第63話 ライクかラブか
球技大会から数日が過ぎたというのに水城院家の兄妹に向けられる周囲の視線は今日も熱い。もうじき夏も終わり、季節は秋に移り変わるというとに暑さが微塵も失われない。
これも全て唯香のせいと言えるだろう。
「す、水城院 幸守先輩ですよね!?」
「はい。そうだけど、何か用かな?」
先輩と呼ばれた。この子は後輩君かな?
「お願いがあって来ました! 男らしく単刀直入に言います! 妹の、水城院 唯香さんとお付き合いさせてください!!」
「男らしく本人に告白してね!?」
「いや、だって何か少し怖いし…」
それは、わかる!! わかりみが深い!
でも、本人に告白して玉砕してね!
「知らないよ。て言うか単騎で2年生教室に乗り込んで来るその胆力があるなら唯香本人に告白できたよね!? 何故に、兄の僕の了承を得る必要があると思ったのかな!?」
「それは…唯香さんが、私を口説きたいなら先ずは幸兄の許可を得て! そしたら、検討してあげるから!……と…」
そんなバカな。でも、少し言いそう。
「ぎゃははははははは!??」
「何それ!? 唯香ちんおもろ〜!」
「何か怒らせるようなことでもしたか?」
金髪のお猿と面白ければ何でも良いタイプの情報オタクは置いといて、僕は将隆君の問いにだけ応える。
「いや、そんなことしてないけど…強いて言うなら……いや、本当に何もしていないはずなんだけど、何か凄く不機嫌で…怖い…」
球技大会以降、ずっと不機嫌なんだよね。
「わかります! 怖いです。あっ、でも…あの、人を人とも思っていない見下す視線がクセになってしまい、怖さを差し引いても絶世の美少女だからと唯香さんを狙っている豚野郎は多いんですよお兄さん!」
「誰がお兄さんだ! 僕は君のお兄さんになる気は無いし、その理屈だと君も豚野郎の内じゃないのかい!? 先ずはその豚野郎の域から脱出してからもう1度僕のもとに来なさい! 唯香の彼氏になるに相応しいか確認してあげるから!!」
「ありがとうございます!! 自分、首を洗って出直して来ます! ついでに、お兄さんって彼女居ますか!? うちの姉ちゃんなんてどうですか!? 姉ちゃん球技大会で幸守兄さんに一目惚れしちゃったらしいんです!!」
君の兄にはならないが!??
「君も大変だなぁ〜!? でも、僕…気になっている人が何人か居るから、ごめんなさいって言っといて! よろしくね!」
「了解っす! え? 何人か?…あっ、いえ了解っす兄貴! 失礼します!!」
誰が兄貴か!?
後輩の少年がそそくさと2年生教室を出て行ってしまう。頑張れ姉弟持ちの少年! 僕は密かに応援しているよ!
「幸守君好きな人居たの!? 詳しく!」
「げっ…新園さん…な、何?……」
何でそんな瞳をキラキラさせてんの?
ああ、そうでしたね。そういう事情を聞いて調べて集めるのが、新園さんの趣味でした。悪趣味だからそろそろやめない?
「く、わ、し、く!!」
「………………………」
仕方無い。
「…好きな人って程ではないよ。気になる人くらいだから、ラブじゃなくてライクの方だからね!…まあ…その……別に言わなくても大体わかってるよね新園さん…」
急に冷めた返しをする僕。
「まあね! メイドちゃんと唯香ちん、あとワンチャン和奏ちんもでしょ〜!!」
この女、本当に良い目をしている。この観察眼があるならば、将来はゴシップ記者として業界にさぞ恐れられることだろう。
「何だテメェ!? 和奏ちゃんまで自分の女にしようとしてんのかよ!?」
言い方を考えてほしい。気になる女の子のカテゴリに入ってるだけだよ。じ、事故、だったけど、キスしてしまった相手だし、オブラートの上からだったとしても事が事だけに、何とも思っていませんよと言うには関わり過ぎている気がする。
「まあ、いいんじゃないか…テルには関係の無い話だ…白沢がテルに振り向くことだけは天地が生まれ変わっても無い……」
「わかんねえだろ!? そういうマサだって和奏ちゃんワンチャン狙ってんだろ!?」
「…………………………」
「いや、否定しろよ! え? そなの??」
えっ!? 将隆君そうなの!??
それは、僕も全く知らなかった。
新園さんは、薄々勘付いていた様子だ。新園さんって本当に凄いね。何者なのさ?
「はぁ…白沢が、誰を好きかなんて明白だろう。邪魔してやるな。テル…」
「お前それでいいのかよ〜?」
「………………………………」
僕も恐る恐る将隆君の方を見る。
「幸守…」
「は、はい…」
「俺のことは気にしなくていい。だが、もしも白沢を選ぶならお前が幸せにしてやれ……もしも白沢を選ばないなら…その時はきっぱりと振れ……後腐れの無いようにだ……」
「は、はい。肝に銘じておくよ……」
「ならいい……」
将隆君って、渋いと言うかなんというか、男から見ると格好良いんだよね。僕はそんな将隆君を応援しているよ!
応援はしているけど、和奏ちゃんと事故でキスしてしまった前科は黙っておこう。和奏ちゃんに暴露されるのは仕方無いとしても、僕から暴露するのはNG過ぎる。墓場まで持って行こう。僕のためにも、将隆君のためにも、和奏ちゃんのためにもね。
「いや、告れよマサ!?…」
「俺もまだライクだ……」
「どいつもこいつもちんたらしやがって、お前らチ◯チ◯付いてんのか!?」
「急ぎ過ぎて粉砕玉砕大喝采したテルちんに説得力の欠片も無いけどね〜。テルちんはもう少し我慢を覚えないと彼女、永遠にできないで終わるよ。一生童貞だよ〜」
「ちっ、そん時は仕方ねえな。ユミリンで妥協しといてやるぜ!」
「何それ笑うわ。願い下げ過ぎる〜」
「ユミリンのツンデレとか笑うわ〜」
「この2人くっつくと思うマサ?」
「さあな…どっちも生涯独身だろ…」
将隆君がそう予想するなら、僕の清き一票も同じところに入れておこう。面白いコンビにはなれると思うんだけどね。
「俺や、テルのことはいい。それよりも幸守は早く義妹と仲直りするんだな…義妹が不機嫌な理由など分かり切っているだろ…」
「………………………………」
僕は真顔で、うんんと首を横に振る。
「………………幸守………」
うん。何でしょうか。
「お前、今週何人に告られた?…」
「え!?…えっと、さっきの弟君も含まれるのかな。含めたら9人かな……」
「コイツ! モテ過ぎじゃね!?」
「全教科満点で球技大会ではMVP…」
「顔も性格も悪くないよね〜…」
「何急に? 褒めても飴ちゃん出ないよ?」
「欠点は、まあ、金持ちなくせに死ぬ程ケチ臭いことくらいか〜?」
放っておいてよ。倹約家なんだよ!
「幸守、義妹は幸守に好意を抱いているんだろ? 好意を抱いている相手が他の女子からもモテ始めて、連日告白されまくっているとなれば、気が気ではないだろうという話だ…」
「え?…でも僕、全員断ってるよ?」
「だとしてもだ。中には強引に迫って来る女子も居たんじゃないか?…なし崩し的に交際しようとする女子が出始めないとも限らないだろう…」
「え?…でも僕、暴力には屈しないよ?」
「マサちん交代交代〜」
「頼む。疲れた…」
僕何か将隆君に悪いことしたかな?
「ここで耳寄りな情報を1つ! 男子生徒に大人気な唯香ちゃんも今頃、人気の無い校舎裏に呼び出されて告白されている頃だね!…相手は元ヤンキーの超不良な先輩かも〜」
ガタンと席を立つ。
「どうしてそれをもっと早く言わないの新園さん唯香に何かあったらどうすんの!?」
「嘘嘘、嘘だから…」
「嘘だからっ!??!?」
どうしてそんな嘘吐くの!?
「幸守…そういうことだ……」
「どういうことなのぉ〜!?」
「察しのわりぃ奴だな。ようは唯香ちゃんは大好きな幸兄がどこのアバズレに取られるかもわからんから気が気じゃないってことだろうがよ。幸守が誰に告白されてっかなんて知る由も無いからな!」
照明君ですら察したことを僕が察することができなかったなんて不覚の極みだ。
「そのうち、唯香ちゃんでもOKしちゃうイケメンが現れるかもしれないよ幸守君!」
「………………………………」
何だろう。モヤモヤした気持ちになる。
「よし、こうしよう。タイマンで僕に勝てない男子は唯香を護る資格無し!」
「本当に兄貴の許可が必要になっちまってるじゃねえか! そのうち、鬱陶しがられても知らねえぜ幸守…」
唯香に、幸兄鬱陶しい! と言われるパターンを脳内で再生してみた。僕は両手両足を床に着いて落ち込む。思いの外、心が痛い。
「お前さ〜、いっぺん唯香ちゃんとデートでもしてみたらいいんじゃね? 普通に、お前ら好き合ってるよな〜」
「まあ、そう見えるな…」
「右に同じく〜……」
照明君も、将隆君も、新園さんも何を言ってるんでしょうね!? 唯香は義妹だよ?
「義妹がライクで何が悪い!?」
「いや、ラブの方だ…ラブの方…」
ラブの方だって!??
僕、唯香のことがラブの方なの!??
「それを確かめて来るのも良いんじゃないかって話だ…お前がデートに…いや、2人で出掛けないかと誘えば、義妹の機嫌も直るんじゃないか? 俺はそう見ているけどな…」
どうしよう。将隆君にそう言われると、そうとしか思えなくなるのですが?
「唯香とデート?」
「そんなに悩む程のことか〜? 帰りにラブホに寄るわけでもあるめ〜し! 高校生ならデートの1つや2つするだろ?」
「テルはしたことないくせに?」
「しばくぞ!?」
でも、確かに和奏ちゃんの中学生時代のお友達たちも血気盛んにデートに勤しんでいた。これは唯香との仲直りを目論んだサブミッションであると考えれば、案外悪くないのかもしれない。いつまでも、唯香のご機嫌が斜めなのは僕も困るからね。
「わかったよ! 僕は、唯香をデートに誘ってライクかラブかを見極めて来るよ!」
何だかやる気の炎が燃え盛って来たよ!
「幸守ってお子様だからよ。ライクとラブの区別がつけばいいけどな〜」
「それだな。そこが問題だ…」
「唯香ちんが可哀想さね〜」
「ちょっと!? 僕はもう、そこまでお子様ではないからね!? だって僕は、水城院 幸守は恋愛を既に解禁させた(はずな)のだから!」
「「…………………………」」
そうと決まればデートプランだ。
和奏ちゃんと予行演習は済ませてある。
待てよ。天才の発想を思いついたぞ!?
「そうだ。ナユタも誘って、だべし!?」
友人3人に同時に頭を叩かれる。
「アホかこのうんこ野郎!」
「今回は2人で行け…」
「メイドちゃんとは別の機会にね〜」
「そ、そういうものなの?…」
「「そういうものだ!」」
多数決には屈したくないが、将隆君がそちら側に居るので今回ばかりは屈しよう。今のところ僕の将隆君への信頼は100%だ。裏切られたと思わされるまでは、将隆君のアドバイスは素直に聞いておくことにしよう。
僕は唯香をデートに誘うと決めた!
今、そう決めた!!
ライクかラブか見極めるんだ!
でも、ラブだったらどうしよう!??
何だか既に怖くなって来ている。
ラブだったら、ホント、どうしよう?
なるようになるのだろうか?
気分は既に、なんとかな〜れ〜。だった。




