第60話 球技大会
1日一緒に過ごしただけで、そのカリスマ性で他校に舎弟のような1つ歳下の友人ができ、女の子たちからは愛人関係を迫られるという、自分ではそれ程女の子にモテないと思い込んでいる水城院家の少年は、後輩少女に頼まれた休日のトリプルデートを何とか及第点で乗り切り、再び学園生活を謳歌しているのであった。
水城院 幸守は語る。
「…最近…義妹の押しが強い……」
「お〜、良かったね〜幸守君!」
「相変わらずモテる男だな幸守…」
他人事だと思って適当言ってるね?
まあ、他人事ではあるのだろうけれども。
「しばらくはゆっくりしたいよ…」
「たまには土手にサボりに行くか?」
「それはダメだよ。水城院家の人間にそんなサボタージュなんて真似は許されない。でもそうだね。ちょっとゆっくりしたい僕は、球技大会はベンチスタートでもいいかな?」
「俺様がフォワードで文句はねえよなテメェら! 多数決っつった奴はぶっ転ばす! 勝ちたきゃ幸守をフォワードに添えろと言った奴もぶっ蹴とばす! ついでに夏休み中に彼女作った伊藤と田代はぶちのめす!!」
「よし田代、とりあえず尚川をぶっ飛ばしてこのバツゲームを終わらすぞ!」
「そうだな。やられる前にやれってのは定石だしぶっ飛ばしておくか!」
血気盛んな生徒が多いので僕はベンチで休むことができそうだ。良かった良かった。
「まあ、良いんじゃね。目立つしよ」
「ああ、テルに任せようぜ!」
「ふっ、お前ら理解ってるじゃねえか!」
「確かに照明が最強かもしれないな…」
「その髪目立つしありかもしれない!」
何故だろう。その時、シンクロしたようにクラスに1つの共通認識が生まれた。
彼は最高の囮として使える!
「幸守君はそうさね〜ディフェンスね! 特別に幸守君にはリベロを任せるよ〜!」
「話聞いてた? 僕はベンチスタートで構わないんだけど…というか、それ1番疲れるやつじゃないの?…」
そもそもサッカーなんてほぼ未経験だよ。ベンチを温めることも叶わないのか。今回は適当に流して乗り切らせてもらおうかな。照明君がやる気に満ち溢れているし、彼に空回りしてもらって、とっととトーナメント敗退してしまおう。
「俺様と幸守の黄金コンビにかかれば、ハットリ半蔵トリックも夢じゃないぜ!」
どんな忍法でイカサマする気だろう?
「ハットトリックと言いたいんだろうな」
「アホだコイツ。本当にやれんのか?」
「そもそも僕ディフェンダーだからテルと絡むようなことはそう無いと思うけどね…」
本気でやるならキーパーが良かったな。弾丸相手だろうが臆せず飛びつけるのは僕の長所だと思うし、足技なんてそこまで得意ではないよ。
「僕のディフェンダー人選ミスだよね…」
「信じろ幸守お前ならやれる! ひたすらスライディングを仕掛けて20人の足を折れ! それで俺たちの勝ちは揺るがねえ! 俺様の計算が狂った試しがあるか!?」
レッドカードで1発退場か!?
待てよ。それは使える裏技なのでは?
「テル!? 確かにその手があったね! これって味方の足を潰しても1発退場でベンチに引っ込めるの新園さん!?」
「テルちん潰して幸守君が引っ込むってプラスマイナス0ではあるけれど、勝ちの目を捨てるようなものじゃないのかね〜?」
「そうだぜ幸守足引っ張んなよ!!」
「わかったよ。僕なりに頑張るよ…」
「話が噛み合ってねえよな?」
「水城院って自己評価低いかんな〜」
「自己評価高いアホもいるけどな〜」
「ようし野郎ども! 今年は優勝して彼女を手に入れるぞゴラァああぁ〜!!」
「「うおおおぉおぉおお〜!!」」
彼女居ない組が吠えていた。
僕はというと、別に要らないのでテンションが上がるようなことは無かった。彼女(仮)とのデート体験というものは、それなりには楽しかったけれど、何度もしたいような出来事ではなかった。僕の場合は気苦労の方が多いからね。
その後、僕と将隆君は照明君に無理矢理練習に付き合わされることになるのだが、やってみると僕も将隆君もそれなりには動けるみたいでほんの少しだけやる気が出たという。
去年は運動グラウンドを借りて陸上競技大会だったのに、今年は学園内の敷地で球技大会をやることになった。種目はサッカー。球技大会が大体野球かサッカーになるのは、1度に多くの生徒が参加できるからなのだろう。
比較的動けない文芸部寄りの子たちがベンチを希望するため、11人も参加できれば充分なのだろう。うちのクラスは運動が苦手な子も多いから、僕も強制スタメンである。
ともあれ、時間が来るまでは暇なので義妹の応援でもしておこう。唯香の試合を見に行かず、後で不機嫌を爆発されても困るからね。
球技大会当日午前の部、学園内にある体育館では1年生女子一同によるバスケットボールの試合が執り行われていた。
外の運動場では同時進行で1年生男子のベースボールとテニスコートでは3年生男子によるテニスの試合が続けられている。
サッカーよりもベースボールやテニスの方が僕としてはまだやれた気がするのだけれど、種目に文句を言っても仕方無いからね。とりあえず、応援の声は上げておこう。
「頑張れ〜! 唯香〜!」
ダンダン、ダダン…。
オレンジ色のボールが不規則なバウンドを繰り返し、ツインテールの少女が鮮やかにディフェンスを躱すと、ヘルプに来た相手選手の動きもお構い無しに、リングに向けて綺麗な放物線を描くシュートを放つ。
前予想では現役部員たちの独壇場になるであろうとされていた1年生による女子バスケットボールの試合が、緑色の髪留めでそのきめ細かい黒髪をツインテールにしている帰宅部の美少女によりひっくり返されていた。
「よしっ! なまっていても行けるわね!」
綺麗なフォームから放たれた弧を描くジャンプシュートが次々に決まり、唯香のクラスがほとんど無双状態に入っていた。
ここは既に彼女のためのステージだ。
突如として現れた1年生美少女。運動神経抜群な義妹だとは思っていたけれど、まさか現役のバスケットボール部員に素で勝ってしまう程とは思わなかった。そりゃ死んでも応援に来てと言われるわけだ。
男子生徒からの黄色い声が凄い。何なら女子生徒からも格好良いだの何だの言われている我が自慢の義妹なのであった。
「やるねぇ~! 中学生時代は女子バスケットボール部に所属していたんだっけ?」
「ナイシュ唯香!…うん。そうらしいよ。高校で入らなかったのは、高校生活に慣れ始めて余裕ができたらアルバイトを始めようと思っていたから、らしいけど…」
別に必要無いもんね。この国に名だたる名家の1つである水城院家のお嬢様が、わざわざアルバイトをして小金を稼ぐなんて、アルバイト自体は社会勉強になるけれど、唯香の場合は外に出ると身の危険が増すから、不用意にアルバイトもできないだろう。
それは少し、可哀想とも思うけれど、義兄としては身の安全を第一にしてもらいたいね。
「はぁ、はぁ、はぁ、何なのよこの子! 何でバスケ部より動けるの!?」
「中々良い動きするわね! 流石現役! でも、お生憎様…私も中学までは女バスでキャプテンを務めていたのよ! ここは幸兄に自分をアピールさせてもらうわよ!」
「あっ、誰かその子を止めて!」
劇場に舞い降りたツインテール美少女の晴れ舞台が止まらない。もうやめてあげてと言いたい程の大活躍だ。
1試合、2試合と球技大会が進むにつれ、帰宅部にも関わらずクラスメートの現役女子バスケ部員と見事に連携して、本日ぶっちぎりの最多得点を叩き出しているツインテールの美少女は、試合を観戦しようと体育館に集まった生徒たちの注目の的となっていた。
これで人気が出ないはずもない。
「ミサ!」
「はい! ユイ!」
バスケットボール部員である相手の厳しいマークを上手く外して、味方からパスを受けた唯香はマークの身長差を逆手に取りシュートフェイントから身をかがめて素早くゴール下に切り込んだ。ゴール裏をドリブルで駆けて、タイムアップギリギリでレイアップシュートを放ち、鮮やかなブザービートを決める。
ダメ押しの得点で唯香のクラスの総当たり戦3試合目が終了した。ぶっちぎりである。
「ナイスパス! ミサ!」
「最高だよユイ! 位置取りも切り込みも完璧でパスも出しやすい!本当に上手いよ!」
「くぅ~! 悔しい! 完敗。水城院さんどうしてバスケ部に入部しなかったの!?」
「…それは…色々理由があるのよ」
「水城院さんが居たらインターハイも夢じゃなかったかもしれないのに!? 今からでもどうかしら!? その地力なら、3年生からレギュラー奪えるかもしれないわよ!」
「遠慮しておくわ。バスケットは好きだけれど、今は他にやりたいことがあるから…」
体育館の2階から唯香を見下ろしていたら、唯香が突然こちらを見上げて来たので、僕は笑顔で軽く手を振っておくことにする。ちゃんと唯香の活躍を見ていたよ。
唯香も飛び切りの笑顔で返してくれる。
「おい! 今、水城院さん俺を見て笑顔を見せてくれなかったか!?」
「馬鹿野郎俺に向けてだよ!」
「いや、俺だね! 後で告ろ!」
「ふざけんな抜け駆けすんなよ!」
これは偉いことになりそうだ。
「唯ちんの好きな人が義兄さんだって皆が知ったら、幸守君袋叩きだね〜!」
隣の新園さんが他人事だと思って楽しそうに言っている。
「え? 正当防衛はするよ? 対複数人用の護身術も僕は身に付けているし、不要なケガは絶対しないでねって唯香に言われてるから、僕にケガさせようとする人は全部きっちりと潰しておくけれど?…その時は、新園さん証人になってくれるよね?」
「……う〜ん。あれ〜? 幸守君て、こんなに物騒なこと言う人だったっけ〜?」
「何言ってるの? 僕は平和主義者だよ!」
「ただし、暴力は得意…だったね〜…」
ナユタ程ではないけどね。同世代の子に負けたことは無かったかもしれない。幸いにも僕はまだ1度も自分より強い相手と喧嘩をしたことがない。ただそれだけのことだ。
「「ありがとうございました!」」
互いに挨拶をしてからコートを上がる女子生徒たち。タオルで汗を拭きながらスポーツドリンクを飲み、一息吐こうとした水城院 唯香は直ぐ様仲間たちに囲まれる。
「凄い凄い! 下手したら2年生の先輩方より上手かもだよユイ!」
「そんな事ないわよ。それに私のバスケは、いつもワンマンプレイになっちゃうからチームプレーはあまり向いてないのよ。同じチームで長く続けると蟠りを生みやすいから…」
「えぇ〜、仲間なら心強いのにな〜!」
「嫉妬しちゃうくらい上手だもんね〜!」
「ありがとうね2人とも! でも、私なんか居なくても何とかなるわよ。頑張ってね!」
選手全員が経験者ではない即席で組まれた学校の球技大会のような試合ではワンマンプレイヤーが活躍する傾向にある。
そのことを唯香は充分に理解していた。
1対1で力を発揮し、ボールキープ力を武器に素早く切り込んで行くポイントガードタイプである唯香を点取り屋とし、唯香のクラスはバスケ部員数が片寄っているEクラス以外の全クラスを打ち負かし、そのままの勢いで準優勝を勝ち取ってしまった。
バスケットボール部員が2人しか居なかった唯香のクラスにとっては、この準優勝は大金星と言えるだろう。優勝したEクラスとの点数差も僅か3点だったし、唯香自体はほとんどミスをしていなかった。間違い無く今年の女子のMVPは彼女だろう。
1年生女子によるバスケットボールが終了してクラスメートのもとから離れ、和奏ちゃんと共に僕らの教室へ涼みに来た唯香が誇らしげな顔を見せて微笑む。
「お疲れ様、唯香! 凄かったね!」
「ふふん。まあ、個人プレイなんて、あまり褒められたものじゃないけどね。経験者として、やるからには全力を出したまでよ!」
「格好良かったですよユイ! またユイの人気が上がっちゃいますね!」
「別に人気なんてどうでもいいわよ! 誰かさんが少しくらい意識してくれるようになってくれた方が私は嬉しいんだけどね〜」
僕は苦笑いしておく。
「す、凄かったよ! 自慢の義妹だよ!」
「はいはい、ありがとう幸兄⋯」
本当に自慢の義妹だとは思っている。うちの義妹は、どこに出しても恥ずかしくない運動神経抜群の美少女であります。
「次は幸兄の番ね。この後は暇だから、応援しに行ってあげるわね」
「それは嬉しいけれど、僕には唯香のような点を取る活躍はできないだろうな〜。そもそも僕はディフェンダーだし? でも、やるからには勝ちに行くよ」
そう言っとかないと唯香が怒りそうだ。
「おう! 見てな! 唯香ちゃん&和奏ちゃん! 俺様が必ず幸守たちを優勝へと導いてやんぜ! ヴィクトリーロード!!」
気合いだけはあるんだけどね〜。
気合いだけで終わらないことを祈るよ。




