惹きつけられて視線を誘導されているのはいつも通りのことだけれど、その数も圧倒的に多い気がするし、ボディガードもして気を付けてエスコートしなければ!
「ふ、ふ〜ん…幸兄もドキドキしてるんだ。どうせ私を楽しませることができるか、不安でのドキドキでしょ…」
「それもある! でも……それだけじゃない気もしているかな?…何でだろ……」
「し、知らないわよっ!!……んっ…」
唯香に手を差し出されて、僕は履修済みの行動を開始する。手を握り返して、指を指の間に交互に滑り込ませ優しく握る。
「んにゃっ!? ゆ、幸兄いきなり恋人繋ぎって…そ、そそ、それは……」
「唯香の手、思ったよりも小さいね…」
「……ゆ、幸兄は思ったよりも大きい…それに硬くて…男の人の手って感じ……」
そりゃそうだ。これでも一応男なので。
「さあ、行こう! ジェットコースター1日で完全制覇のために時間は無駄にできない! 僕と唯香なら移動手段にダッシュが使えるからね! 土手で僕を追いかけて来たあの速度までなら行けるよね! 走るよ唯香!!」
「へっ!? あ、ちょっ!? 別にそこまでして完全制覇を狙ってはっ……」
「全速前進だぁ〜!!」
「幸兄もいつもよりテンション高いっ!?」
当然だ。1週間ずっとこの日のことを考えて生活して来たのだから。最高のデートをお届けするために、唯香のご要望には全て応えてあげなければならないのである!
頑張るぞ! 僕たちならば辿り着けるさ!!
ジェットコースターの整理券入手に遊園地中を駆けずり回り、最適な時間潰しの方法として唯香の要望にあったホラー系アトラクションのオバケ屋敷と、屋内コースターであるスリラーパーティーも欠かせないだろう。
「はぁ、はぁ、はぁ…よし! このオバケ屋敷は整理券無しで10分で入れる。ここで休憩しつつオバケ屋敷に備えよう唯香!?」
「はぁ、はぁ、はぁ…幸兄、和奏ともこんな心臓破りのデートを…はぁ、はぁ…して…はぁ…ないでしょうね?……」
「え!? はぁ、はぁ…和奏ちゃんとは…もっとのんびり…ゆったりな…はぁ、感じのデートだったよ…アトラクションも、そんなに数は熟せなかった…よ?…はぁ、はぁ…」
「そ、そう…はぁ、はぁ…それなら、一安心だわ……はぁ、はぁ、はぁ……」
オバケ屋敷に入る前から心臓が張り裂けそうな程高鳴っているが、唯香の要望はこれでどうにか叶う目処が立った。計算通りだ!
「…あ〜、もう!…何、このデート!?」
「えっ!?」
何かご不満な点でもありましたか!?
「ふふふふふっ、あはははは! お昼から来てこんな大きな遊園地の絶叫系全制覇なんて、物理的にできるわけないでしょ!? 本当にやると思わないじゃない! あはははは!!」
「いや、計算したらギリギリできたので…」
「ギリギリ…全部乗るとギリギリなのね。だったら1つ幸兄の裁量でキャンセルして…」
「何でっ!?…」
せっかく駆けずり回ったのに!?
キャンセルしろと言うのなら、1番人気の無いところをキャンセルすべきなのかな?
「最後に、観覧車…2人で乗りたい……」
「そ、そういうことなら…えっと、ここをキャンセルして、このタイミングで観覧車の整理券を受け取りに行けば間に合うはず…」
「どうかしら? 私の要望は叶いそう?」
「任せておいてよ! 僕の計算能力はきっとこんな時のためにあるものだからね!」
「無駄遣いが過ぎるわね。もっと、世のため人のためになる使い方をしてほしいわ…」
「………それは、追々ね…どれだけのことができるかはわからないけれど…でも僕は、今は唯香を楽しませることだけ。そのためだけに使いたいんだ!」
「…………楽しいわよ…超楽しい…」
「いや、まだアトラクション1つも熟してないんですけれど!?」
「幸兄とのデート超楽しいってこと!」
「……そ、それなら、良かったよ!」
僕たちの戦いは今からなんだけどね!
和奏ちゃんとは違い、オバケ屋敷で全く怖がる様子の無い唯香が1度だけ派手に腰を抜かしたのはオバケ相手ではなく、そのオマケで付いて来ただけであろう昆虫の幽霊だった。相変わらず虫は苦手のようである。
その後、僕たちは遊園地内を駆け回って絶叫系アトラクションのタスクを熟して行く。間にもう1つのホラー系アトラクションも挟みつつ、行列が絶えることの無い目玉のジェットコースターまで辿り着いた。
その名も、ドラゴンツイスター!!
「おおっ、テルが使いそうな技名!」
「確かにお猿が使いそうな名前ね…」
あらかじめ取っておいた整理券で長ったらしい列を大幅に短縮しつつ、僕たちは10分待ちでドラゴンツイスターぁああ!! に乗ることになった。
グルングルンと横Gを受けながらツイスト回転する最高速度と目の回る生きた心地がしない恐怖体験が売りのアトラクションである。和奏ちゃんなら魂ごと門の向こうに持って行かれるところだが、唯香は瞳を輝かせていた。ここまでは、最高のデートをご提供できているのではなかろうか?
心なしか僕もとっても楽しい。唯香と視線が合うと、自然と笑みが溢れてしまう。
「ナユタならこの程度のコースター、立ったままで乗り切りそうだね!」
「だから、あのメイドはいったい何者で、どんな戦闘力をしているのよ? それと、デート中に他の女の子の名前を出すのは減点よ! 幸兄減点100点!」
僕の持ち点まだ残ってます!? それとも0点はまだ飛びじゃない的な? 麻雀的な感じなのでしょうか?
「それは厳しくない!? 和奏ちゃんの名前なら結構出しちゃってたけど…」
「和奏は許す。私の親友だから!」
「えこひいきが酷くない!? そこまで言うならこうしよう。和奏ちゃん和奏ちゃん和奏ちゃん和奏ちゃん和奏ちゃん和奏ちゃん和奏ちゃん和奏ちゃん和奏ちゃん和奏ちゃん!!」
「タラ子ちゃんのお姉さんは?」
「ワカメ子ちゃん!」
「正解!」
「何この遊び?」
「知らないわよ! もうっ、幸兄が勝手に始めたんじゃない」
「確かに…」
こんなくだらない遊びですら、僕と唯香は互いに笑い合うことができた。そして、初めのうちは僕が強引に繋いでいた手も、唯香から自然に繋いで来るようになっていて、自分から繋ぐよりも唯香から繋がれる方が嬉しいんだなと思ったりもして、少し照れてしまう。
「ドキッとした?」
「す、少しね?…」
「ふっ、ふ〜ん。じゃあ、これは…」
唯香がいきなり僕の腕に抱き着いて来る。
「すすす、少しね!?」
何だろういつもと違う。これがドラゴンツイスター前による吊り橋効果なのだろうか? 何だか幸せなんだけれども、この後、ツイスト回転中に不慮の事故で安全バーが壊れたりしないだろうね!?
「少し?…どれどれ……」
ピトッと胸に耳を当てられて微動だにできなくなる僕。心臓の鼓動が少し! 速くなっていることがバレてしまう。少しね!!
「…幸兄も、私と同じくらい…嬉しい……」
そんなことを言われて顔が熱くなる。
さっきで同じくらいなら、今もう1度確認されたら僕の方が心臓の鼓動が速くなっているということにならないか? 僕は唯香のことをライクだと思っていたのだけれど、これはラブと判断しても構わないのだろうか?




