第57話 彼氏ですが何か
早朝から義妹とメイドに着せ替え人形の刑に処され、疲れでトイレに引きこもり嘔吐で残りの時間を過ごした僕は、義妹から与えられた今回の任務を果たすべく、待ち合わせ場所の駅前に赴くのであった。
30分前行動。早く着き過ぎたかな?
「ようそこの彼女! きゃわい〜ね!? 良かったら俺らと楽しいことしよ〜ぜ!」
「最高に最高で最高な最高をお届けだぜ!」
「えっ、えっと…彼氏が居るので……」
和奏ちゃんナンパされてる〜!!?
30分前はちと早過ぎるんじゃないかな?
僕は可愛らしいワンピースを来たどこぞの清楚系アイドル顔負けの美少女と、ナウでヤングな2人のリーゼントがウェイウェイしている現場に向かって走り、早速ミッションを開始する。
「ごめんね和奏! 待った〜!?」
「幸にっ…幸守先輩!!」
和奏ちゃんの方からも駆け寄って来て、タックルさながら僕に抱き着いて来る。唯香やナユタの威力とは比べ物にならない儚さだ。抱きしめ返したら骨が折れるのでは?
「んあぁ〜何だテメェ!?」
「野郎はお呼びじゃね〜んだよ!!」
和奏ちゃんのホールドをそっと解いてから、わかりやすいナンパ男たちの前に立つ。
「この子の彼氏ですが何か?」
「喧嘩売ってんのかゴラァ!?」
スカしてやると当然、胸ぐらを掴まれる。
「おっといいのかな!? 」
「はぁあ!?? ビビッてんのか!?」
僕はほくそ笑み服の値段を見せる。こんなこともあろうかと、値札をそのままにしておいて良かった。コイツをくらえ庶民!!
「汚れたら、君たち弁償だけど〜!?」
「だだだだ、だにぃいいぃ〜!??」
「コイツなんてもん着てやがんだ!??」
庶民はビビッて僕の服を放した。
見たか、これが庶民では手出しできない高級お洋服の底力だ! 一昨日来るんだね!!
「おっと? 既に服にシワができてしまったようだ。これではせっかくの◯◯◯万円が台無しだよ。ここは警察を呼んで、服の弁償をしてもらわなければ…あ〜もしもし警察ですか?」
「すみませんでしたぁ〜!!」
「若気の至りだったんですぅ〜!!」
ナウでヤングが尻尾を巻いて逃げて行く。
ふっ、庶民め。計画通りだよ。
うわああああああああ!!?
こここ、これ僕が弁償とか、しなきゃダメなパターンじゃないよね? ダイジョブだよね?
生きた心地がしない高校2年の夏だった。
「幸兄さん格好良いです! あんな怖そうな人たちを覇気だけで撃退しちゃいました!」
「まあ、うん。僕の覇気ではないんだけどね。服の覇気なんだけどね…」
「お洋服凄く素敵です! その、いつも格好良いですけど、今日はいつもの何倍も格好良いです! ど、ドキドキしてしまいます…」
「ありがとう和奏ちゃん。唯香とナユタが面白がってセッティングしてくれてね。ははははははは、地獄を見たよ……」
まあ、それはさておき。
「和奏ちゃんも可愛いよ。でも、あまり気合の入れたおめかしされると、周りの男たちが放っておかないだろうから気をつけないとね」
「その時は、幸兄さんに守ってもらいます!」
守りたい。この笑顔。
そう、これが今日の僕の任務。
和奏ちゃんの彼氏の振り大作戦である。
絶世の美少女である和奏ちゃんと僕。
理解っていたが、釣り合ってね〜。
だがしかし、唯香のコーディネートとナユタの高級お洋服により100倍のバフがかかった今の僕ならばワンチャン、彼氏に見えなくもないのではなかろうか? イケそうか??
ギリギリ許容の範囲内だと嬉しいな。
「今日は無理を聞いてもらってありがとうございます幸兄さ…幸守先輩……」
「いいよいいよ。これくらいいつでも…は流石に僕のメンタルが保たないから勘弁してほしいけど、たまにはこんなことも面白そうではあるからね。今日は1日よろしくね和奏」
「はい! 幸守先輩!!」
和奏ちゃんが腕に抱き着いてくる。
1日彼女の美少女力が半端ではない。
街行く男どもの視線が全部こっちに集まっている。本当に凄い。殺意も感じる。唯香のボディガードの真似事をしばらく続けていたせいで視線に敏感になっているため、普通に落ち着かないな。できるだけ自然体で居ようとは思うけれど、まあ、出たとこ勝負で来ているわけだし、やるだけやりますか。
「あっ、居た居た! ワカぁ〜!」
「えっ! 本当にワカに恋人が!?」
おっと、和奏ちゃんに事前に聞いていた中学生時代の友達の2人だな。そして、その彼氏さんか。2人の彼氏さんは高校1年生ということだから、今日は僕だけ歳上か〜。
僕がしっかりしなければ。
「モーちゃん! なっちゃん! 2人ともお久しぶりです! そういう2人にも、本当に彼氏さんができていたんですね! 見栄を張って嘘を吐いていなくて何よりです!」
見栄を張って嘘吐いちゃったテヘペロ和奏ちゃんが自らネタバレをして行く。初手がこれで本当に大丈夫なのだろうか。僕たちの戦いはまだこれからだというのに、最後まで生き延びることができるのか?
「へぇ~!? ワカと釣り合ってる感じはしないけど、顔は悪くないじゃない!」
「優しそうな方ですね~」
大丈夫だ。問題無い。好青年の皮を被ることはお手の物だからね。僕は水城院 幸守。水城院家の人間として好青年を全うする!
「どうも始めまして、和奏の彼氏の幸守って言いますね。2人とも今日はよろしくね」
「「…悪くない……」」
とりあえず、及第点は貰えたらしい。
元気っ子が、なっちゃんさんで、おっとりタイプがモーちゃんさん。覚えたぞ。ていうか2人もそこそこレベル高いな。和奏ちゃんが群を抜いて美少女過ぎるけどね。
「初めましてっ! 和奏の彼氏さん! 1つ歳上なんですよね!? あっ、あたしの名前は古町 奈々枝です! 堅っ苦しいのは嫌いなんでナナとか、なっちゃんって呼んでください」
フレンドリーに自己紹介して来た長い髪を左サイドテールにして纏めている活発そうな少女は続けて紹介して来る。
「んで、これがあたしの彼氏の坂峰 聖二君」
「ちーっす! よろしくっす!」
彼女に紹介された体つきの良いキャップ帽を被った少年が帽子を取って軽く一礼する。ボウズ頭に声の張りから言って野球部だな。
いや、知らんけど…。
「んで、こっちの麦わら帽子の子が宮杉 桃花ことモーちゃんと、その彼氏の有馬 翔君! 私たちは全員高1だから、ワカの彼氏さん今日は引率お願いしまっす!」
有馬君は無口なのか、人見知りするタイプなのか、首だけ縦に動かして僕に挨拶する。将隆君の背が小さくなったらこんな感じか。
「なっちゃん、坂峰君、モーちゃん、有馬君でいいかな。よろしくね…」
「幸守先輩!!」
「君の先輩ではないけど何かな?」
「どうやったらこんな美少女をゲットできるんですか詳しく!!」
坂峰君、彼女居るのに乗り込んで来るな。
「詳しくと言われても…」
嘘を信じさせるには、ある程度の真実を織り交ぜて話すと効果的だという。
「和奏は妹の親友でね。初めは、妹と遊んでいたんだけど、その関係で僕ともよく顔を合わせるようになって、少しずつ遊ぶ機会も増えて、そこからは成り行きでね」
「わ、私が一目惚れしました!」
一目惚れするには僕は少しインパクトが足りない顔をしていますけど大丈夫ですか?
和奏ちゃんがボロを出さないか心配だ。
「いいなぁ〜! 幸守先輩の彼女、うちの彼女の10倍美少女っすね!!」
「おいこら〜、ぶっ飛ばすぞ〜! せめて5倍くらいで留めておけ〜」
ぶっ飛ばされるべきだろこの野球部彼氏。
いや、野球部かは知らんけど。
「時間が押してますし、トリプルデートを始めませんか? お話はお食事の時にでも」
モーちゃんに頷き移動を開始する。
久方振りに再会した女の子たち3人は積もる話もあるようで、目的地である遊園地に着くまでの移動中、楽しそうなガールズトークで盛り上がりを見せていた。
やはり、うちの彼女が1番可愛いな。
移動の電車内では全員がイスに座り切る事ができなかったため、僕を含む男子3名はそこから少し離れた電車内の角に寄りかかり、親睦を深めるため雑談に勤しむ。
とはいえ、話題は当然のように彼女の事についてだったが、この3人でいきなり話せと言われてもそれ以外の話題は無いだろう。
「幸守先輩が羨ましいっす! どうすれば、あんなに可愛い彼女ができるんすかね? 妹さんもさぞかし可愛いんでしょうね〜!」
「うんうん。坂峰君、君は1度、彼女にぶっ飛ばされた方がいいと思うよ! 何なら彼女の代わりに僕がぶっ飛ばしておこうか?」
「いいっすね!」
「良くないよ。暴力は反対だ…」
この子にはドMの気があるのかな?
「…………………………」
ミニミニ将隆君は興味ありそうに僕と野球部君? の会話を聞いているが、自分から言葉を発することは無かった。何か聞かれれば答えるし、聞かれなければ一生黙っていますが何か? という顔をしている。
あまり和奏ちゃんのことを詮索されるとボロが出やすいので、僕は坂峰君に同じ質問をして時間を稼ぐことにした。
「坂峰君はどういう風に、なっちゃんさんと付き合う事になったの?」
「えっ! 俺っすか? 俺、実はこう見えて野球部員なんすけど…」
まあ、8割そうだろうと思っていた。見たまんまだ。意外でも何でもない。野球部君(仮)が野球部君(確)に変わっただけのことだ。
「ナナは野球部のマネージャーで、クラスでも席が近くて仲良くなったから、流れで〜、て言うか俺と付き合わん! って言ったら、いいよ〜。って返事貰ったっすよ!」
君たち軽いな。君たちのような子が少子高齢化社会に終止符を打つのだろうね。これも別に知らんけど。ま、まさか、もうそこまで進んでいるなんてことはないか…。
「幸守先輩も、もうヤりましたか!?」
「もって何だ。もって!? 君たちちょっと軽過ぎやしない大丈夫!? 僕と和奏は、まだそこまでは進んでないよ…」
「え〜!? 有馬もヤったよな?」
「…………………………………」
「何か言え? どっちだよわかんねえよ〜!」
まあ、他人に話すようなことではないだろうから黙りでも良いのかもしれない。
「そろそろ到着だね。移動しようか…」
「はいっす!」
「……………」




