第58話 ハイスペック
カップル割引&学生割引がダブルで適用されたお買い得チケットを購入し、ここらで1番大きな遊園地に入園する。もちろんお金は全て僕が払う。ことになっているが、和奏ちゃんの提案で、出費は後でまとめて割り勘にするらしい。まあ、和奏ちゃんのような可愛い女の子とデートできるなら、これはこれで普通に必要経費な気もする。世の彼氏は、きっと頑張って奢っているのだろう。
そもそも! ナユタにプレゼントしなければならない服を思えば、この程度の出費どうということも無いだろう! ガクガクブルブル。
「さてとっ! それじゃあ早速、皆大好きお化け屋敷に行きますかぁ~!」
元気はつらつ少女なっちゃんさんの提案に、おっとり系少女のモーちゃんさんが頷く。
「良いですね〜」
この少女たちはお化けを怖がりそうな性格をしていない。むしろ、ゴーストバスターと言われても逆に信じてしまいそうだ。2人も、その彼氏たちも異論は無いようだが…。
「お…お化け屋敷は止めた方が良いと思います! 止めないと…や、止めないとですね…なっちゃんが呪われちゃいますよぉ~!?」
「大丈夫大丈夫! 作り物だよワカ〜!」
「私に! 呪われちゃいます!」
「あ〜、そっちか〜! でも、夜な夜なワカの可愛らしいオバケが枕元に出てくれるなんてこれは最早ご褒美だよね!?」
「和奏ちゃん俺も呪ってくれ〜!」
「では、私もお願いしますねワカ!」
「…ついでに俺も…………」
「幸守先輩ぃ〜、皆がイジメますぅ〜!!」
あからさまに怯えている。見た目通り怖いものは苦手なんだろうな。抱き着いて来る守ってあげたくなるような小動物系美少女の和奏ちゃんの頭を優しく撫でておく。
これは和奏ちゃんのこの反応を引き出すために知ってて提案した確信犯だろう。
「ワカ! 知ってる? オバケ屋敷では、好きな人に合法的に抱き着いてもいいんだよ!」
「私は幸守先輩と、抱き着きたい時に抱き着いても良い契約を結んでいるので間に合っています! 呪いの力は借りません!」
僕、いつの間にそんな契約書にサインしたの? 身に覚えがありませんよ和奏さん?
「マジでか〜! どさくさに紛れてナナのおっぱい触っちまお〜!!」
「言ったからダメですぅ〜! どうしてネタバレしちゃうのかな?」
「触ってしまうので?…」
「俺たち…清い交際……」
三者三様、色々あるようで。
「…和奏がどうしても嫌だって言うのなら、僕たちは外で待っていようか?」
和奏ちゃんが涙目で僕を見上げる。
「そ、それはダメです。せっかくの遊園地デートなのに幸守先輩に楽しんでもらえないのはダメです! ここは、私がなっちゃんをとっても呪うことで対策とします! あ、後で足も蹴ってやります! 許しません!…」
妥協したらしい。さぞかし威力の無いローキックが炸裂することだろう。和奏ちゃんに物理攻撃を加えられて和奏ちゃんのことが嫌いになる人類とか居るのだろうか?
ひたすら好感度が上がって終わりそうだ。
「和奏は頑張りやさんだね。よしよし、でもあまり僕のために無理はしないでね。無理だと思ったら、スタッフの人にお願いして直ぐにでも外に出してもらうから…」
「大丈夫です! 幸守先輩を盾にします!」
「任せなさい。盾として頑張ります」
和奏ちゃんの盾になれるなら悪くはない。
「いいなぁ〜! ねぇ〜彼ピ、あたしもあんな感じの彼ピがいい! 幸守先輩良い!! ここはいっそ、彼ピをチェンジしたいです!」
「いや、こっちのセリフだけどな?」
この野球部カップル大丈夫だろうか?
「翔君も私を盾にしていいですからね」
「助かる……」
こっちのカップルも大丈夫なのか?
「幸守先輩が1番格好良いです! ずっと、ノーチェンジでお願いします!」
「う、うん。そのつもりだよ…」
トリプルデートって恋人をそんなに軽々とチェンジするものなの? 恐ろし過ぎない? だとしたら、トリプルデートなんてものはこれっきりで勘弁してもらいたいものだ。
出口で待っているからと言い残し、さっさと先にオバケ屋敷に入って行ってしまった和奏ちゃんの旧友に続いて、僕たち2人もオバケ屋敷に突入する。
僕の隣では、呪縛霊のようにギュッと腕を抱き締めて放さない和奏ちゃんの姿。そこまでくっつかれると幸守シールドが機能しないがよろしいのでしょうか?
「ひひひ、ひつじが1匹、ひつじが2匹…」
眠れないのかな?
和奏ちゃんは何やら旧友を痛い目に合わせるための呪いの言葉を呟いている。
夜中の墓地に似た雰囲気の道をひたすら歩き続ける僕と、最早しがみつく眠れないウェイトと化した和奏ちゃんのコンビ。僕らはどこへ行こうと言うのだろうか?
「大丈夫だって、全部作り物なんでしょ?」
「どどど、どうして、こんなものを作ったんですか幸兄さん!?」
僕は作っちゃいないが?
何故僕が責められている感じに? 学園の文化祭でもオバケ屋敷など作ったことはない。
「いや、それは…まあ、普通に遊園地のアトラクションのために…じゃないの?…」
「面白半分でオバケ屋敷なんて作って本当のオバケさんたちを怒らせたらどう責任を取るつもりなのか責任者に問い質します!」
凄い早口。目が据わっている和奏ちゃんは、あと一声、後ろから誰かに呼びかけられたら魂が抜けてコテンと倒れてしまいそうだ。
僕は神様や仏様、幽霊、宇宙人、未来人、超能力者、異世界人、その他もろもろの類を信じていない。会ったことが無いからだ。ただし居ると思っている人たちをバカにするつもりも無い。スーパーマンなら知っているからである。最も我が家の超人はスーパーマンではなく、スーパーウーマンだけどね。
別の言葉を選ぶと、凄い変態だ。あのメイドさんなら幽霊を掴んで瓶の中に閉じ込めてペットにでもしてしまうことだろう。
なんまいだぶ、なんまいだぶ。
人の気配が近付いて来る。流石に機械の気配はわからないけれど、オバケに扮した人ならば忍び足で近付かれても気付ける。盾になると約束をしたし、やれるだけはやるとしよう。
僕の健闘も虚しく、和奏ちゃんの魂は何度も何度も抜け落ちては戻り、本日のお客様の中で最も驚かし甲斐のあるお客様であったことだけは間違い無かったことだろうと思う。
幸守先輩シールドじゃ無理だったようだ。
ごめんよ。和奏ちゃん。
腰が抜けて歩けなくなった半泣き状態の和奏ちゃんを背負い、オバケ屋敷から出る。ビックリはしたけれど、これならば怒った唯香や大好きと言いながら追いかけて来る鬼さんのナユタの方が何億倍も迫力がある! 僕を怖がらせたかったら最低でも唯香&ナユタを超えなければお話にならないのである。
「ひっぐ! うぐっ!……ぐすん…」
「ありゃりゃ~? 泣かせちゃったんですか幸守先輩? 女を泣かせるなんて酷い男です!」
「いやぁ〜? 違うんじゃない? 泣かせたのは僕じゃなくてなっちゃんさんだよね?」
下手くそな口笛を吹いて誤魔化すなっちゃんさんを眺めていると背中で回復を試みていた和奏ちゃんが涙を拭い、小鹿のように震える足で地に立つと、友人のなっちゃんさんに向かい唯香直伝の回し蹴りを仕掛ける。
「よくも〜! ていっ!」
「あらよっと〜」
へなへなしたローキックが空を切り、空を泳ぎ? なっちゃんさんはわざわざ目を瞑ってその一撃をバレリーナのように避けて見せた。バランスを崩して倒れそうになる和奏ちゃんを僕が支える。
「むぅうう〜! 躱されました! 幸守先輩やっちゃってください!」
そう言われましても。
まあ、少し脅すくらいならいいのかな?
「和奏、もっと腰を入れて、上半身の力も利用して蹴るんだよ。ハイキックはこう!」
脳のリミッターを軽く外し、少し本気で空を切り裂くハイキックを繰り出す。轟音と共に一陣の風が吹いて、先程まで和奏ちゃんをからかって笑っていたなっちゃんさんがいきなり真顔になる。他の3人も同じだ。
「…へっ!? む、無理無理無理! そんなの首がもげちゃいますよ幸守先輩!? 彼ピッピシールド! 彼ピッピシールド!!」
「おいふざけんなって! 幸守先輩!? 格闘技か何かやってたんすか!? それは流石に洒落にならないし俺の首ももげちゃうから仲良くしましょ! 仲良くしましょ〜!」
「もちろん! 僕は平和主義だからね! でもちょっと、普通の人たちより荒事は得意だから、必要に迫られればいつでも披露するよ」
「ご、ごめんねワカ! ごめんって!!」
効果は覿面のようだ。
「むぅう〜、仕方ありません。許します。幸守先輩におんぶしてもらえて気分が良いので許しますが、オバケ屋敷はもう金輪際行かないですから! オバケ屋敷はグループのNGワードに登録されました!」
「うんうんそうだね〜!」
「平和が1番! 平和が1番!」
この野球部カップル結構面白いコンビだな。
「幸守先輩…おんぶしてください……」
頬を赤く染めて、甘えた声で和奏ちゃんがそんなことを言う。まだほんの少しだけ足が笑っているようなので、僕は彼女からのそのおねだりを快諾する。
「どうぞ…」
「…んしょ……えへへ〜………」
「ワカの彼氏スペック高いね〜?」
「そんなに足…上がらない……」
おっとりモーちゃんと彼氏のミニ将隆君が僕の真似をしようと試みるも、そう簡単には繰り出せないのがハイキックだ。
「ちょっと今のやってみろ彼ピ!」
「こ、こうか! うりゃ!! どう?」
「う〜ん。何かだせえ! 15点…」
「30点はあったくねえか!?」
「素人が無闇に振り回すとケガするから気をつけてね坂峰君!」
「幸守先輩は何のプロなんすか!?」
やはりこの野球部カップル結構面白いぞ。個人的には嫌いでは無い。新園さんと照明君がもしも付き合ったらこんな感じだろうか?
「ワカはもっと頭の良い人がタイプかと思っていたのにバリバリの武闘派とは…」
「聞き捨てならないです! 幸守先輩は文句無しの学年1位で、直近の学年末テストでは全科目の平均点100点ですよ! 幸守先輩に死角は無いのです!」
高校生レベルのテストだしな。できる人はできるだろうからそれ程自慢にはならないだろう。
「えっ!?……ほ、ホントに!??」
「居るかよそんな文武両道の天才!?」
「……954✕245は!?」
モーちゃんが仕掛けてきた突然の掛け算に脳が勝手に反応してしまう。
「23万3730だね…」
「……………合ってるのか?……」
「わかるわけないじゃないですか…」
携帯電話の電卓ツールに後から数字を打ち込んでから、モーちゃんが催促して来る。
「もう1度答えをお願いします先輩…」
「…23万3730だよ……」
モーちゃんさんが口をあんぐり開け、彼氏のミニミニ将隆君も、マジか〜と呟く。
「……647✕489は!?」
「31万6383だけど…」
「あ、もういいです本物です。ワカが嘘を言っている可能性の方が低いです…」
「ちょっと!? 私にも見せて!?」
「嘘だろおい!?…マジでっ!?」
和奏ちゃんが僕の背中でドヤ顔をしている気がする。
「幸守先輩もっかい! もっかい!!」
「……え〜…最後だよ?」
「4352✕7514は!??」
容赦無いな野球部。モーちゃんも初手が3桁の掛け算の暗算って、欠片も容赦が無かったけど、野球部は修羅場の数が違うから容赦を知らないんだろうな。
「桁が増えた。無茶言わないでよ。……えっと、ん〜…3千…2百、70万…928かな……3270万0928です……」
「…どう!?」
「あっ、合ってます………」
「この人電卓いらねえぞ!?!??」
「人類は人型ロボットを発明した!??」
盛り上がってるな〜。
「ふっふっふ! これが幸守先輩です!」
あっ、これ絶対に和奏ちゃん僕の背中でドヤ顔してる。次何か問題出されたらわざと間違えて人間アピールしておこうかな?
なっちゃんさんが僕の前に立つ。
わざと間違えよう。




