第52話 退院
入院生活がそこそこ長引き、残りの夏休みの大半は耳のケガを治すことに費やされることになってしまった。水城院家のお屋敷は僕よりも優秀なナユタが守ってくれているから、何も心配はしていない。心配しても無駄だ。ナユタにできないことならば、僕が居たって結果は変わらないと思うからね。
せっかくの夏休みだというのに、唯香は毎日のように僕のお見舞いに来てくれた。退屈している僕の話し相手になってくれていた。僕と話している時の唯香は本当に楽しそうだった。この子は僕のことが好きなんだなと実感することができた。
水城院家が雇っているプライベートポリスの皆さんには、僕が退院するまでの間、唯香を護るお仕事を頑張ってもらっている。
その中の何人かも、僕のお見舞いがてら挨拶に来てくれた。今後ともよろしくお願いしますと、僕に言われても困るのだけれど?
友人もちょっと高い熟したバナナを肩に担いで何度かお見舞いに来てくれた。
照明君曰く、唯香のような子のことを、ツンデレ美少女と言うらしい。特にツインテールはツンデレ率が高いそうだ。それが世界のお約束だとか何とか言われたが、正直彼の話は8割覚えていなくても問題は無い。
今の唯香はツンデレのツン期を終えてデレ期に入ったらしい。デレ期と言われても、普段とそこまで変わりはない気もするのだけれど…。
退院して水城院家のお屋敷に戻ってみると、唯香もナユタも源治郎さんも僕を温かく迎えてくれて、友人3人と和奏ちゃんも加えて退院おめでとうパーティーなるものが開かれた。また源治郎さんを巻き込んで何てことをしてくれたのだろう。首謀者は十中八九、照明君と新園さんだろう。コイツらは水城院家のお金でバカ騒ぎをしながら飲み食いしたいだけなのだ。1度お灸を据えてやりたい。
源治郎さんも源治郎さんだ。少し彼らを甘やかし過ぎなのではないだろうか?
「退院おめでとう幸兄!」
「幸兄さん! おめでとうございます!」
僕のケガが回復すると同時に、唯香にも笑顔が戻った。それってつまり、僕がケガをする度に悲しい顔をされるってことなのかな?
なるべくケガしないように気を付けよう。
「ありがとう2人とも…」
源治郎さんも笑顔で僕を見詰めて頷いてくれる。僕は心の中でただいまと呟いた。
唯香と和奏ちゃんに祝われると嬉しい気持ちにもなるし、こんな催しを開いてくれたことも嫌ではないと思えるのだが、入院生活から帰って来た僕のことなど気にもせずに食っちゃ飲み食っちゃ飲みしている照明君には何か天誅が下ればいいと思うんだよ。
入院中も人のことをミイラ男だの何だの言って病院でバカ笑いしていたからね。それが彼なりの元気付け方だとしても、やられたからには何かしらお返しは必要だと思うんだ。
「問題ありません幸守様! にぱぁ〜」
「んっ…そ、それは…まさか……」
1滴垂らせば地獄の竈味に大変身でお馴染みの激辛タバスコじゃないか。そいつをどうしたと言うんだナユタ!? いいや、言うまでもないことだろう。いずれかの料理の隠し味に使ったに違いない。というか、あれか!
だってほらもうそこで…。
「んぎゃらあぁああああ〜い! うぐえっ…何だこの激辛ぼぉおぇ〜水、みずぅ〜!!」
照明君に謎の天誅が下っていた。
ドヤ顔のナユタがこちらを見詰めて来る。
僕とナユタは阿吽のハイタッチを決める!
「グッジョブ! 流石はマイメイド!」
「お褒めに預かり恐悦至極!…このナユタ、幸守様のためならばあらゆる任務をノールックで熟して見せましょう!……時に幸守様? 何だか少し、ノリが良くなりましたね?」
「え?…そ、そう?…変?……」
「いえ! ナユタはとても嬉しいです!」
それなら何よりだよ。
「いや〜、無事で何よりだよ幸守君!」
「ここでくたばる玉ではないよな…」
新園さんと将隆君も何度かお見舞いに来てくれて事情は把握していた。
「たまたま、運が良かっただけだよ…」
「たまたま運良くてピストルの弾が避けれるなんて本当に幸兄は運が良いわよね!」
唯香さん? 何か怒ってない?
「ユイ、その話は本当なんですか!?」
「本当よ! 私目の前で見たもの! 何なら棒切れで弾丸弾いて軌道を逸らしてたわよ」
「神業です! 幸兄さん凄過ぎます!!」
「だ、だから、たまたまだよ?…」
100%できると思ってやったわけではなかったけれど、やってみたら案外成功しただけなので、本当に当然のようにやってのけたと思われても困る。
唯香には口止めしておくべきだった。
「幸守君幸守君! ただ者じゃないと思っていたけれど、君はいったいどこの星から来たスーパー何ヤ人なんだい? 強さの秘訣は!?」
「スーパー何ヤ人ならそこで激辛タバスコと戯れてモガモガしているでしょ。申し訳無いけれど、僕は地球育ちの地球人だよ…」
「ほうほう。つまりクリマロンですな!」
地球人の中では最強? それも無いかな。
「じゃあ、あっちで自爆している金髪のお調子者は髪の色が違うようだけれどヤッチャムなのかな? ムチャしやがって…」
「質問タイム終わり! 幸兄は病み上がりなんだから、無茶させないでよね! 後は私が幸兄の面倒を見るから、来賓の皆様は食事でも楽しんでいたらいいんじゃないかしら!」
そう言いながら唯香が僕の腕に抱き着く。
「えっ!? ゆ、ゆゆ、唯香さん!?」
「…何よ………嫌?………」
「い、嫌では…ないけど………」
「なら、いいわよね?……」
これが照明君曰くデレ期というやつか!?
「ユイだけズルいです! 私もです!」
「ちょっ!? 和奏ちゃんまで!?」
「ふふ〜ん。モテモテですなぁ〜!」
「ですな〜…」
新園さんにからかわれる。将隆君まで…。
2人に見られるのはまだマシだったかも、メイドの仕込みでダウンしてしまった照明君にこんな姿を見られたら、よろしいならば戦争だと言われて飛び膝が飛んで来るところだったかもしれないからね。
「両サイドが埋まってしまいましたのでナユタは真正面から失礼しま〜す!」
最後にメイドさんが飛び掛かって来た。戦争屋のお猿がダウンしていてもナユタさんが万全では意味が無い気がする。
「う、動けないんですけど…」
「離れなさいよメイド! 仕事して!」
「幸守様の都合の良い女がナユタのお仕事ですので! まあ、これは、ナユタの都合で抱き着いているだけなんですけどね〜!」
「幸兄さん私も、幸兄さんのアチョーなスゴ技見たいです! 私も見たいです〜!」
「……また今度、機会があったらね…」
復帰早々、僕は揉みくちゃにされて再び体力を失うのであった。




