↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

58/70

第56話 頼み事


高校生活2度目の夏休みが終わり、2学期が始まって数日。学生の本分は勉強であるからして色恋には現を抜かさず、いつも通りの日常を取り戻した僕たちのはずだったが…。


相変わらず唯香の僕への視線は熱い。


そして、今日は何故だか和奏ちゃんも僕に何か言いたそうな視線を向けて来ている。どうでもいいけれど、どうして彼女たちは毎度僕の両サイドに陣取るのだろうか?


「おい、モテ期野郎! 今から俺様がテメェの春をペしゃんとしてやるぜ!」


友人相手に中指を立てないでほしい。


下校中の僕の前に躍り出て、何やらボクサーの真似事を始める照明君。その規則正しいただの振り子運動で僕に拳を当てられるとでも思っているのだろうか?


受けるのは痛そうなので普通に避けよう。


「やめておきなさい金髪! 幸兄は最強よ!」


最強ではない。


「んなこた〜わかってんだよ! 俺様も幸守にボコられた内の1人だからな!…というか、唯香ちゃんが送るお前への眼差し兄に送るそれじゃなくね!? ここ数日で何があったし!?」


色々とあったさ。主に尋問があった。


「まあまあテルちん! 今更そんな野暮な話は言いっこ無しさ! でも、半年以内に義妹ちゃんが幸守君に落ちたから賭けは私の勝ちってことで、100万円は今年中に私の口座に振り込んでおいてね〜!」


「まだわかんねえだろ!?」


この2人は知らぬ間に何てギャンブルをしているのだろう? ダメだからね?


「お金を賭けるのはダメだよ…」


「大丈夫! 私はお金ではなく、おっぱいを好きな時に揉んでいい権利を賭けたから!」


それで乗っちゃうのは照明君くらいだね。


新園さんのおっぱい100万円か。ふっかけてないかな? 好きな時に好きなだけという意味なら成立するのだろうか? どちらにせよ賭け事で新園さんが照明君に敗ける姿は想像できないけれど、唯香が僕に落ちたと判断するのは早計ではないかと思うよ。


ほらね。今もちょっと、腕を絡ませて来ているだけで、僕を歩きにくくさせるゲームの真っ最中なだけだし、唯香くらいの女の子にもなるとそう容易く恋に落ちるなんてことは無いからして、勝敗はまだ決まっていない。


「ユイは幸兄さんのことが好きになってしまったのでしょうか?…」


「そうみたいなのよね。自分でもビックリしているのだけれど、新園先輩の勝ちね…」


そうか。新園さんの勝ちなのか。口外しちゃうくらいなのか。明日以降、男子生徒諸君からの嫉妬の視線が面倒くさくなりそうだ。困った。


「本人が認めたぞ〜テルち〜ん!」

「だぁあああ〜!! 幸守お前が払えや!!」


「何で僕が!? 水城院家はこの一件に指一本関わっていません! 無関係です! 赤の他人です! 彼は僕の友達でも何でもありません!」


「テメェ! そこまで言うか!?」


「見て見て幸守君これ契約書! ちゃんと直筆の名前に印鑑も押されてるやつ!」


そうか。これはもう臓器の1つや2つ売るしかないかもしれないね。それが嫌なら土下座でも何でもして新園さんに許してもらうしかないだろう。当分は新園さんの犬だね。


いいや、新園さんの猿と言うべきか?


まあ、どうでもいいか。照明君の身から出た錆は自分で何とかしてもらおう。僕も僕で今は何かと忙しい。主に唯香さん絡みなわけだけれど、そろそろ1度腕を放さない?


「………頼みづらくなっちゃいました…」


僕の顔を見詰めてから俯き、シュンとする和奏ちゃん。今日の彼女は何やら元気が無い。


「どうしたのよ和奏? 何か悩み事があるなら私と幸兄が聞くわよ?」


僕も聞かなきゃならないんですか唯香さん?


それは、強制参加なのでしょうか?


そりゃ和奏ちゃんの頼みなら聞くだけは聞くけどね。聞き届けられるかはわからない。


「どうかしたの? 和奏ちゃん」

「…ユイ…幸兄さん………実は…うぅ…」


和奏ちゃんがしばらくの間、僕と唯香に向かい可愛らしい百面相を見せた後、僕に向かい意を決して話し出す。


「実は幸兄さんにお願いがありまして!…」


「…うん……」


いいけど、難しくないのでお願いします。




親友が困っているからと、義妹に容易く貸し出されるか兄とはいったい何なのか? ひょっとしたら可愛い妹を持つ世の中の兄という生物に人権は無いのだろうか? たぶん無いな。


校内1位2位を争う美少女の義妹を持ってしまった義兄、水城院 幸守。高校2年、夏の日の悟りであった。


時は少しだけ遡る。


5日間勉学に勤しみ、ようやく訪れたはずの細やかな休日。我が家の変態メイド、水城院 ナユタの部屋。ここは、決して入るまいと思っていた変態の巣窟である。


「アンタ本当に変態なのね…」

「それ程でもありますね!!」

「褒めてない。褒めてないんだよナユタ…」


壁一面にどこでどう盗撮したのかわからないアングルの僕の写真が張り巡らされている。そもそも僕はナユタに写真を撮られた覚えなど無いはずなんですけどね!?


僕は反対したんだ。それなのに唯香がナユタに説得されて、自分の部屋に幸守様のお洋服ならいくらでもありますと言うから来てみればこの有様だ。僕はどんな顔をしているのだろう。気分がとても優れない。


「…これと………これと…これ!…あとこれも欲しいから後で焼き回ししてメイド!」


「ほう〜。お目が高い。こちらは中々の激レアショットですよ! 見事な目利きに免じてその願い叶えて差し上げましょう!」


「君たちは何しにここに来たのかな?」


変態って伝染するのかな?


もう、帰っていいかな?


帰ってふて寝してもいいよね?


「そ、そうだったわ! うっかり幸兄に釣られて本題を忘れるところだった! もう、惑わさないでよ!」


何故、僕のせいみたいになっている?


解せぬ。


「メイド、わざわざ買いに行かなくても幸兄の服なら自分の部屋にいくらでもあるって言ったわよね。早速見せてもらえる?」


「もちろんですとも! さあ、ご覧あそばせ唯香様! これがナユタが厳選した今時ファッションを遺憾無く取り入れた、行列のできない高級アパレル店で札束叩いて買い占めた幸守様に似合いそうなお洋服の数々です!!」


変態メイドが自室のクローゼットをドバっと開けると、何故か男物のお洋服がところ狭しと収納されていた。


女物の服が無い! 自分の服 is どこ??


「こっ、これは!? 確かに幸兄に似合いそうな服ばかりがこんなに…す、凄い…60着はありそうだわ。どうしてこんなに…」


「ナユタはこう見えましても、アルティメットハイパーコンバットメイドという高収入な職に就いておりましてね〜!」


形容詞が長いが、そんじょそこらのメイドの働きでは無いから区別は必要かもしれない。


「人の10倍働けますがナユタのモットーですので! お給金も人の10倍貰っていたりするのですよ!!」


実際このメイドは人の10倍働く。ナユタ1人でこのお屋敷を管理できていること自体が最早人の技とは言えない。そりゃ彼女が人の10倍お給金を貰っていても誰も文句は言えないだろう。そこら辺のメイド10人雇うのと同程度の労働力なのだから…。


天はナユタに全てを与えたが、与え過ぎて変態まで与えてしまったんだ。何てことをしてくれたのだろう。残念完璧超人だ。


「ナユタのお金は9割以上幸守様のもの! 必要な分以外は幸守様のために使う! これがナユタの生き甲斐なのです!!」


「くっ!! わ、私だって……」


「唯香さん!? 張り合わなくていいから!」


ナユタはきっと宇宙人なんだ! 人の身で、真似をしようとしてはいけないんだよ!?


「僕のために使わないでってば!? 前にも1度言ったよね!? ナユタの稼いだお金は全てナユタのために使ってって!」


「はい! ですので、ナユタはナユタの生き甲斐である幸守様のお洋服にも出し惜しみすることなくお金をかけているのです!」


くっ!! 何を言っても無駄か…。


クーリングオフは、もう厳しいか。


「わかった。わかったよ! ありがたく使わせてもらうけど、これ以上はいらないから! 大体、ナユタの服はどこにあるの!?」


「こちらの隅に…」


メイド服が5着あった。


他には……見当たらないな。


「自分の服も買おうよ…ああ、もういい…今度何かプレゼントさせて……」


「「えっ!??」」


唯香まで反応して来る。


「こんなに僕の服買われて、何も返さないわけにいかないでしょ!? 罪悪感で胃が痛くなって来たよ! ぼ、僕は…高いものを人に奢られる行為があまり得意ではない……」


「まあ、わからなくはないけれど…」


庶民派の僕に同意する庶民派の唯香。


「幸守様専用高級お洋服を60着買うと、罪悪感に訴えかけることにより、幸守様に1着お洋服をプレゼントしていただく権利を得る! これが、噂の等価交換というやつですね幸守様ぁ〜!」


「天秤がぶっ壊れてるよ! 本当にお願いだからもうやめてぇ〜、僕の心が痛い…」


「ドンマイ幸兄…」


僕を慰めながら、当たり前のようにコーディネートを始めないで、使わなきゃ買い損だから仕方が無いとは言っても、そもそもこれらは1着いくらくらい、す…………。


僕は値札を見なかったことにした。


それと、もう少しナユタの要望を聞いてあげようと思った。僕に返せるものはプライスレスになってしまう。本当にパイルバンカー並の衝撃で胃に穴が空きそうだ。


口から血も出て来た気がする。


気のせいだった。


「こっちも捨て難いわね〜」

「ナユタはこちらが良いかと!」


「そうね。どれも良くて悩むわ…」

「全て最高級品ですので〜!」


「……………………………」


お家に帰りたい。


ここだけど。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。