第62話 水城院コール
「流石ね幸兄! 個人技もさることながら、全体を見てフィールドを支配していたわ! 私にはできない見事な連携だったわよ!」
「幸兄さんがこのクラスの核ですね!」
う〜ん。そこまで褒められることをしていたわけではないのだけれど、何か唯香と和奏ちゃん色眼鏡が激しくないかな?
「そ、そうだね。でも、たまたまだよ。僕というよりはテルのおかげだし⋯」
「そそっ! 俺様のおかげ! 次の試合も俺様の応援をよろしく頼むぜ後輩ちゃんズ!」
唯香と和奏ちゃんが照明君のウインクを華麗に無視して僕の方に向き直る。
「頑張ってね幸兄!」
「頑張ってください幸兄さん!」
「俺、グレちゃうよ??」
サッカーの3回戦が始まる前に、2年生女子によるテニスの試合で負けてしまったクラスメートの情報通少女が姿を見せる。
「ヤッホー! 勝ってるかな~幸守君?」
「新園さんお疲れ様、僕たちは何とか奇跡的にね。テニスの試合はどうなったの?」
「3回戦負けさね。運悪く優勝候補の子に当たっちゃってさ~。いや~まいったまいった! 流石に勝てなかったわ~」
新園さんもうちのクラスの中じゃかなり運動神経の良い方だが、流石にその道の現役スポーツ少女たちに勝てる程ではない。
それを踏まえると、唯香の活躍は目を見張るものがあった。バスケットボール部の何人かに今からでも部活動に入らないかとスカウトされていたくらいだ。断ってしまっていたようだけれど、少しだけ部活動での唯香の活躍も見てみたかった気もする。
「お疲れ様です先輩。余り物ですがスポーツドリンクありますよ。どうぞです!」
「おっ、サンキュー和奏ちん! もうクタクタだよ~。でも、後は男子どものサッカーを応援して球技大会もおしまいだね! 景気よくフィナーレと行こうじゃないか男子たち〜!」
「おっしゃ〜!! 勝つぞお前ら〜!!」
「出しゃばって仕切るな猿!」
「司令塔は水城院に任せとけ!」
まあ、ぼちぼち頑張るよ。
徐々にテニスの試合に負けて、男子サッカーの応援に合流する女子生徒が増え始めた。
その甲斐あって、更にテンションを上げた彼女募集中の剛腕キッカー尚川 照明によるダイナミックホームランがバカのひとつ覚えみたいに繰り返される。序盤はこれでいい。先程と同じゲームの組み立てである。
サッカーの経験を積む度に、効率良く相手を躱す術を覚え、ボールのキープも難無くこなせるようになって来た。体捌きという点では人並み以上には動けるため、それなりにはやれるだろうと考えていたけれど⋯。
フィジカルでも案外負けないものだ。誰もかれも対戦する相手は照明君のようなフィジカルモンスターが基本であると考えるのは間違いだったようだ。
「くそっ!? 水城院の奴、上手いぞ!」
「目立たないくせにミスしねえ!」
「意外とガッチリした身体してんぞ!」
「このガリ勉野郎、動けるぞ!?」
大丈夫だ。このくらいなら、見切れる。
サッカー部員の相手は荷が重いけれど、運動神経の良い程度の同じ素人なら何とでもなりそうだ。サッカー部員はサッカー部員とのマッチアップが基本のため、帰宅部の僕の相手は精々が別の運動部だ。
これで4人抜き! 個人技も時には必要だ。
「ねえねえ! 水城院君ってあの学力学年1位の人だよね? 運動もできるんだね!」
「顔も結構悪くないし、もしかして彼、優良物件なのでは!?」
「告白したら付き合えたりしないかな?」
白沢 和奏が周りの声を聞いてから、何やら難しい顔をしている親友の少女に耳打ちする。
「ユイ! 幸兄さんがモテています!」
「⋯⋯どこが自分はモテないなのよ〜⋯」
僕らはプロじゃないんだ。ある程度のボールキープ力を見せれば、こちら側が危険だと相手選手の何人かが警戒心をこちらに向け、自然と立ち位置を寄せて来るだろう。
そうして生み出された空間にピンポイントのロングパスを通す。オフサイドギリギリのタイミングで、今だ!
「ナイス幸守! 貰ったぜ!! ドォーラゴンヘッドォオオ!!」
ゴール! ゴールゴールゴォオオール!!
「うおっしゃあらぁああ〜!!」
おお、お猿はヘディングの方がお上手だ。ドラゴンシュートは使えないけれど、ドラゴンヘッドはしっかりとゴールの枠を捉えていたし、そこそこ利用価値がありそうだ。
このことにもっと早く気付けていれば、ヘディングができるポイントへのパスだけ出すようにしていたのにね。
けれどもこの試合中、もう照明君に必要以上パスを出す必要は無くなった。想定外の照明君のゴールにより、彼への警戒心が高くなったはずだ。
「マサ! そっちは任せるよ!」
「おう⋯⋯」
「くっそ!? コイツ、ディフェンスまで上手いじゃないか!⋯そっちから切り崩せ!」
僕が普段から誰と戯れていると思っているのだろう。うちのメイドは君の5倍速い。護身術の水面蹴りをボールに向けて放つ。
「しまっ!?」
「良し! スティール成功⋯」
「戻れディフェンス!」
「ちょっ⋯ドリブルも速い!?⋯」
いや、思ったよりも相手の足が遅い。足の速さにはそれなりに自信があるが1度抜けば追いつかれない速度でドリブルすることができるらしい。サッカーに僕が慣れて来たのかな。ならばこのまま、視線誘導。ドリブルしながら照明君の方へ。
「テル!」
「おっしゃ! 来いや幸守!!」
おっと、足が滑った。
僕のパスを受け取ったクラスメートのサッカー部であるユウヤ君が無難にスパーンと追加点を奪ってくれた。いや~、流石に頼りになるな〜。
「よっしゃ! 本当にセンスあんな! なんか⋯普通に⋯部活動でプレイしてる時よりも動きやすいかも??⋯」
「だよな。これ、どう考えても全部、水城院の組み立てだよな?⋯視野が広いっつうか。ひょっとして、水城院って前に出るタイプじゃないだけで、運動も天才なんじゃね?」
この試合はもう、勝てそうではある。そろそろタイムアップになってしまうし、後の事は我がクラスのサッカー部であるカズキ君とユウヤ君に任せて大丈夫だろう。
僕はディフェンスとしての仕事だけ、しっかりとしておけばいいはずだ。圧倒的棒立ち!
「くそっ! また防がれた!? 何なんだよお前何でそんなに動けるんだ! 動き過ぎだ!」
ならば、圧倒的棒立ち!!
「いや、いきなり止まんなよ!? 本当に何なんだよお前はよっ!?」
「ふざけんな幸守上がれよぉ〜!」
照明君が何やらはしゃいでいるな〜。
だが断る! 圧倒的腕組み待機!!
そして、そのまま想定通り時間が無くなって僕たちの勝利が確定する。何やら外野からは水城院コールが聞こえて来るが、また唯香が何か凄いことでもしているのかな?
⋯唯香は⋯居た⋯何故か僕を睨んでない?
もう勝てるからいいやと、最後に手を抜いたことを怒っているのだろうか?
よし、ここはご機嫌伺いを兼ねて、微笑んで手でも振っておこう。
「「きゃあああぁ〜!!」」
「ねえ和奏あの馬鹿無自覚だと思う!?」
「幸兄さんそういうとこありますよね!」
何やら女子生徒たちが騒いでいるが、唯香に何かあったのなら駆けつけるべきか? 謎の水城院(唯香)コールが鳴り止まないし⋯。
「すげえ人気だな。水城院⋯」
「水城院って二刀流だったのな!?」
我がクラスのサッカー部2人が僕に駆け寄って来て手のひらを上げて来るので、僕は2人とハイタッチをしておく。そりゃ唯香は凄い人気だよ。自慢の美少女義妹だからね。
二刀流とは何のことかわからないけども。
「おつ、幸守⋯」
「マサもナイスディフェンス!」
相手クラスの選手。無限に僕にシュートを阻止されていた人が近付いて来る。
「何なんだよ。何なんだよ。何なんだよ!? サッカー部2人しかいないクラスが何であんなプレイができるんだよ! 何で俺にタイマン勝ってんだよおかしいだろ!?」
「えっ⋯そ、そんなこと言われても⋯帰宅部同士、今日はたまたま僕の調子が良かっただけで、これは⋯そう! まぐれです!」
「ふざけんな! 俺はサッカー部の次期エース候補って言われてんだよこの野郎!?」
そうなの!?
僕が我がクラスのサッカー部2人に無言で視線を合わせると、2人は笑いながら頷く。
「まあ、実はそうなんだよな〜⋯」
「本当にすげえな。そら騒がれるわ。何うちの代のエースストライカー止めてんの?」
「おい!! この際、まぐれでも何でも構わない。コイツは磨けば光る余地しか無い原石だろうが! そうだろ!? カズキもユウヤも勧誘しろよ! 俺らの代希望出て来たぞ!?」
「確かに…」
「言われてみれば…」
「え? いや、僕!? ダメダメダメ!…勧誘するなら僕はテルをオススメするよ!!」
「俺様をご所望とはお目が高い!」
「コイツはいらん!」
「すっこめ猿!」
「ミジンコ!」
サッカー部から滅茶苦茶言われている照明君がプチンとキレた。
「んだとテメェら!? 俺今回得点入れたじゃねえか!? 見てなかったのかなぁ〜??」
「馬鹿が…あんなものサッカー部なら誰でも決められるだろ! 水城院が出した針穴を通すようなパスが完璧過ぎる。パスの精度が次元違いだ…」
「ああ、マジそれな!…思ったわ…」
「ここしかないってとこに来るよな!」
状況を計算に入れて、そこしか無いと思うところに蹴り出してるからね。
「帰宅部嘘だろ? どこで習ってた?…」
「いや、だから……僕が習ってたのは、ちょっとした護身術…なんだけどね?…」
世界最強の女格闘家を目指していた婆さん。いや、お姉さんの流派。一撃必殺柴神流格闘術という名の護身術以外、僕が習い事として学んだものは無い。サッカーなんて、高校生になって初めてやったよ…。
「護身術だと!?」
「水城院ってあの水城院財閥だよ…」
「この前も誘拐事件あったよな!?」
地方新聞に取り上げられていたからね。取材は拒否したから、僕の名前は載らなかったけれども現役高校生大活躍みたいな記事を見て源治郎さんが笑っていたっけな。実の息子が誘拐された事件だったんですけどね。
「「お前、本当に何者だよ?…」」
「ふ、普通の帰宅部だよ?…」
「少し苦しいぞ幸守……」
将隆君まで。
「こういう奴だぜ幸守はよぉ〜!」
照明君、囮にされて機嫌悪いのかな?
「はぁ〜…まあいい、負けた負けた! さっさと最終戦も勝ってMVPになってこい!」
「………え?…いやいや、ディフェンダーがMVPなんてある?」
「お前にはこの声援が聞こえないのか!? サッカーを知らん奴らでも、誰がゲームを支配しているのかくらいはわかっているようだぞ」
「熱烈な唯香(水城院)コールだよね〜。僕も義兄として鼻が高いよ〜」
「「オ・マ・エ! だよ!!」」
「………………………………」
ちょっ!? えっ!? これ僕なの!??
確かに、よく耳を澄ませば幸守君とか幸守先輩とか、幸兄のバカとか聞こえて来る。
そうかこれ僕なのか!??
あっ、やばい。どうしよう…。
「カズキ君! ユウヤ君! 僕ちょっとお腹が痛くなって来たからトイレに……」
「おっ、そうか…わかった…」
「とでも言うと思ったのか?」
「……え?……………」
「「逃さねえよMVP」」
ちょっ、調子に乗り過ぎた…。
その後、水城院コールが鳴り止まない中で行われた最終戦で僕は先程と同じように無難な立ち回りをしてファインセーブとリベロからのゴールアシストを連発し、1ゴールも奪わないまま2年生男子の部のMVPに祭り上げられることとなるのだが…。
義妹の唯香も、1年生女子の部のMVPに選ばれていたので、これはこれで水城院家が優秀であることを学園に知らしめることができて良かったのかもしれない。
水城院家の人間として恥ずかしくない好青年を演じるミッションは継続中だからね。
表彰式。隣には何故かむくれた唯香さん。
「幸兄のバカ…目立ち過ぎっ……」
「ブーメランだよね唯香さん?…」
しばらくの間、僕と唯香は大財閥、水城院家の超人兄妹として鳥羽園学園で時の人となるのであった。
「「水城院! 水城院! 水城院!!」」
「このコール何とかしてよバカ守!」
「だから、半分は唯香なんだってば〜!?」
目立つのは、程々にしようね!?




